20頁 母、危篤

 早朝、玄関のカラスドアーを叩く者が。

シゲルが眠い目を擦りながらドアーを開ける。

電報配達員が立って居た。


 「石原さん。電報です!」

 「?・・・すいません」


シゲルは電報を開く。


 『ハハ・キトク・シキュウ・コラレタシ・リョウコ 12・31アサ06; 30』


シゲルの足が震える。

急いで憲司を起こすシゲル。


 「父ちゃん! 母ちゃんが、カアちゃんが」

 「う、母ちゃん? あ!」


憲司が飛び起る。

シゲルは憲司に電報を渡す。

憲司の顔色が変る。


 「シゲル、早く行け! 俺も直ぐ行く」


シゲルは急いで学生服に着替え、机の上の『柘植(ツゲ)の櫛』をポケットに入れる。


 九階、エレベーターのドアーが開く。

廊下を走しるシゲル。

九〇三号室(個室)。

静かにドアーをノックをする。

ドアノブが回り、良子がハンカチで瞼を押さえドアーを開ける。


 「シゲルちゃん、早く入りなさい」


シゲルは静かに病室の中に入って行く。

ベッドに寝ている道子・・・。

良子が、


 「今朝けさ早く血圧が凄く下がっちゃってね。先生が家族を呼んでおいた方が良いって言われたの」

 「今は?」

 「輸血で血圧は少し上がって来たけれど、オシッコがほんの少ししか出ないの。体中、浮腫(ムク)んじゃって」


道子の顔を覗くシゲル。

良子が寄り添う。

突然、病室を飛び出すシゲル。

廊下に一人佇(タタ)ずむ・・・。


 「あれは母ちゃんじゃない。母ちゃんはもう居ない」


シゲルが病院の中庭を観ている。

母との思い出が走馬灯の様に回る。


廊下の奥から憲司が肩を落とし俯いて歩いて来る。

少し不自由な「左足」。

憲司がシゲルに近づきそっと肩を抱く。


 憲司が病室から出て来る。

淋しそうに「医師控え室」に向かう憲司。

暫くして憲司が控え室から出て来る。

シゲルは憲司に足早に近寄る。


 「・・・もうだめ?」

 「・・・難しいらしい。この二、三日が山だそうだ」

 「だめなら早く楽にしてやれば良いじゃないか!」


怒るシゲル。

憲司は信じる様に、


 「・・・母ちゃんは治る! 亮を一人置いては逝かねえ」


シゲルは突然、怒鳴る。


 「帰るッ!」


シゲルの溢れる涙。

                          つづく

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