第4話.後悔の沼

瞬時出雲を押しのけ、元々出雲が食らうはずだった攻撃をもろに食らってしまう。

俺は化け物に足を振りかぶられ胸筋の部分がえぐられ、そのまま過呼吸状態になり化け物の足に捕まれることとなる。

気を失うような強烈な一撃

最悪だ…気分が悪く視界が著しく狭くなってしまう

腹からはドロドロとするようにしてゆっくりと確実に段々と血が垂れていく

出血量はそこまで多くはないが骨が腹筋部分を化け物が振り子のようにして下から上に向かって抉ってきたこともあり骨が圧倒的に何本も折れているのが容易に想像が出来る

想像を絶するような痛み

だが、同時に痛みが消えていく

感覚の麻痺が全身を覆うようにして死に導いてくるような、そんな不思議な感覚


(いてぇ…)


思い出す…

涙を流しながら思い出す…

クラスメイトと楽しんだこの一年…

康太と遊ぶ毎日

出雲に恋をする毎日

そんな平凡な毎日

冒険をしたいと思っていた純粋な感情を持ち合わせていた毎日

だけど、だけど、こんなのは求めていなかった…

最強を信じ妄想をしていた子供の頃の自信の姿とは程遠く、醜い妄想とは真反対のような姿…

けど、それでいい

前を向け

前を向け

進め…前に進め。

天満は目をもう一度開け化け物をにらみ、掴んでくる化け物の足を歯を使い必死にかみ砕く


(化け物・・・)


噛んで噛んで噛みまくった

その化け物の足はスルメイカみたいに硬くて、

気持ち悪い異物を口の中に混入させているような気の悪い最悪な感覚

だけどかみ砕くことは可能

だったらいい。この最悪な歯の感触とは裏腹に俺は決意を決めたんだ。最悪だろうと前を進むって

だから、上下の歯を口の中でくっつけるかのようにして、物凄い勢いで後先の事なんって考えずに嚙み千切った

青色の気色の悪い液体が顔面にかかるが、そんな事は気にしないかといったように化け物の足から逃れ、時間稼ぎのためにも他の足を噛もうとする

化け物は足を引きちぎられたことによる、想像を絶する痛みにより発狂してしまっていた


(本当に最悪だ)

(だけど、俺たちの明日のため…俺たちの新たなページのためこいつを止めなきゃいけないんだ…)


そんなことを考えてたけど、俺だって怖いものは怖い泣きたいものは泣きたい

涙を流す

静かに涙をポロポロと零す

死ぬんだ

だけど、耐えろ

それでもいいんだ

俺ならできる。そんなことを自分に言い聞かせ君の顔を思い返しながら…

楽しい出雲と共に暮らす未来の妄想していながら…

楽しく出雲と語り合う未来の妄想…

一つだけ後悔があった…心残りがあった


(…最後に一つ君に好きって伝えたかった)

(だけど…もういい、君が生きてくれるだけで俺は幸せだ…)


もういい…

もういいんだ

そんなことを思いながらも倒れてる出雲へ

俺の後ろで倒れている出雲へ


「失せてくれ…邪魔だ」


一言告げる。感情とは裏腹の思いを…

君には笑っていてほしいから…

君は幸せになるべきだから…


化け物は足をかみ砕こうとする俺を空中に飛ばし、右腕をバットにするようにして俺の腹部を全力で殴打してくる

瞬間俺はものすごい勢いで教室の窓辺にたたきつけられる

校舎の壁にはひびが入り俺の体中がボロボロになるかのようにして地面に崩れ落ちる

痛いけど立ち上がろうとする

意識が飛びそうになる

いや、意識はもう半分飛んでいた

どうだっていい

動け…限界を超えろ

俺は化け物を殺さないと…潰さないと

死ねないんだよ

立て

走れ


「うおぉぉっ」


雄たけびを上げながら化け物に突進しようとする。

そして俺は化け物の体に突進する。

目は潰れていて、腕もあばら骨も何もかも折れまくっていて、息ができない

そんな天満の貧弱な攻撃

でも、俺にとってはそんな攻撃には全てが籠っているわけであって最強の一撃なんだ

化け物の体制は少し揺らぐだけであって何のダメージも入らない。

だけど、それでいい。

瞬間化け物は自らの腕で制裁を下すかのようにゆっくりと俺の首を掴み、首の骨を折ろうとする。


(痛い)

