4頁 刑事課の部屋で

 廊下を並んで歩くシゲルと沢村弘子。

すれ違うワイシャツ姿の警察官。

会議室のドアーが開き、制服の警察官が数人出て来る。


廊下の奥の鴨居に『刑事課』の挿し札が見える。

弘子は挿し札を指差し、


 「お父さんはあそこに居るのよ」


刑事課(刑事部屋)のドアーを開ける弘子。

部屋の中は「仕切り」されていて、中は見えない。

二人は部屋の奥に入って行く。

奥には使い込まれた木製の事務机が数机並ぶ。

弘子は一番奥の机を指差し、


 「あれがお父さんの席」


机の上には本立てに挟まれて、六法全書や書類ファイルが整然と並んでいる。

シゲルは憲司の机に走り寄る。


 シゲルの後ろ姿を見詰めている弘子。


シゲルは振り返り弘子を見て、


 「ねえ、父ちゃんは?」


弘子は我に返り、


 「え! あッ、お父さんは刑事さんだから、此処には朝だけしか来ないの」

 「・・・ケイジ?」

 「そう。たった一人の刑事さん」

 「たった一人? 何やってるの?」


弘子は一瞬、悩み、


 「う~ん・・・調べてるの」

 「シラベル? 何を? ねえ、何を調べてるの?」


シゲルは弘子に詰め寄る。

弘子はシゲルの前にしゃがみこみ、


 「そうねえ。悪い人の事。シゲルちゃんのお父さんは、警察の中で一番怖い人なのよ」

 「コワイ? 怖くないよ。パチンコばっかりやっていて、いつも夜遅く家に帰って来るんだ」


弘子は笑いを堪える。


 「そ~お。パチンコばかりやってるの。じゃ、今度、お父さんが此処に来たらオバちゃんが叱ってやる」

 「いいです。母ちゃんが叱っているから」


弘子はまた笑いを堪え、じっとシゲルを見詰める。


 「・・・シゲルちゃん?」

 「うん?」

 「人参(ニンジン)食べなきゃだめよ」


シゲルは驚いて、


 「ええ! ニンジン?・・・好きじゃないよ」


弘子はシゲルの目を見つめる。


 「オバちゃんね、シゲルちゃんの事、何でも知ってるのよ」


シゲルは恥ずかしそうに沈み込む。


 「父ちゃんに聞いたの?」

 「そう。お父さんが此処に来るとシゲルちゃんの事いっぱい聞くの」

 「なぜ?」

 「え?」


弘子は悩み、


 「それは・・・」


我が子を見つめる弘子の目。

シゲルは弘子の目を見つめ、


 「それは、何?」

 「それはね、シゲルちゃんの事が大好きだから」

 「好き?」

 「そう。大好きなの」


シゲルの小さな手をきつく握る弘子。

                          つづく

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