18頁 弘子への遺言

 弘子が果物(クダモノ)と、道子の好きな『トルコ桔梗』を持って見舞いに来る。


そっと仕切りのカーテンを開ける弘子

道子が寝ている。

弘子はそっと道子に声を掛ける。


 「・・・ミッちゃん」


道子が目を覚ます。

驚いて、


 「! ヒロちゃん。よくここが分ったわね」


道子の弱々しい言葉。


 「石原さんから電話が有ったの」 


道子はベッドから起き上ろうとする。


 「いいから、そのまま」


弱々しく横に成る道子。


 「・・・ごめんなさい。こんな身体に成っちゃって」

 「そんな事言わないの!」


弘子は道子の手を握る。

『トルコ桔梗』を道子に見せる弘子。 


 「はい、これ」


道子が優しく笑って、


 「桔梗・・・」


道子がテーブルの一輪挿しを見て、


 「・・・枯れちゃったわね」


弘子はニッコリと笑い、


 「換えましょう」


弘子は枯れた桔梗の一輪挿しを持って道子の病室を出て行く。

暫くして、紫の桔梗に変えた一輪挿しを持って病室に戻って来る。

道子がそれを見て、


 「綺麗ねえ・・・。私・・・もうだめかも知れない」

 「やめましょう、そんな話。あ、林檎を剥いてあげる。一緒に食べましょう」


弘子は林檎を剝きながら。


 「・・・腎臓ですって?」

 「そう。・・・浮腫(ムク)んできちゃったの。私の病気、浮腫み始めたらダメみたい」

 「大丈夫よ。こんなに大きな病院に入院してるんだから」


弘子が剥いた林檎を道子の口元に。


 「はい、あ~ん」


道子は弱々しく笑い、


 「・・・母さんみたい」


弘子の剝いた林檎を食べる。


 「美味しい・・・」

 「そう、良かった」


道子は淋しそうに弘子を見つめて、


 「ヒロちゃん」

 「え?」

 「・・・私が死んだらシゲルと石原の事をよろしくお願いします」

 弘子「そんな・・・」


道子は窓の外を見る。


 道子(手話)「・・・変なめぐり合わせね・・・」


弘子は涙を堪え唇を噛みしめる。


 弘子「弱気を起こしちゃだめ! 治る! ミッちゃんは治る。シゲルが大人に成るまで頑張るのよ」


道子の眼から大粒の涙が。

                          つづく

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