檸檬と白熊

春野田圃

ボス、イタリアに散る。

 イタリアの輝く海の街、アマルフィ。そこには街に根付いた二つのマフィアの派閥があった。一派は、古くからアマルフィを活動拠点としていた「limone(リモーネ)」、もう一派はここ数年で一気に勢力を広げた「epines(エピネス)」。二つの派閥はアマルフィの海岸沿いの街にそれぞれ拠点を置き、棲み分けを行っていた。しかし、ある時を境にこの二派の間で抗争が勃発した。原因は、エピネスがリモーネ内に送っていたスパイがリモーネの機密情報を外部に漏らし、そのスパイが捕まり身バレしたためであった。


 リモーネ一派が拠点としている屋敷、抗争を繰り広げる二派の戦力差は歴然だった。エピネスはアマルフィだけでなく、近隣のエリア中に多くの拠点を作っていたのだ。

「くそ。」

物陰に隠れている大男が血の流れ出る額を拭いながら吐き捨てた。

「もうこのシマは落ちる!明け渡すしかねえ。」

横で息を切らす大男も悔しそうに呟いた。爆発音の聞こえる廊下を駆け、バンと扉を開けた大男も叫んだ。

「ボス!指示を!!」

辺りでは銃声が響き、部屋内の花瓶や絵画がばらばらと砕け落ちる。

「…」

銃弾の飛び交う中ボスと言われた男は、窓辺のソファにゆったりと座り、葉巻をふかしながら外をじっと見据えた。

「…小童が。めちゃくちゃしてくれやがって。」

ボスはそう呟くと、ソファから立ち上がり部屋を出ていった。大男の三つの影はその後を追う。

「ボス!」

大男たちは叫んだ。ボスと言われたその男は優雅な動きで屋敷の門を出ると、ハットをしっかりと被り直し、敵陣の真ん中へと進んだ。ボスは無言である。数秒の沈黙の後、彼は両手を上に上げた。

「このシマを明け渡す。」

ボスの言葉に、エピネスの男たちは銃をしっかりと握り直した。ボスはニヤリと笑うと、後ろから追いかけてきた大男たちに向かって叫んだ。

「後は好きにしろ!リモーネは解散だ!」

その言葉と同時に銃声が鳴り響き、ボスは倒れた。

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