第5話 わたしはかわいい!
「間違いないわ。吾郎、あなた選ばれたのよ」
さっきから選ばれた、選ばれたって何を言っているんだろう。
ってこの鍵が見えてる?
「ルーナさんはこの鍵が見えるんですか?」
「もちろんよ」
「ナイスさんは何も見えないって……」
「ナイスさん? ああ、パパのことね。パパは何も知らないし何も見えない。セレーネのこともただの白猫だと思っているもの」
ルーナさんはしゃがみ込み、白猫のセレーネと目を合わせて「ね~」と会話を始めてしまった。
「そうですか。ボクは選ばれたんですね。それはありがとうございます。ではこの鍵はお返ししますので、今日のところは失礼して――」
テーブルに鍵を置き、足早に立ち去ろうとする。
「あなたの進むべき道はそっちではないわ」
ルーナさん、そして白猫のセレーネがボクの前に立ちふさがる。
「行くわよ」
ルーナさんにむんずと手首をつかまれて、店の奥へと引っ張られる。
「ちょっとちょっと! 待ってくださいって。だから『選ばれた』とか『行く』とか何なんですか、さっきから。帰らずに話くらいは聞きますからちゃんと説明してくださいって」
さすがにこのままは帰れそうもない。
その謎のSFごっこみたいなのに多少付き合ってあげるから、ボクにもわかるように説明をしてよね。
「そう。先に話をしたい、そういうことね」
「そりゃまあ。そう、なりますね……」
先も後もまだ何も聞いていないし。
「では部屋に向かいながら話すわ。ついてきなさい」
「はあ……」
「鍵は持ってる? 持ってるわね、よろしい」
「え、いや、さっきテーブルに置いて……あれ?」
テーブルに置いたはずの鍵は、握りしめたボクの右手の中にすっぽりと納まっていた。
どういうこと……。
「あなたは選ばれた。わたしたちの世界の崩壊を止めるための勇者としてね」
ああ、ファンタジー的なあれか。
勇者ごっこがしたいの? 男の子ならまだわかるけど、女の子で勇者ごっこはちょっとめずらしいな。
「吾郎。考えていることがまるわかりよ」
「えっ?」
「あなた今、『女の子なのに勇者ごっこはちょっとめずらしいな。かわいい子なのに』そう思ったでしょ?」
「いや、その……」
かわいい子なのに、の部分は思ってないですけど。
「そうよ、わたしはかわいい!」
えっ、そっち?
「これは勇者ごっこではないわ。現実よ!」
「そ、そう、ですか……」
やばい子に絡まれちゃったな。
「『やばい子に絡まれちゃったな。めちゃくちゃかわいいけど』」
「さっきからちょいちょい心の中を読んでる風でいて、脚色してくるのやめてくれません?」
「おかしいわね。セレーネ? なんか吾郎が怒ってるけど?」
ルーネさんがセレーネのほうを訝しげに見る。
「なぁぁぁん」
「え~そんな~♡」
急にルーネさんが頬を赤らめてこちらをチラ見してくる。
「なんです?」
「わたしたち、まだ知り合ったばかりよ。段階ってものを考えなさい♡」
「いや、マジで何?」
「『好きだ。付き合いたい!』だなんて~。いくらわたしが100万年に1人の美少女だからって気が早すぎるわよ~♡」
「ぜんぜん思ってないですけど……」
正直ちょっと痛いし……何よりボクは年下趣味はない。
「ぜんぜん?」
「ぜんぜん」
「これっぽっちも?」
「これっぽっちも」
「セレーネ! どういうこと⁉ 吾郎はわたしに惚れて惚れまくって命を捧げるって話じゃ⁉」
この子怖い。
早く帰りたい……。
「ま、まあいいわ。とにかく、吾郎には勇者となってわたしたちの世界を崩壊から救ってもらいます。いいですね!」
「いいですねって言われても……」
「これは命令です。鍵を受け取った以上、あなたに拒否権はありません」
「そんなこと言われてもなあ。鍵は受け取ってしまったけれど、世界とか崩壊とか勇者とか言われても……」
あ、なんかそういうゲームを代わりにクリアしてほしいって感じかな。攻略に詰まっているのか。まあそれなら手伝ってやらないこともない。
「ゲームならそこそこわかるほうだから、何とかしてあげるよ」
「ゲーム? まあいいわ。早くついてきなさい」
へいへい。
サクッとクリアして帰りますかね。
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