第2話 譲れない条件

「アンケートにご協力いただきありがとうございます。ふむふむ、なるほどなるほど。「家賃」「駅近」「ペット可」ですね。ナイスですね~。この条件であればとっておきの物件がありますよ!」


 そう言ってナイスさんがファイルの中から1枚の物件情報を取り出してテーブルの上に置いてきた。


「もっともおすすめなのはこちらの物件ですね。むしろこれしかないというくらいお客様にぴったりの物件かと思います」


 ナイスさんはこの物件に相当に自信が様子だ。


 どれどれ、どんな物件かな――。


 駅から徒歩2分。

 築30年の鉄筋コンクリート造マンションの5階中3階。

 間取りは洋室の1R(ルーム)で25㎡。

 キッチン、トイレ付き。風呂は共同。

 ペット可(応相談)

 

 敷金礼金ゼロ管理費込みで家賃3万円!


「え、これすごくないですか⁉」


「そうでしょうそうでしょう。今なら部屋の空きもございまして、ぜひおすすめですよ」


 理想的過ぎる……。

 理想的過ぎて何か裏があるんじゃ……。


「もしかして、いわくつきか何かですか……?」


 さすがに事故物件だとか、そういった重要事項の説明があるんじゃ?


「そうですね……。取り立てて何もないですが、もしあるとすれば……」


「あるとすれば?」


「ペット可なので、少々にぎやかなマンションかもしれませんね」


 え、ええ……。重要事項は何もなかった。ホントに?


「内見、してみますか? すぐ近くですし」


 理想的過ぎる物件……でもここで内見したら、よっぽどのことがない限りもう決まってしまいそう。いやでも、今度入社する馬風運送の事情にも詳しそうだしなあ。


 とりあえず見てみるか……。

 

「じゃあ内見お願いします!」


 相当ひどかったりしたら断わればいいんだし!


「ナイスですね~! どんなにスペックを並べても、まずは内見。ご自分の目で確かめないといけませんからね」


 ナイスさんがにこやかに微笑み、イスから立ち上がる。

 ボクもそれに倣ってイスを引く。


「ではこちらです」


 と、ナイスさんが向かったのは、お店の奥の部屋だ。


「ん、はい……」


 正面の入り口じゃないのか、裏口から出るほうが近い、とかなのか?

 首をひねりながら後ろをついていく。


 と、足元を小さな黒猫が通り過ぎていく。こちらを気にする素振りもなくお店のほうへと歩いていった。

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