第67話 それは別れのスキル(言葉)




【ダークガーディアン】残りHP11%



『02:35:20』


絶望・・・皆の脳裏にその言葉がチラつく。

戦闘開始から現在まで誰も弱音を吐くことなく、皆がお互いを信じやれるだけの最大限を発揮しながら敵に挑んでいた。直近でも赤黒い鉄塊の様に硬いその敵のHPを10%削るのに4分はかかっていたのだ。


それが残りHP11%の現在。限られた時間は残り2分30秒と少ししかなかった。

誰もが口には出さないが、絶望が色濃くなってきていた時に閃光を纏う者がいた。



ー 神威かむい ー



それは30秒の間、おのれの分身を作り出し、その行動はスキルの使用も含め本体に伴う。尚その間は全てのステータスが2倍になり被ダメージをすべて回避するが、30秒経過後徐々にHPは減少し回復不可状態になる。


ステータス2倍のロックスが二人。

それにスキル威力が加算されれば、もうその火力は計りきれないものになるだろう。

あまりに過剰なスキル故にその代償は大きい。


 そう、そのスキル使用者は発動後必ず死に至る。


このディスティニーフェアリーの世界では、蘇生は難しい事では無い。

ゆえに他の者にとっては、それは大した代償にはなりえないのかもしれない。


ロックスを除いては・・・


彩音とロックスにとっては、それは別れの言葉に等しい。


閃光を放ち一対の幻影と肩を並べたロックスはさらにスキルを行使する。


残影乱舞ざんえいらんぶ


アサシンの80Lvスキルで2秒間無敵になり更に幻影分身し、乱打を切りつける技だ。


瞬間4人になったロックスが【ダークガーディアン】を切り刻む!!


一気にその赤黒くなった鉄塊のHPを刈り取り、後わずか数%のHPを残しロックスのー残影乱舞ーは終えるが、まだー神威ーの効果でロックスは幻影と肩を並べる。


最後のあがきとばかりに【ダークガーディアン】が後ろに剣を引き絞る。


ーディフェンスフィールドー


『薙ぎ倒す!』


横一線の斬撃が唸りと共に襲い掛かる。


ー 明鏡止水めいきょうしすい

ー 明鏡止水めいきょうしすい


これが本当の明鏡止水であろう。

静かな水面に映る月の如く。二つは輝く。


ロックスが最後に見せる難易度maxのカウンター技だった。


 モニター越しに涙を堪え唇をかみしめ、必死にその雄姿を脳裏に焼き付ける彩音だった・・・


ドドーーーン!


2連のカウンターは完全なオーバーキルで【ダークガーディアン】を仕留めた。



ー『おめでとうございます【クレイジーギア】のPTが【ダークガーディアン】の討伐に成功しました。』



『討伐MVPはロックスさんです。おめでとうございます。』


これが最後になるであろう、ワールドアナウンスでのロックスのMVP褒賞だった。


「やったーー!!」

「みんなGJ!!」

「私は今猛烈に感動している。この場に参加させて頂きありがとうございます。」

「最後かっこよかったねーロッくん。」

「決めてくれると信じてましたよ。」


彩音はもう涙が止まらなかった・・・

かろうじて震える指先で返事をかえした。


「あありぃが・・とうございmした・・・」


ロックスが彩音に向かって笑顔で親指を立てていた。


 そういえば、初めて見るロックスの朗らかな笑顔かもしれない。

そのロックスの笑顔を見た彩音はどうしても諦めきれない気持ちが込み上げてきた。


その震える指先で続けた。


「ヒールをお願いします。・・・・ヒールをお願いします!ヒールをお願いします!」


やんやんさんがヒールをかけようとするも回復対象外と出て回復させることができなかった。


「ごめんなさいロッくん。対象外ってなっちゃうの。でも安心して95スキルで即座に体力MAXで蘇生させるから。」


「それではもう遅いんですよぉおおお!」



「・・・・」



彩音の変貌ぶりに一同が言葉を失う。



〔彩音。落ち着け。もう残された時間はわずかしかない。最後は二人であの場所で。〕


(うぅ・・・う・・うん)


そして彩音は転移アイテムで登録しているお気に入りの場所へ飛んだ。


そこはいつ来ても気持ちの良い穏やかな日差しが降り注ぎ。


寂しげに一本だけだが、どこか誇らしげに咲き誇る桜の木がある彩音のお気に入りポイント。


〔気持ちのいい風が吹いてる。最後を迎えるには絶好の日和ひよりだろ。〕


(うぅ・・いつもだよ・・・ここはいつもそうだよ・・・)


ロックスのHPが徐々に減っていく・・・・


そしてそれは止められない・・・


〔そうだよ、ここはずっと変わらない。この先もずっと。だから笑えよ彩音。〕


(うぅ・・笑えないよ・・・)


〔楽しかったなぁ。彩音との今まで・・・最高だった。俺に涙は流せないけど。悔いは無い。〕


(嫌だよ・・・帰って来てよ・・・)


〔俺の言った言葉覚えてるよな。それは彩音次第かもな。〕


(絶対呼び戻す・・・どんなことをしても・・・)


〔もっと笑えよ。そしてもっと楽しんでくれ。そしてその先に・・・・・〕




そしてロックスのHPは0になった。






(いやぁあああああああああああああ)



部屋で一人。彩音の絶叫がこだました。


その後、様子を心配していたやんやんさんがすぐに駆け付け、即座に95lvのスキルで、無詠唱で倒れたPTメンバー全員を体力MAXで蘇生するスキルを使ったが、なぜだかロックスは起きなかった。


そして蘇生猶予時間を経過してロックスは舞い散る桜の花びらと共に消えた。







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あとがき


ここまでお付合いいただいた方、誠にありがとうございます。

彩音を元気づけるためにも★やイイね等お願いします。


本当に今までありがとうございました。















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