第6話 『危険凶悪特殊存在』認定
ソーウが不思議に思うのも無理はない。
今回、トーキョーから召喚されたという三十六番目の勇者はとても強く、思い切りがよかったのだ。
獣型の魔族や魔獣を倒せた歴代勇者殿も、人型に近い魔族と対峙したときは、ためらいやら葛藤があった。
だが、三十六番目の勇者は目の前に出現したモノが自分の進路に立ちふさがった障害物だと判断すると、それが生き物だろうが、物だろうが、一刀のもとに、手加減なく斬り伏せていったのである。
厚生労働大臣のコウウッ・ローセイは懐からハンカチを取り出すと、額に浮かんだ汗を拭き取り始めた。
「にわかには信じられませんが、事実です。何度も確認しましたが、間違いありませんでした」
大量の汗をかきながら、コウウッ厚生労働大臣は情報の確かさを保証する。
コウウッ厚生労働大臣も、この調査結果が間違いであると思いたかった。思いたかったから、再調査を繰り返したのだが、自分たちの仕事に手抜かりがなかったことを再確認するだけに終わってしまった。
「なんて……野蛮な……冷酷非情な勇者殿なのだ!」
「そのとおりです。今回の場合、生還祝い金対象者は過去最低なのですが……勇者遭遇手当は生還、死亡かかわらず発生いたしますので、勇者遭遇手当対象者が過去最高数になりました」
「…………」
「さらに、勇者殿が危険凶悪特殊存在に認定されましたので、すべての項目に対して五割加算となります」
「……危険凶悪特殊存在」
コウウッの説明に、ソーウの表情が険しくなっていく。
まさか、三十六番目の勇者殿が、魔王様が冗談半分で「いくらなんでもこんな凶悪な勇者はいないだろう」と制定されたという、『危険凶悪特殊存在』の条件にドンピシャ該当するとは思ってもいなかった。
「また、今回は死亡魔族数が多いだけでなく、七人衆全滅、四天王全滅、大将軍即死という、かつてない悲惨な結果となりました」
「……ああ。そうだった」
ソーウの視線が泳ぐ。嫌な予感しかしない。
国葬も行った。大将軍レベルの国葬ともなれば、その費用もかなりの額だった。
「よって、役職に応じての加算額が設定最高額になりました」
そうだろう、そうだろう……。
上位役職についていた武官は、誰ひとり残らず全滅したのだから……。
「遺族に用意する見舞金、遺族年金が逼迫し、また、即死特別見舞金、遺体未回収見舞金、遺体損傷見舞金、不運手当、不遇手当、災難手当……の対象者が激増しました」
「…………」
「さらに、勇者殿が危険凶悪特殊存在に認定されましたので、それらの支給額も設定金額から五割加算となります」
「……わかった」
「いえ、まだそれに加えて……」
「えっ? まだあるのっ?」
ソーウは目をまんまるにして驚く。支出があまりにも多すぎる。
「はい。勇者殿の進路にたまたまあった家屋の損壊が……」
「わかりました。わかりました。よ――く、わかりましたよ。後で関連書類に目を通します」
ソーウ・ムウー総務大臣は片手をあげて、コウウッ・ローセイ厚生労働大臣の報告を遮る。
「魔王様が予測していた以上の強さと残忍さを備えた勇者殿が召喚されてしまい、その結果、財源が逼迫しているというのはよくわかりました」
大きなため息をつきながら、ソーウ・ムウー総務大臣は部屋の上座にあるひときわ立派な執務机へと視線を向ける。
「ナイカックゥ・ソーリー宰相の復職は何年後だったかな?」
文官の中では最後まで城に残って勇者殿の接待指揮をとっていたナイカックゥ宰相は、避難の途中に勇者殿に遭遇してしまい、重症を負ってしまったのだ。
ナイカックゥ・ソーリー宰相は優秀で責任感も強いのだが、幸運度は大臣たちの中では一番低い。
「先日、意識が戻られたようですが、医師の診断によると、防御に全ての魔力を使用していまい、傷の治りも遅く、回復に少なくとも五十年はかかるだろうと言われたそうです」
ナイカックゥ・ソーリーと親戚筋にあたる猫しっぽの魔族カン・コーウー観光大臣が容態を報告する。
「仕方がないですね。ナイカックゥ殿には回復に専念していただき、一日でも早い復職を期待しましょう」
ソーウの言葉に、全員が強く頷く。
幸運度の一番高い大臣を残せばよかった……とソーウ・ムウー総務大臣は反省するが、後の祭りである。
「我々だけで、この窮地を乗り越えなければなりませんね」
……ということは、この窮地を乗り越えるにはどうしたらよいのだろうか。
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