3頁 父ちゃんを迎えに ②
数日経った日の夕方。
道子がシゲルに、
「シゲル、父ちゃんを迎えに行って来な」
「ええ? またパチンコ屋?」
道子は怒った顔で、
「職場!」
「ショクバ?」
「父ちゃんの仕事場だよ」
行きたくない様子のシゲル。
「・・・どこなの?」
「下町しもちょうの交差点!」
「交差点? あそこにはケイサツしかないよ」
「そこに父ちゃんが居るから、『石原ですけど父ちゃん居ますか』って聞いてみな。早く行かないと、またパチンコに行っちゃうよ」
シゲルは驚いて、
「えッ! 父ちゃんてオマワリさんなの?」
夕方(警察署)。
大正時代に建てられたゴシック調の厳めしい建物。
分厚いケヤキの看板に『野田警察署』の文字。
正門玄関を入ろうとするシゲルに衛視が近づく。
衛視はしゃがんで、
「坊や、何の用だい?」
「あ、あの~・・・父ちゃんを迎えに来ました」
「父ちゃんを迎えに? 坊やの名前は?」
「イシハラです」
「石原? 坊やは石原さんの息子さんかい?」
「うん」
「そうかい。それなら裏庭に回りなさい」
シゲルは裏庭に廻る。
広い車庫。
幌付きの大型トラック、ジープ、サイドカー、白黒のパトカー、白バイ。隣の自転車置き場には多数の自転車が置いてある。
奥の講堂からは気合の入った声と竹刀(シナイ)の弾け合う音が聞こえて来る。
警察署裏庭(通用口)。
退署する二人の女性が出て来る。
一人は沢村弘子(二九歳)。もう一人は同僚の事務員。
「じゃ、沢村さんお疲れさま」
「あ、気を付けて帰ってね」
シゲルは白バイを興味深そうに見ている。
弘子はその少年を見て、
「あら? 何処の子」
シゲルが驚いて振り向く。
「あッ! あのー、イシハラは居ますか?」
弘子は五年ぶりに見る我が子に、
「え! 石原さんの? シゲルちゃん?・・・そう。迎えに来たの」
シゲルは自分の名前を知っている事務員に少し驚く。
「! うん」
「大きく成ったわねえ。そう・・・。じゃ、オバちゃんが案内してあげる。付いてらっしゃい」
つづく
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