第六章 特別クエスト編
第68話 慟哭
____東京某所オフィスビルの一角
「佐々木さん、どうだね被検体αのデータ取りは順調かね?」
部下にそう尋ねるのはロマンスグレーのオールバックにビジネス風眼鏡をかけた年の割にはキリっとした印象の【ディスティニーフェアリー】の開発責任者の後藤専務だった。
「それが、ちょうど報告しようとデータを纏めていましたが、αの自我の消失を確認しました。」
そう答えるのは次世代AI開発プロジェクトに携わる佐々木さんで、黒髪をポニーテールでシュッとまとめて赤ブチ眼鏡が素敵な20代の女性だ。
「ふむ。ではその報告が出来上がったらすぐに声をかけてくれ。」
しばらくして完成した報告書を受け取り真剣な表情でその内容を吟味するかのように目を通した。
「佐々木さん、ここのテクニカルスキル要検討というところを詳しく聞かせてもらえるかな?」
「はい、ロッ・・αのテクニカルスキルがSSに設定されており完璧すぎるんです。一般公開並びに実装時はもっと柔軟に5段階くらいのランダム設定をつけた方がよいかと。」
「なるほど。不器用なキャラが居ても面白いんじゃないかと?」
「そうなんです!。中にはプレイヤーが逆に教えてそれを学んで成長するというのも!面白そうじゃないですか!」
佐々木さんは少し興奮気味に話し始めた。
後藤専務は、それが面白かったのか、微笑みながらなるほどと繰り返しながらうなずいた。報告内容に目を通しながら続けた。
「AIの挙動については、問題は無さそうで・・・プレイヤーとの関係は良好か・・・」
「それについては、もう最高の関係のようで・・・」
そう言うと佐々木さんは瞳を潤ませ言葉を詰まらせた。
佐々木さんは仕事熱心でいて、それでいてとても情に厚い人の様だった。
「ありがとう。非常に参考になる興味深い報告内容だったよ。それで最後に救済措置は必要だと思うかね?」
「はい絶対に必要です。それでいて次は消失しないAIを与えることを望みます。」
その後も佐々木さんは熱く語っていた。あのような見てる方が心を引き裂かれるような事は一度で十分だと・・・そして救済措置もプレイヤーに意思決定を委ね、その本人の意思次第にすることで一つのゲームが完成すると熱弁していた。
~~~~~~・~~~~~~~~・
彩音は町のリスポン位置でひっそりと佇むロックスを震える瞳で見ていた。
声をかけられずにいた。声をかけて帰って来なかったらその現実を受け止めるしかない。
ロックスがいつものようにこちらをチラリと見るのを期待するが、ロックスの瞳にはいつもの彩音だけにわかる光が消えていた・・・
姿かたちはそのまま・・・そこに居るのに。
だがそれは彩音を視てはくれないのだ。
声を掛けるまでも無く。嫌が応でも突きつけられる現実がそこにはあった。
(ロ・・・ッ・・くん・・・・)
それでももしかしてとの期待を込めて呼びかけずには居られなかった。
無言の佇まいがその返事のように彩音に聞こえた。
もう俺はいないよ・・・
彩音は耐えきれずそっとモニターを閉じた。
そして一人部屋で、
~~~~~~・~~~~~~~~・
彩音の両親もいつもの家では明るい彩音と打って変わった表情に心配していた。
時折部屋からすすり泣く声が聞こえてきていたのである。
何かあったの?と聞くも、何でもないとの返事しか帰って来ない。
思春期にはつきものだろうし、しばらくそっとしておこうと両親の中で話していた。
学校には、きちんと行くというので、両親も見守ることにした。
次の日の朝、暗い表情は変わらなかったが、学校に出かけた。
そして学校についた彩音は心ここにあらずでぼーっと窓の外を眺めてるばかりだった。良いのか悪いのかちょうど桜の花が咲いている時期だった。その日は気分が悪いと言う事で彩音は担任の先生に申し出て初めて午前中のみで早退した。
担任の先生もいつになく暗く青い顔をした彩音を心配し、すぐに帰宅許可を出した。
彩音は家に帰らずに校舎の窓の外から遠くに見えた一本桜のある所を目指した。
ようやくその場所を見つけたどり着くとそこには見事に咲き誇った一本桜が湖面の淵にに堂々とそびえ立っていたのである。それはディスティニーフェアリーでみる桜とはまた違った力強さと美しさを兼ね備えていた。
一歩近づくとブワッと風が舞い起こり桜の香りと花弁が彩音の頬を心地よく撫でた。
まるで元気出せと囁いてるように思えた。
(そうだね、いつまでもクヨクヨしてたらロッくんに笑われちゃうな。)
しばらくの間桜を見上げれる位置に座り込んでその木漏れ日と桜の花の美しさを楽しんでいた。
そうするとスマホが鳴った。取り出してみると着信は親友の美咲だった。
「何かあったでしょ!彩音今どこなの!?」
親友の声を聴くとまた、美咲とも【ディスティニーフェアリー】の中でロックスと一緒に狩りをした時の事がフラッシュバックした。
「なんでも・・ないよ・・・グスッ・・」
「何でもないわけないでしょ!そこどこよ!」
「〇〇の一本桜の所・・・」
「わかったすぐ行くからそこに居なさいよ!」
美咲は言い終わるかどうかというところで一身上の都合で早退します!と言って学校を飛び出していた。
すぐに息咳ききって走ってきた美咲は彩音の横にドスンと腰を下ろした。
しばらくして息を整えた美咲は開口一番こう言った。
「何!?もしかして男!?」
「えへ・・・そうかもしれない。」
彩音は泣き笑いしながら、想像もしなかった美咲の問いに笑って答えようとした。
「誰よ!私がぶん殴ってやるから誰が泣かしたのよ!?」
「ウフッ・・美咲も会った事あるよ、あたしもぶん殴りたい・・・でも・・・」
言うそばから涙がとめどなく溢れてきた。
「私も会った事ある?学校の奴!?」
彩音は首をブンブンと振りながら涙をぬぐって答えた。
「ロッくんなの・・・」
「はぁ~!?ロッくんってロックスでしょ?・・・はぁ~!?。」
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