第11話 どこでもヤスリをかけたい、研磨したい

大工はヤスリが大好きだ。

ヤスリを掛けるのに、かなり情熱を注いでいる。すぐヤスリ掛けしたくなってしまう。


家具を作っている最中にもヤスリ掛けをするし、もちろん仕上げにもヤスリ掛けをする。


普段仕事をしているPC周辺にも常に紙やすりを置いてる。


大工は会議でカメラをオフったまま喋るのが日常だが、ずっと会議中自分の机のヤスリを掛けていたことがあった。

2時間くらいひたすらヤスリを掛けていた。


「みてみて!つるっつる!」

「ここ触って!ここ触って!」


と会議が終わってとても嬉しそうに話しかけられた。

よく会議中内職している人はいるが、さすがに会議の相手が机にヤスリ掛けてるとは誰も思わないよな。


でも確かにざらざらの木の表面がつるっつるになっていてすごかった。


紙やすりも何種類も持っているし、サンダーと呼ばれるやすり掛けする電動工具も持っている。

買うたびにいちいち紹介してくれるのだが「そもそも磨く必要ある?」「その2時間で家事手伝ったり、送り迎え行けるよね?」とは聞けない。何かそこに大工なりの美学があるんだろうとは思うからそっとしておく。


ある日、なぞの重そうな機械を持ってきた。

両手で抱えてて、3kgくらいはありそうだった。重そう。


箱ごと持ち込んで洗面所でガタガタやってる。


特に気にもせずいたらお風呂場から


どぅおん!どぅおん!どぅおん!どぅおん!どぅおん!どぅおん!どぅおん!どぅおん!どぅおん!どぅおん!どぅおん!どぅおん!


と何かが暴れて壁にぶつかっている音が聞こえ慌てて見に行った。


大工が壁に向かって機械を掲げ、スイッチを入れると物凄い音でどぅおんどぅおん始まった。


その機械はポリッシャーという種類のものらしく、本来は車の表面を磨いたり洗浄したりするために使うものらしい。


壁に当てる部分はタオルのような布でできていて、円形のノズルが高速回転する。


そして何よりお風呂場がめちゃくちゃ臭い!

ガソリンのようなにおいが充満している。


どうやらポリッシャーにつけるコンパウンドという研磨剤が臭いの発生源。

何とも言えない独特な、薬品の香り。ちょっと気分が悪くなりそう。


それを付けてなぜか車ではなくお風呂場で遊んでいる。

完全に笑顔で遊んでいる。怖い。


後から聞くと、お風呂場の湯垢が気になって磨いてみたということだった。


以後、お風呂場がしばらくガソリン臭かったが確かに壁は完全にピカピカつるつるになっていた。


味を占めた大工は、後日キッチンのシンクとIHヒーターもコンパウンドでどぅおんどぅおんやっていた。

シンクとIHもぴっかぴかになったが、しばらくガソリン臭くて嫌だった。


後にも先にも、ポリッシャーで家の中を掃除したのはその時だけ。

なんでそんなもの大工が持ってるのかそういえば知らないことに今気づいた。

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