12頁 弘子(実母)に会った ②

 夜。雨の市街地

傘も差さずに自転車でさまようシゲル。

遠くでパトカーのサイレン音が聞こえる。

銭湯帰りの『沢村弘子(実母)』が、びしょ濡れのシゲルとすれ違う。

弘子は驚いて、


 「あら? シゲルちゃん?」


振り向くシゲル。


 「あッ! やっぱり。どうしたのこんな遅く」


ジッと弘子を見つめるシゲル。


 「覚えてる? 昔、警察署で会った」


シゲルは驚いて、


 「あ! あの時の」

 「そう。思い出した? こんな遅く中学生がふらふらしてたらだめよ」

 「え? あッ、ジュッ、塾の帰りです」

 「ジュク? 」


疑いの眼でシゲルを見る弘子。


 「塾に行ってるの? ・・・随分背が伸びたわね。来年は高校生でしょう。頑張ってよ」


シゲルは弘子を見つめている。

弘子は母の様な口調で、


 「そんなに濡れて・・・。ほら、この傘、差して行きなさい」


弘子の開いた傘を受け取るシゲル


 「・・・すいません」


シゲルの顔を覗き込む弘子。


 「シゲルちゃん」

 「え?」

 「あんまりお母さんの事、虐(イジ)めちゃだめよ」


『その言葉』を聞いて逃げるように立ち去るシゲル。


 「あ、シゲル! 気を付けて帰るのよ・・・」


シゲルの後ろ姿を見詰めている弘子。

                          つづく

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