第6話夢子さん

夢子さんが初めて家に訪ねてきた時から、もう1年近くが経った。夢子さんがいそうな店やショップはほとんど 訪ねてみたが 夢子さんには一度も会えない。LINE で1〜2度やり取りしたきりだ。夢子さんは体調の良くない僕に取り入って、騙したぐらいに思っているんだろうか。僕はそこまで体調が悪くなかったし、夢子さんに騙されてもいない。僕は全て了解していた。そりゃ 予想よりもリフォーム代が高かったのは 驚いたけれども それでも僕はそれで良かった。きちんと 直せば それぐらいかかっても仕方がないと思っていた。夢子さんは僕を騙したと思っているのかもしれない。全くそんなことないのに。契約書通りにしてもらって全然構わないのに。夢子さん LINE でも送った通り 僕はもう完全に治りました。だから 一度会ってほしいと思っています。LINE はもう 繋がっていなかった。 夢子さんからは全く返事がない。僕は夢子さんの出身大学や 大学時代に入っていた部活のことは聞いたけれどもそれだけだった。電話番号も LINE の番号も知っていたけれど もうどれも繋がらなかった。僕は夢子さんの家がどこにあるのかも正確には知らなかった。会社の名前は知っていても どこにあるのかも分かっていなかった。僕は夢子さんの家と会社、この大事な 2つをちゃんと知らないままだった。僕は夢子さんの会社も電話番号も LINE も知っていた。だからすぐに会えると思っていた。でもこの1年間 全く会うことはできないままだ。夢子さんとはあんなに楽しげに話していたのにこんなことになってしまうなんて思いもしなかった。

僕はあまりにも女性との出会いを簡単に考えすぎていたのかもしれない。僕は日進にある企業に勤めていた頃とても素敵な人に出会えたり、とても綺麗な事務員さんから声をかけられたりしていい気になっていた。素敵な女性と簡単に会えるとそう思っていたのかもしれない。だけどそんなに簡単に素敵な人と出会えるはずはないんだ。今までの そんなことはほんの偶然たまたま運が良かっただけのことで 普通そんな出会いはまずないことが 本当なんだ。僕は今までの出会いをもっと大切にしていればよかったと本当に反省していた。あんなに可愛らしい 直美と付き合えたのも、あんなに綺麗な 夢子さんと出会えたのも普通だったらありえないことだったんだろう。僕はそんなに ありえないことを普通のことのように扱ってしまった。もう僕の前にはあんなに素敵な子たちは二度と現れてくれないのかもしれない。

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