常用の乗用

 お題

 ・はとバス

 ・活版印刷

 ・座席表

 ・コンコース

 ・耳鳴り

 ・創造神

 ・プロ根性

 ・鬼に金棒

 ・高値

 ・生乾き


 ここ最近、コンコースで移動する機会が増えてきたのだが、いかんせん人が多くてかなわない。

 まだ日の光が照らさない時間に来ているはずなのに、喧騒けんそうがけたたましく耳鳴りがする。

 生乾きのスーツを来ている自分が言うのもあれなのだが、ここは人の疲れた臭いが集まり、鼻も麻痺させてくる。

 この人の波では席に乗るだけで戦争だ。

 例え早く来れても、場所を早めに確保しなければならず、もう脳内に座席表の地図まで作ってしまった。

 皆一様に自分と同じく、くたびれた顔をしてしまっている。

 全く、創造神は何を考えて、我ら人類をここまで増やしたのだろうか。

 プロ根性に欠けるのではないのだろうか?

 そして雑音の隙間を縫いながら、空気を吐き出し、止まる音が通り抜ける。

 そのまま眼の前に四角い箱が埋め尽くし、はとバスが来たことを認識する。

 また去年より高値になった、その運賃を電子カードで払いつつ、駅の購買で売っている活版印刷のビジネス本を片手に乗車する。

 本と言うものは、移動する片手間として重要なものだ。

 横の窓を眺めてみたところで、そこにあるのはコンクリートの塊か、不自然な自然くらいのものなのだから。

 最近は株も始めたところであり、ここでビジネス書を読んでおけば鬼に金棒だろう。

 そんな記号や文字を一つずつ頭に叩き込んでいる内に、目的地まで瞬間移動してきたようだ。

 そしていつもの足並みで、人の波を綺麗にステップでかわす。使い慣れしたそんな器用な足は、ハローワークへ、慣れた手つきで向かっていった。

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お題消化短編集 火炎焔 @kaenhomura

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