5頁 あの日の事

 夜。シゲルの自宅である。

相変わらず今夜も、憲司はパチンコ屋に入り浸りであった。


道子は腹が立っていた。

荷物を纏めている道子。


 「シゲル! 明日、津田沼に帰るからね」


津田沼とは道子の実家である。

シゲルは嬉しそうに、


 「ええ! ツダヌマに?」

 「そう」


シゲルは警察署に父(憲司)を迎えに行った時の事を話してみる。


 「・・・母ちゃん」

 「うん?」


道子はシゲルを見る。


 「父ちゃんてケイジなの?」

 「え? 誰に聞いたの」

 「父ちゃんを迎えに行った時、ケイサツの女の人が言ってた。・・・ケイジって何してるヒトなの?」


道子は返答に困る。


 「・・・ただのオマワリさんだよ」

 「オマワリさん? オマワリさんてパチンコしてるの?」


道子は憲司の『パチンコ癖』に、ほとほと嫌気(イヤケ)がさしている。


この夜もまた、実家に「金策」に行こうと荷物をまとめていたのである。


道子はシゲルの『パチンコ』と言う言葉を聞いて、


 「ウルサイ! 早くご飯食べちゃいなさい」

 「うん。・・・母ちゃん・・・」

 「なにッ!」


怒りの収まらない道子は怒った顔でシゲルを見る。


 「その女の人、僕の事知ってたよ」


シゲルの突然のその言葉に道子の荷物を纏める手が止まる。


 「僕の事をジッと見てさ。・・・大きく成ったねとか、それからニンジンが嫌いな事も。・・・父ちゃんにシゲルの事をいっぱい聞くんだってさ」


道子は荷物の一点を見詰めている。

シゲルと弘子の最後の別れの時を思い出してしまう。


 「誰なのあの人?」


道子は返答に悩み、


 「 父ちゃんの友達だろ」

 「トモダチ? ・・・シゲルの事が大好きなんだって。何で好きなのかなあ? その人、シゲルの手をキツく握るんだ。痛かったよ」

                          つづく

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