11頁 反抗期

 シゲルは中学生に成った。

朝。シゲルの自宅の玄関先。

憲司はシゲルと道子を並ばせ記念写真を撮っている。


 「シゲル、もっと母ちゃんに近付け」


シゲルは恥ずかしそうに、


 「いいよ。早く撮れよ」


道子はシゲルの肩を強く抱く。


 それは夏休みの夜の事である。

外は入梅の雨が続く。

シゲルは中学生。「反抗期」である。

テレビを観ながら食事をしているシゲルの家族。

憲司はステテコ姿で晩酌をしている。

すると憲司が優しくシゲルに、


 「・・・オメー、母ちゃんを虐(イジ)めちゃだめだぞ」


シゲルはきつい眼で道子を睨んで思った。


  『告げ口なんかしやがって・・・』


憲司はシゲルを諭(サト)す様に、


 「母ちゃんは女だ。女を虐めると言う事は弱いものイジメだ」


シゲルは突然、怒り出す。


 「・・・ウルセーな!」


汁椀を道子に投げつけるシゲル。

憲司は驚いて、


 「こら、何をする!」

 「あのババー、『死ぬ死ぬ』ってうるせえからよ」


お膳をひっくり返し、立ち上がるシゲル。

シゲルは台所から出刃包丁を持ち出す。


 「クソジジイ、ぶッ殺すぞ!」

 「何ッ! おお、やってみろ! オメーなんかにヤラれてたまるか」


道子は憲司の前に立ちはだかる。


 「よしなさい、シゲルッ! 父ちゃんにそんな事したらダメッ! 謝りなさい!」


シゲルは道子に刺す真似をする。

憲司はそれを見て、


 「この野郎!」


道子を守り仁王立ちになる憲司。


 「ヤレルもンならヤッてみろ」


畳の上に散らばった茶碗や徳利。

シゲルが徳利に足を取られ、前のめりに倒れる。

包丁が憲司の膝ヒザに突き刺さる。

憲司は刺さった包丁を見て、


 「! オメー・・・」


ステテコの上からにじみ出る血。

驚く道子とシゲル。

暫らく時間が止まる。

我に返るシゲル。

シゲルは道子のサンダルを履いて自転車に飛び乗り、一目散に逃げて行く。

シゲルの後を追って急いで表に出る道子。


窓ガラスを雨水がつたわる。

道子が憲司の傷の止血をしている。

救急車が静かに玄関の前に停まる。

玄関のガラス戸を叩く音。

玄関に向かおうとする道子に憲司が、


 「待て、道子! 包丁を抜け」


驚く道子。


 「え!」

 「包丁が刺さってたらまずい」


道子は急いで包丁を抜く。


 「うッ・・・」


憲司は救急隊員の肩を借り、足を引きずり苦笑しながら車に乗り込む。

救急車が走り去る。

                          つづく

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