第3話 三ヵ月連続

 見た目はとても……貧素な魔王城ではあったのだが、魔王様はケチではなかった。

 むしろ、ここぞというときは、性格が激変したくらい思い切りがいい。


 『夜の世界』に君臨しる魔王様は、内装ではなく、外装に力と予算を注いでいたのである。


 地震、火災、風雪水害といった耐災性強化は当然。


 さらには、まだ一般化されていない耐魔法システム、耐勇者設計、耐ドラゴン工法など、様々な外的攻撃と厄災に耐えることができる城を追求していたのである。


 最も大事な基礎部分など、数年前に『神罰だってへっちゃら強化コンクリット今なら黒い光る羽虫撃滅効果アリ薬剤混入』をドリル注入したばかりだ。


 魔王様は「みんなが安心して働ける住まいづくり」と目指していらっしゃった。


 いわゆる、見た目ではなく、中身重視の居城を好んでいたのだ。


 しかし、そのような一見してわかりづらい構造設計に特化しても、一般参加者の心は掴めない。満足どころか、がっかりさせてしまう。


 内見希望者は、魔王様のお城を見るために集まったのではなく、魔王様そのものを見に集まっていたのである。


「……とにかく、このまま現状に甘んじていますと、三ヵ月連続の赤字になります! すでに水道光熱費の支払いが滞っております。このまま六ヵ月赤字が続きますと、勇者殿に破壊された箇所の修繕費用にまで手をつけなければならなくなります!」


 ザイ・ムウー財務大臣の悲痛ともいえる必死な報告に、同期のサン・ギョーウ産業大臣は、ガシガシと顎のあたりの毛皮をかきむしった。


「水道光熱費……? 『魔素まそーラシステム』があるから自家生産できるんじゃなかったのか?」

「それが、今回、勇者殿がぶち抜いた天井のちょうど真上に『魔素まそーラパネル』が設置されていたらしく、今までだましだまし使用していたのですが、ついに『魔素まそーラシステム』が停止してしまったのですうっ!」

「なんと……」


 サン・ギョーウは言葉を失う。

 魔王城の毎月の水道光熱費は相当なウェイトを占めており、しかも、資源は『昼の世界』より輸入していた。


 ので、魔王様は一念発起して、大気中の有り余っている魔素を集積し、エネルギーへと変換できる『魔素まそーラシステム』を導入したのだ。


 それが停止したという……。


 ザイ・ムウーが狂ったような叫び声をあげた理由がわかった。

 たしかに、叫びたくもなる。

 サンも月に向かって吠えたくなった。


 なんとしても……。

 なんとしても、収入を増やさなければならない。


 なのに……今月の魔王城見学会の参加者三名(うち子供料金が二名)しか集まらなかったとは……由々しき事態である。


「おい! コウ・ホウー殿! 参加者が三名だと? 今月はどんな広報宣伝をしていたんだ! 魔王様が不在だからって、手を抜いたのか?」


 狼耳の魔族サン産業大臣は、三つ目の女魔族コウ・ホウーを睨みつける。


 目の数では負けるが、眼力では負けていない……と思う。

 ウルフ・アイもそこそこ必殺技としてはイイ線をいっていると、サン・ギョーウは思っている。


 なんといっても、魔王様が「うるうるしていてカワイイ。この目で見られたら、みなイチ殺だ」って褒めてくださった視線だ。量よりも質だ! 目が一つくらい多いだけで負けてはならない!


 三つ目の広報大臣は腕を組み、尊大な姿勢でサン産業大臣を見下ろす。

 豊満な胸がぷるるんと、見事な動きを魅せたがだれも目に止めない。

 いや、見つめたら、死角のない三つの目で即効バレて半殺しにされてしまう。


 運動が苦手な文官が多いなか、三つ目の広報大臣は防衛大臣よりも運動能力が高く、攻撃力も高かったりする。


「なによ! 予算が足りないとか言って、広報費を削ったのは、アンタたちでしょうが!」

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