若き監督の悩み
お題
・リハーサル
・ストレート
・マジックテープ
・ミートソースパスタ
・塩対応
・悩み事
・人気者
・年の功
・ゾンビ映画
・鉄条網
「だから、この場面はもっとストレートに考えるべきであってだな」
新進気鋭、若くしてインディーズ映画の監督になった彼には、ある悩み事があった。
周りの人間が、全くと言っていいほど自分の言うことを聞いてくれないのである。
どれだけ気楽に接しようとしても、塩対応でおわってしまう。
今日、日差しの照っているこの日も、そんな新作映画のリハーサルであった。
「じゃあ、バーでミートソースパスタを食べている時に、突然現れたゾンビに襲われるシーンから」
「さっき置かれてたあれですか? あれならもう弁当だと思って食べちゃいましたよ?」
……監督は頭を悩ませた。
これじゃあ人気者になるのは夢のまた夢だ。
誰か、相談に乗ってくれる人とかいないだろうか。
しかし、彼はまだ新人。
年の功でなんでも教えてくれる先輩監督なんてものは、一人もいない。
「……今日はここで解散で」
誰もいなくなった場所で、小道具のマジックテープを剥がし、位置を調節しながらどうしたらいいか考える。
そして、ある一つの結論が出たのであった。
☆☆☆
「ここ、どこなんだろう」
翌日、出演者達はいつもと違う場所に連れてこられた。
「おっと、あぶな!」
一人が壁に寄りかかろうとしたところ、壁全体が棘で覆われていることに気づいた。
「これって、ゾンビ映画でよくある鉄条網?」
「まさか監督、全然言うことを聞かない私達をここに閉じ込めて、逃さない気じゃ……」
「仕方ないだろ! ずっと書き割りの背景でやる気出ねーんだから!」
みんながそんなことを口々に言っていると、壁の外から大型犬の鳴き声が聞こえてきた。
「ま……まさかね」
「いやまて、ここから入ってくるぞ!」
一人の男が指さした鉄条網の先には、犬一匹ほどが通れそうな穴が空いていた。
それを見つけると、犬の鳴き声は複数になり、更に近づいてきていることがわかった。
「今は慌てている時間じゃない! みんなでここを防ぐんだ」
「犬怖い犬怖い犬怖い犬怖い」
「バーケードを作れる素材は揃っている、組み立てていきましょう!」
こうして怯えるもの、指示するもの、前線で働くものなど色々な人間模様を見せながらバリケードは完成し、いつの間にか犬の鳴き声はおさまっていた。
「なんとかなった……」
すると、遠くから拍手が聞こえてきた。
「ありがとう、やっとストレートに緊迫したシーンが撮れたよ」
一晩中考え、彼は彼なりのアイディアと限られた予算で状況を作り出したのであった。
出演者達を閉じ込め、遠目にカメラを回し、本気の焦りを撮ることに成功した。
「そしてみんな、すまなかった」
更にその状況で彼らの本音を聞けて、真にやる気が無かったのは自分であったと反省した。
例え初めてでも、予算が少なくても、監督が一番本気で雰囲気を作り出すこと。それが周りを動かす一番のことだと気づいたのである。
ここからの監督の映画は、面白くなっていくことだろう。
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