19頁 事 件
Y新聞一面記事
『師走の二七日。閑静な住宅街に白昼主婦を暴行、殺害、金銭を奪って逃走中!(警察庁広域重要指定事件106号に指定)』
東葛方面特別機動捜査隊(通称・機捜)本部。
玄関脇に立て掛けられた長看板。
『主婦強盗殺人事件捜査本部』
刑事部屋。
機捜・石原班の打ち合わせ。
憲司以下六人(前島・野村・堀内・他)の刑事達が席に着いて居る。
石原憲司(部長刑事)が上席でタバコに火を点ける。
前島刑事を見て、
「ご苦労さん。・・・豊橋から写真を借りて来たんだって? どら、見せてみろ」
前島刑事が背広のポケットから警察手帳に挟んだ写真を憲司に渡す。
「これです」
憲司が渡された写真を見て驚く。
「! 少年か?」
憲司は野村刑事に写真を廻す。
野村刑事が写真を見て、
「えッ! これは片岡さんが描いた似顔絵とそっくりじゃないですか」
前島刑事が憲司を見て、
「混血児です。名前は永田 譲、年齢は十六歳、十二の時、銃砲店で空気銃を盗もうとして逮捕されてます」
「・・・親は?」
「父親は『朝鮮戦争で戦死』。母親は別の米兵と再婚してアメリカに行ってしまったそうです」
「アメリカ? ・・・誰が育てた?」
「母方の祖父母です」
「その爺さんと婆さんは?」
「十歳の時に二人とも亡くなりました」
「十歳と云うと小学校四年生か。・・・可哀想に。でその後は?」
「母の兄に引き取られたのですが転校先の小学校で混血児ゆえに虐(イジ)められて、その後ゴ、反抗期と重なり家庭内暴力・・・」
憲司は亮の面影がだぶって来る。
「・・・で、空気銃か」
「はい。家裁で施設の中学に送られ卒業、一旦は就職したのですが無断欠勤が続き退職。その後は放浪生活と空き巣の繰り返し・・・」
憲司が、
「転落か」
憲司は灰皿に置かれたタバコをまた一服吸う。
写真を見ながら、
「豊橋で二月に主婦を殺して二万、静岡、神奈川、東京・そして千葉で二万四千円か・・・。ずうっと空き巣をやりながら『ここ』まで来たんだな」
堀内刑事が、
「部長。永田は犯行後約三時間の空白が有るんです。駅の改札で最後に目撃された時間が四時十五分。・・・何をしてたんでしょう」
憲司は目をつむり、暫く瞑想する。
そして一言。
「・・・永田はまたここに戻って来るな」
刑事達が一斉に憲司の顔を見る。
つづく
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