大男たち、引っ越す。

 ボスを失い、家も失い、大男たちは夜の海岸で身を隠しながら今後について話し合った。

「ボスがいないんじゃ、新たに派閥作る気にもならねえ。」

大男が呟くと、一緒にいた別の大男がため息混じりに

「俺はもうマフィアはごめんだ。」

そう呟くと、傷だらけの大男の3つの影は立ち上がり、葉巻の煙を燻らせながら歩き始めた。


 一週間の長旅の後、大男たちはイタリア北部、水の都ベネチアに到着した。街中を走る水路にゴンドラが浮かび、古い建造物が立ち並ぶその光景はまるで絵画の世界のようであった。大男たちはゆっくりとある場所に向かった。


「邪魔する。」

大男たちは小さめのドアをくぐり、のそのそとその建物に入っていく。

「いらっしゃい。」

その店の主は70代の白髪の男であった。店主は大男たちに

「今日はどういったご用件で?」

と椅子を勧めながらにこにこと話す。大男の一人が口を開いた。

「家を買いたい。」

それだけを伝え、椅子に深々と腰掛け葉巻の煙を吐いた。

「ああ。ちょっと待ちなさいね。」

と店主はおろおろとしながら店の奥へと消えると、しばらくしていくつかの書類を持って戻ってきた。

「えーと、おすすめはこの辺りかねえ。」

店主が書類を机の上に広げると、大男たちはその小さい文字を一生懸命に読み始めた。

「ゴンドラの浮かぶ水路の見えるおしゃれ物件…花畑隣接の静かな家…」

大男は顔を顰めた。

「もっと他にないのか?」

大男は凄みのある声で店主に迫った。店主は困ったように書類を漁り始めた。その時、一枚の書類が店主の腕から机に落ちた。大男はそれを拾って読み始める。

「ああそれはね、すぐそこの通りにある三階建ての一軒家さ。もともとレストランとしてオープンする予定だったんだけど、店主が亡くなってしまってね。造りも特殊だから買い手もなかなかつかなくて。」

店主は資料をじっくりと見つめる大男たちに投げかけた。大男たちはごにょごにょと何かを話し合っている。そして、

「この家を買う。」

という言葉と共に、革張りのアタッシュケースをどんと開いてみせた。その中には数えきれないほどの札束が入っていた。


 「それでは、説明させてもらいますね。」

店主の男は間取りに日当たり、風呂の広さや階段の幅など一通り家の説明を始めた。大男たちは眉間に皺を寄せながら黙って葉巻をふかしている。

「何かご質問は?」

店主の男が尋ねると大男たちは首を振った。店主は引き出しを開けると、一枚の書類を取り出し、大男の前に差し出した。

「では簡単なプロフィールの記入と契約書にサインを。」

大男は小さめのペンを器用に持つと、書類にサラサラと記入をしていく。最後のサインまで書き上げ、大男は書類を店主に渡す。店主は一通り確認した後、引き出しから鍵を渡した。

「ありがとよ。」

大男はそう伝えると、店を後にするのだった。

 店主の持つ書類には、連絡先と「ヴァレンティノ」「アルロ」「ルッカ」のサイ

ン。そして種族『白熊』の文字が達筆な字で書かれていた。



 


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