第2話 閑散期
魔王城の見学会は月に四回開催され、参加するには事前予約が必要になる。
繁忙期となるバカンス時期には四回の開催だけでは参加者をさばききれず、連日公開も行っている。
見学会は半年前から予約可能で、有料にもかかわらず、解禁と同時に枠がすぐに埋まってしまう盛況ぶり。
世の中には、金を払ってでも内見したい場所があるのだ。
ちなみに、オプション企画の『魔王様と謁見の間で握手会』に参加するにも、別途料金、別途予約が必要になってくる。
魔王城見学会参加者は三割引で参加できる超人気企画だ。
握手以外にも希望者には、オマケとしてサインを行っているが、ホールで売られているグッズのみにしかしない、という利益追求徹底イベント。
にもかかわらず、リピーターには魔王様からのランダムサプライズがあり、それを楽しみ……いや、生きがいに毎回応募するコアな魔王様ファンもいる。
なので、握手会は抽選制となっており、倍率はものすごく高いのだ。
勇者に遭遇するよりも、魔王様の握手会イベントの参加権を獲得する方が難しい、と巷では言われている。
そんなことを企画する魔王様が統治する魔族たちの国は『夜の世界』と呼ばれ、ずっと夜のままというエリアにあった。
すっと昼のままの『昼の世界』は、人間たちが占拠している。
『夜の世界』はずっと夜なので光合成を必要とする普通の植物は育たず、生き物が棲めない荒れ地がほとんど。
よって、見所が――観光資源が――少ない国であった。
外貨の流入と、雇用の促進を促すために、魔王様は己の住まいを一般人に公開することに決めたのである。
魔王様のお住まいを一度でいいから見てみたい。
もしかしたら家主――城主――である魔王様に会えるかもしれない。
と、人々は考え、口コミが口コミを呼び、国外はもとより、異世界からの見学者の獲得にも成功した。
魔王様が常々口にされている「オモテナシ」が高評価を得ているようである。
プライベートエリアまで公開される魔王城見学会は、無視することができない貴重な収入源であったのだが……。
「我が国の貴重な観光資源が大ピンチなのです! 魔王様が勇者殿に討伐されて以降、魔王城見学会の参加者が怒涛の勢いで減り続けました」
「まあ……それは、しかたがないよな」
サン・ギョーウ産業大臣は「うん、うん」と頷いた。
この時期は『閑散期』にあたる。
参加希望者が減るのは前もって予測できていたので、魔王様もそれに備えて色々と準備をされてきたのだ。
『閑散期』を初めて経験する大臣たちには、あらかじめ、魔王様から説明もあるくらいだ。
だが、ここまで一気に参加者が減るとは思ってもいなかった。
そもそも魔王様不在の城を、魔王城と呼んでもよいのか……この部屋にいる者たちは口にこそださなかったが、内心では疑問に思っていた。
魔王様がご不在の城は、ただの城だ。
いや、この城は、城と定義するのにも勇気が必要とするくらい、城らしくない城だった。
いつの頃からか「みにまりすと」とやらに感化された魔王様のインテリアの趣味は……悪くはないのだが、少々、魔王の居城を飾り立てるには威厳に欠ける部分がある。
欠けるというか、ごっそりと『夢のように絢爛豪華』という描写が抜け落ちている城だった。
いわゆる世間一般大衆が抱く「魔王様のお城」と実際の魔王城では、かなりのブレがあったのだ。
魔王様のお城を訪れた見学者たちや歴代勇者たちは、城内に入ったとたん、ちょっと不思議そうな表情になる。
そして、とまどいをみせながら
「なんか、イメージとちがう」
「洗練はされているんだけど、ちょっと……残念なかんじ」
「本当に、ここが魔王城なのか?」
「引っ越した後じゃないのか?」
と口々に率直な感想を漏らすくらい、内装はシンプル……地味で、調度類など必要最低限のものしか取り揃えていなかった。
おそらく、貴族の屋敷の方が豪奢だろう。
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