第6話 世界の扉が開かれる

 ルーナさんに連れられていった先は、さっきの301号室の中だった。


「ここはボクが契約する部屋では?」


 ゲーム機はここにはない、よね?


「鍵を出しなさい」


 はい、この鍵ね。


「さあ、セレーネ。勇者吾郎を導くのです」


「にゃにゃにゃなぁぁぁぁぁぁぁん!」


 白猫のセレーネがひときわ大きな鳴き声を上げる。


 そして窓の右側の壁に走りよると、さっきと同じように壁紙にカリカリと爪を立て始めた。


「いきなさい。勇者吾郎」


「行きなさいと言われても……どこへ?」


「鍵を使い、扉を開けるのです」


「扉……どこ?」


「扉を開けるのです」


 いや、だから扉はどこなの?


「早くしなさいって!」


 しびれを切らしたルーナさんにお尻を蹴り飛ばされて、ボクはセレーネが爪を研いでいる壁へと激突する。


「痛ってー。何するんですか⁉」


「早く扉を」


「だから扉って――あれ、これ……」


 壁紙の後ろからうっすら光が漏れている。


「これ、扉だ……」


 どういう仕組みだろう。

 壁紙はまるでホログラムのように見えるけれど触れない。むしろ壁紙を触るとそのホログラムが消えて、後ろの扉がくっきりと見えてきた。


「さあ、そこの鍵穴に鍵を」


「は、はあ」


 ここを開ければ満足なんですね?

 わかりました、開けますよ。


 持っていた古めかしい鍵を、ホログラムの向こうの鍵穴に差し込むと、鍵を回してもいないのに鈍い音がして回転しだした。


「おわっ、鍵が勝手に⁉」


 鍵はボクの手を離れ、高速で回転しだす。


「今、世界の扉は開かれました。さあ、勇者吾郎。わたしたちとともに世界を」


 扉が内側に開き、中からまばゆいばかりの光があふれだしてくる。


「まぶしっ」


 光が強すぎて、扉の中の様子は見えない。


「さあ、わたしたちとともに世界を……だからさっさと行けって!」


 またもやルーナさんにお尻を蹴り飛ばされて、ボクは扉の中に飛び込む格好になってしまった。


「痛いですってば。いきなり蹴らないで……ってことどこですか⁉」


 ボクの飛び込んだ扉の中は、何もない、何も見えない真っ暗闇だった。前をゆったりと歩く白猫のセレーネだけがぼんやりと光を放っている。さっきまでの光はいったいどこへ?


「ここは世界と世界をつなぐ、いわば連絡通路みたいなものよ。案内役のセレーネについていかないと、ここに取り残されるわよ」


 おそらくぼくの隣を歩いているであろうルーナさんの声だけが聞こえてくる。

 

「は、はい……」


 なんだかわからないけれど、真っ暗闇に取り残されるのはさすがに困る……。


「さあ、出るわよ。走って!」


 手首をつかまれる。


 白猫のセレーネが走り始め、それに追いつくようにボクとルーナさんも走りだす。


 向こうから光が近づいてくる。

 だんだんとその光が強くなっていく。


 セレーネ、そしてボクとルーナさんがその光に吸い込まれるように飛び込んだ。



「ようこそ、わたしたちの世界へ」


 ここは……。


続く?

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