リモーネ、開店前。

 レストランリモーネ、プレオープンの前夜。

「だー!!なんとか間に合いそうだ。」

ルッカはキッチンでなんとか明日分のドルチェの仕込みを終え、腰をバキバキと鳴らしながら漏らした。ヴァレンティノは早々に明日の仕込みも終え、窓辺のソファで悠々と葉巻をふかしている。アルロはカウンターで自身が考案した檸檬の酒片手にちまちまとナッツを摘んでいる。

「お前らなんだか余裕そうだな。」

連日の準備で目の下に隈を作ったルッカは二頭をちょっと睨み、ヴァレンティノの近くの椅子にどかっと座った。

「いよいよ明日だな。」

ヴァレンティノは落ち着いているが、どこか楽しそうな声色で呟いた。カウンターで晩酌中のアルロも奥のソファ席の近くの椅子に腰掛け、

「で、明日はどんな流れでいく予定なんだ?」

とヴァレンティノに投げかけた。

「明日の営業は11時から16時まで。とりあえずプレオープンだから今後の夜の営業をどうするかは明日の店の様子を見てからの判断でいいだろう。」

ヴァレンティノはテーブルに立てかけられたメニュー表を手に取りぱらぱらとめくりながらそう返した。ヴァレンティノは二頭がああと静かに頷いたのを確認し、続けた。

「明日はとりあえずフードメニュー3種類、ドルチェ3種類、ドリンク5種類で様子をみよう。」

三頭は各自考案したメニューの中でも自信のある数種類を、プレオープンのメニューとして提供することにした。


 翌日早朝。

「よし!お前ら。開店準備だ!」

ヴァレンティノはまだ辺りも薄暗い中、二頭を叩き起こした。

「…んだよ。まだ真っ暗じゃねえか。」

ルッカはうんざりしたようにベッドでもぞもぞしている。

「おいおい。気合い入りすぎじゃあねえか?」

ルッカもくあっと大きな欠伸をしながら部屋からのそのそ出てきた。

「こういうのはな、初めが肝心なんだよ。とっとと準備しろ。」

ヴァレンティノは手に持っていたハタキで、鞭のようにパシパシと手のひらを叩きながら一階へと階段を降りていった。

 数分後二頭は身支度を済ませ一階へと降りてきた。

「まずは掃除だ。」

ヴァレンティノはルッカに箒を、アルロに雑巾を押し付けながら、窓の桟や食料のストックを入れている棚などをハタキでぱたぱたと叩いて回った。それに続き二頭も眠そうに店内の清掃を始めた。ルッカは箒で床を掃き、ルッカは窓を磨いていく。ようやく朝陽が登り店内を明るく照らした。開け放った窓からは朝の風がそよそよと吹いている。

「キッチン使うぞ。」

一足先に掃除を終えたヴァレンティノは、そう言うとキッチンへと入り冷蔵庫を漁ったり、オーブンの調子を確認したりし始めた。

「今日はいい天気だな。」

アルロは最後のカウンター横の窓を拭きながら、陽の光をキラキラと反射する水路を眺めた。そして、窓を拭き終えると、一人黙々と作業を進めるヴァレンティノの方に視線を投げかけた。

「お?」

アルロが声を上げた。その視線の先には、ヴァレンティノによってオーブンからちょうど取り出される大きな角皿。それを見たアルロは少し何かを考え、自身もキッチンへと入り作業を始めた。そんなアルロの様子を横目に見ていたヴァレンティノは、ふんと満足そうに鼻を鳴らした。


「ルッカ。朝飯だ。」

床掃除を終えてカトラリー類を磨いていたルッカはキョトンとしている。

「朝飯??」

ルッカは頭にクエスチョンマークを浮かべながら二頭が座るカウンターに移動した。カウンターテーブルの上には籠に盛られたクロワッサンとカプチーノ。

「賄いつきとはな。」

アルロはきょとんとしているルッカをよそに、悠長にカプチーノを啜りいい出来栄えにニヤッと笑った。

「福利厚生は重要だろう。それもブランディングのうちさ。」

ヴァレンティノはさも当然だと言わんばかりに返すと、サクサクと音を立てながら大きなクロワッサンを齧った。そんな二人のやりとりを見ていたルッカは、カウンターの椅子に座り、クロワッサンを一つ手に取り、

「今日の準備してるのかと思ったぜ。」

ルッカはそう言うとクロワッサンを一口齧った。

「…!」

ルッカは黙ってもう一口クロワッサンを齧るとカプチーノをずずっと啜った。

「悪くねえ。」

ルッカが呟くと、二頭は満足げにふんと鼻を鳴らすのだった。


「さあ、オープンまであと二時間だ。お前ら、グラスの準備とカトラリーのセッティングを頼む。」

ヴァレンティノは食器を洗いながら指示した。二頭ははいよーと返事をすると、それぞれ作業に取り掛かった。



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