白熊、作戦会議。

 「なんでこんなうまいメシ作れるのに今まで隠してたんだ?」

アルロは頬杖をつき、空になった皿をフォークで引っ掻きながら投げかけた。ヴァレンティノはてきぱきと後片付けしながら答える。

「マフィアで趣味が料理なんて、なんか格好つかねえだろ。」

「そうか?ドルチェリーア巡りよりかはマシだろ。」

ルッカは自笑気味に呟いた。

「お前も料理するタチなのか?」

アルロがさっとルッカへ視線を移し、投げかける。

「いや、俺は食べる専門だ。」

ルッカは首を横に振った。ヴァレンティノは、アルロから空になった皿とフォークを取り上げながら、

「ルッカ、お前にはドルチェを任せる。」

と告げた。

「いや、待て。俺はドルチェは好きだが作ったことはない。」

ルッカは慌てて言い返した。

「好きなら作れるだろ。」

ヴァレンティノは皿を洗いならが他人事のように言い放った。ルッカはため息をつきながらやれやれと首を振った。ヴァレンティノは続ける。

「アルロ、お前には飲み物全般を任せる」

「はあ?」

アルロは素っ頓狂な声をあげた。

「三頭しかいないんだ。役割分担は必要だろう。」

ヴァレンティノは二頭を交互に指差した。二頭は目を見合わせげんなりした表情を浮かべた。

 次の日、なんやかんや各自メニューを考えることとなり、アルロは頭を抱えた。

「何も思いつかねえ。」

無い知恵を絞り出し、思いついたものを紙にメモしていく。


「じゃあ、俺から。」

ヴァレンティノはフードメニューの案を示した。そこには昨日のパスタや、シーザーサラダ、ピザ、カプレーゼなどが書かれていた。

「王道って感じだな。」

ルッカがメニューを見ながら漏らした。

「あ?」

ヴァレンティノは眉間に皺を寄せながら唸った。

「いや、なんでもない。俺はドルチェを考えた。」

話を逸らすように彼はメモを開いた。そこにはティラミスやパンナコッタ、ジェラートなどが書かれていた。

「俺が好きなドルチェだ。」

ルッカは堂々と発表した。

「普通だな。」

ヴァレンティノは鼻を鳴らした。ルッカはヴァレンティノをマフィアよろしく睨みつけた。

「アルロ、お前は?」

ヴァレンティノはアルロに視線を移し、問いかけた。

「あー、俺はあんまり思いつかなかった。」

アルロはごにょごにょと小さい声で言うと、胸ポケットからメモを取り出し二頭の前に差し出した。

「レモネード、レモンソーダ、レモンチェッロ…。」

ルッカがメモを見ながら呟いた。

「まあ、レモンが好きってのもあるんだが、俺たちはリモーネだろ。これくらいしか出せなかった。まあ、なんだ、忘れてくれ。」

アルロはそう言うと、メモを引っ込めようとした。その手をヴァレンティノが勢いよく掴み叫んだ。

「これだ!」

ルッカは眉を顰め、ヴァレンティノを怪訝そうに見つめる。ヴァレンティノは前のめりになり、熱弁し始めた。

「いいか、普通の料理を出す普通のレストランを出したところで競合とぶつかるのは避けられねえ。」

と言うと、ヴァレンティノ自身がメニューを書いたメモの裏側に何かを書き出した。そこには「白熊」「レモン」「元マフィア」の文字。

「一番重要なのはブランディングだ。」

ヴァレンティノはそれらの文字を丸で囲み、線で繋いだ。

「ブランディング?」

アルロは聞き慣れない言葉に、眉間の皺を濃くした。

「なるほど。ブランディングとはいわば、他店との差別化だ。」

ルッカは納得したように頷き、そう説明した。すると、ヴァレンティノは頬杖をつきながら、マフィアのような顔でにやりと笑った。

「俺たちが使える武器を掛け合わせて唯一無二の存在を生み出せれば、…勝ちだ。」

 こうして『レストラン リモーネ』が生まれたのであった。

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