第8話 王太子殿下の話
ようやく を消すことができた。
結局 の目的はなんだったのか、どうやって秘術を使ったのかはわからず仕舞いだ。
壊れてしまったからもう言葉らしい言葉も発しなくなってしまった。
でもいつかはわかるだろう。あれには実験体として今後は活躍してもらおうじゃないか。
…私の婚約者にはこんな後ろ暗いところは知ってほしくないな。
あれが入学してきたこと自体がおかしかった。
叔父上の記憶にない入学生。他のものと違い特記すべきことのない純然たる平民。
生まれも不明だった。
ある日降ってわいたように突然 という人間が当たり前のように存在していることになっていた。
はじめは隣国のスパイかなにかかと思った。
でもそれにしては頭が足りない。
ならただの孤児かと思えば明らかになにかしらの意思を持って行動しているように見えた。
不思議で異質な存在だった。
忌々しいことに、あれは身分の高い者たちに擦り寄るような態度をとっていた。
他のものたちは身分を弁えていたのにも関わらず、明らかに。
あの長男や次男がなびいてしまったのも仕方がないと思う。
あの長男は自分が長男であるにも関わらず跡を継げる頭を持ち合わせていなかった。
あの次男は優秀な兄に対して劣等感を感じていたし、宰相の子に珍しく夢見がちだった。
義弟までもがあれになびいたのは少し誤算だった。
義弟は王位継承権を持たないのに、生まれた順番でつけられた第二王子という身分をとても重要視していた。あれに出会ってからはそれが顕著だった。
まぁ、あいつは何度説明しても分かろうとしないし、あいつの母親も勘違いするように育てていたんだろう。ただの罪人の癖に腹立たしい。
そもそも義弟は王家の血を継いでいないだろうに。
…あいつの愚かな行動のお陰であれの“重要性”には気が付けたからありがたい。
あれははるか昔に衰退したはずの秘術を使用していた。
“特定の感情をもって接した相手が自分の虜になる”
魅了と呼ばれるよくできた秘術だ。
ただあれはどのように秘術を手にしたのか、どのように使っていたのかを知らなかった。
使えないから壊すことにした。
無能な者があの秘術を持て余していても仕方がない。
同じ力を持つものが生まれればきっと私が王位についたとき使えるようになるだろう。血筋だけはしっかりとした他の使えない者どもと掛け合わせれば、多少は良いコマになるだろう。…ただまあ元があれらだ。期待はできないな。
全く私の婚約者は詰めが甘い。最後まで見届けないなんて。…まぁそんなところも愛らしいが。
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