あたらしいお家をさがして

げっと

あたらしいお家をさがして

「やあ。久しいね、兄さん」


「何週間かぶりだな、ガブライ。元気にしてたか?」


 アジェベルとガブライは互いの姿を認めると、再会を喜んで抱き合いました。


「あれ、もうそんなに経つっけ。奥さんや子ども達は元気かい?」


「おかげさまでな。この間、ラッツァが一人暮らしを始める、なんて言い出して、おれと嫁とで大騒ぎしてたところさ」


「へぇ。ラッツァちゃん、もうそんな年頃なんだ。ほんと、時の流れというのは、あっという間だねぇ」


 ガブライは姪っ子の成長を、自分の事のように喜びました。しばらくの間、アジェベルの家族の話に花を咲かせてから、アジェベルは思い出したようにガブライに聴きました。


「そうだ。ガブライ。なにか、おれに用があるって言ってたよな。良い家を見つけた、というのを手紙で見たんだが」


「あ、そうだそうだ。忘れてた。良い家を見つけたんだよ。兄さん、子供たちが増えてきてさ、今の家じゃ手狭だろう?だからさ、紹介してあげようと思ったんだよ」


 ガブライはアジェベルに付いてくるように言いました。二人は並んで歩きながら、お互いの近況を話し合いました。喧嘩が絶えないものの、良い家庭を築いているアジェベルと、一人気ままに生きているガブライ。対照的な生活を送っている二人は、お互いの生活を興味深く聞いていました。


 やがて二人は白い大きな壁の近くまで寄ると、ガブライはここだよ、と言いました。見たこともないアジェベルは、首を傾げながら聴きました。


「なぁガブライ、これはなんだ?見たことも、聞いたこともないような形だけど」


 不審がるアジェベルを、ガブライは諭しながら先導します。


「おれにもよく分からん。まぁ、見た目はへんてこりんだけど、中に入ってみなよ。絶対に気にいるから」


 自信満々にガブライは言うと、壁に据え付けられた扉を開けて中に入って行きました。アジェベルも、それに続いて中に入ります。


 中に入ったアジェベルは、その広さに驚きました。今の家は家族全員が身を寄せ合わないといけないほど窮屈でしたが、ここは子供達が走り回ったとしてもぶつからないだろう程に広々としていました。それに、隙間風が時折吹いて、凍えそうな思いをすることもなさそうです。


「へぇ、大したところを見つけたもんだね。広いし、風は吹かないし、心なしか暖かいし」


 感嘆とした様子で、アジェベルは辺りを見回しました。それを見たガブライは、得意げに鼻を鳴らします。


「だろ?それにほら、木もたくさん生えているから、前歯が伸びてきても安心だ」


 そういって、ガブライは近くにある柱に手をかけました。アジェベルはしばらく感心したように部屋の中を見回していましたが、そのうちに気になることが出てきました。


「しかし……食べ物はどうするんだ。ここにくるまでに、結構歩いたじゃないか。ここら辺の土地勘はないから、どこに行けば食べ物にありつけるか、想像できたもんじゃない。おまえは一人だから食べ物の確保も造作もないだろうが、おれは二十人の子供達のご飯も確保しなきゃならん」


 アジェベルは腕を組みながらうぅんと唸り始めました。それを見たガブライは、また得意げに答えました。


「それも心配には及ばないよ。ついてきてよ」


 そう言って、ガブライは階段を登って上の方へと上がって行きました。アジェベルがそれに付いていくと、やがて良い匂いがしてくるようになりました。階段を上がった先にある、小さな横穴を抜けた先には、袋に入った小麦粉や、片栗粉なんかがたくさん置かれていました。


「食べ物ならここにたくさんあるから、好きなだけ持っていくといいさ」


「おお、すごい量だな。これなら子供達もお腹いっぱいに食べさせてあげられそうだ」


 アジェベルはまたも感心しながら、並べられた小麦粉達を眺めました。その匂いを嗅いでいるうちに、なんだかお腹が空いてきたので、溢れていた小麦粉を舐めようとした、その時。大きく鈍い足音がこちらに近づいて来るのが分かりました。やがてその音は、近くでぴたりと止まりました。


「やべ。隠れるよ、兄さん」


 ガブライはアジェベルを引っ張りながら、横穴の裏まで急いで戻りました。その直後には、さぁっという音とともに、横穴から眩しい光が漏れ出てきました。


「ガブライ、あれはなんだ?」


「詳しいことはよくわからないが、まぁ、天敵みたいなものだと思う。見つからないに越したことはないよ」


「天敵か。ううん、子供達を危ない目に遭わせるわけにはいかないな……」


 アジェベルは腕を組み考え込みました。その様子を諭すように言いました。


「天敵がいるなんて、今に始まったことじゃないじゃないか。おれたちが子供の時なんか、家の外を走り回っていたときに、鳥に追い回されることなんてしょっちゅうあったじゃないか。ここなら、そんな危険もない。ただただ、二階に上がってこなければ良いだけだって」


 ガブライの言い分を、アジェベルはううんと唸りながら聞いていました。アジェベルはやがて頭を上げるました。


「うん。悪くないな。とりあえずおれ一人じゃ決められないから、帰って嫁に相談してみるよ。その時にもまた、案内を頼めるかい?」


「もちろんだよ、兄さん」


 二人はそう言って抱き合うと、扉を開けて外に出ました。アジェベルは新しい家に思いを馳せながら、家族の待つ巣穴へと帰っていくのでした。


おしまい

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

あたらしいお家をさがして げっと @GETTOLE

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