(恐怖)


ゆっくりと潰れかけていた目を。

窓から差し掛ける光の逆光が俺の目に勢いよく入ってくる。


(まぶしい)


光の逆光が消えるその瞬間、俺が目を再度開ける

その見える範囲には誰もいなく安堵の感情が俺の心を支配する。


(俺はこの化け物に食べられ死ぬ)

(だけど、俺はクラスメイトの奴らの中の記憶の1ページで俺は生きることができる)

(それだけでもう死んでもいいと思える)

(この感情は嘘かもしれない偽りの感情かもしれない。だけど、それでいい。)


その瞬間天満は目をつぶる。

ゆっくりと

食べられる天満は完全に確信をする。

天満の腹に何かが貫通していた

俺は体を貫くそんな想像を絶するような生き地獄のような一撃により苦しめられ絶望としか言い表せないような感覚が全身を支配する

そう、化け物の左腕が彼の腹を貫通していたのだ。そして化け物の右腕によって首には力を入れられる。

過ぎていく時

痛みを感じる地獄のような時間

声が聞こえてしまった

聞きたくもなかった声を聞いてしまった


「天満大丈夫だよ。待ってて」

「天満今すぐ助けるからな」


康太や出雲、他のクラスメイト。

ナイフを持ってきたもの

ホウキを持ってきたもの

凶器を持ってきたもの

様々がいる

化け物に勝てるわけがないのに


「ふざけんな」


怒りが俺の心を支配する。

だって、俺が行った地獄のような戦いをこいつらは無駄にしたんだから。

俺何って見捨ててしまえばいいのに…

叫ぶクラスメイト


「天満、目を覚ませ」

「何死のうとしてんだよ」

「犠牲ゼロじゃなきゃ納得しないんじゃないのかよ?」

「その全員の中にはお前だって入ってんだよ」 


「・・・」


目を開ける

涙が目から零れ落ちる。

俺は今まで以上に涙を流しながら笑う


「ありがとう」


嬉しかった。

本当は俺だって生きたかった。

本当は俺も彼らと一緒に未来を綴りたかった。

だから、唇をかみしめ涙を流しながらも笑う。

彼らの方へ手を伸ばす。

俺は生きたい。

片手が彼らの方へ伸びる。

あたりの景色が鮮明に俺の目に映る。

光のような希望が俺の目の前に・・・

もうちょっとで届く。


「皆…」


だが、遅かった。希望の光は絶望の暗闇へと変色していく。

俺の体は動いてはくれなかった。

そうだった、俺はもう助からない。

腹が貫かれ首を絞めつけられている。


(俺は死ぬのか?)

(あいつらがやっと希望を俺に与えてくれたのに・・・)

(死ぬのは嫌だ)

(生きたい)

(自分の感情に対して見て見ぬふり何ってしなければよかった)


さっきまで出雲に発した言葉だってただの虚勢

俺がこいつを倒そうとするのもただの虚勢

死んでもいい何ってただの虚勢

悔しいけどどうしようもない俺はまたしても目をつぶる

俺が死ぬのは彼らに言った俺の欺瞞が原因なのだから

仕方ないんだ。

彼らは凶器を化け物に投げている。

騒がしい音の中俺は死ぬ。

凶器が化け物に当たるたびに絶叫を超えるような声があたりをこだまする。

だが、その声はもうすでに天満には届かない。


(ヤバイ)


クラスメイトもの全員がそう考える。

だって、そこには全身から出血している生臭い人間なのかも分からない物が掴まれている

あれが天満なのならば出血多量で貫かれたことで首を絞められたことで既に死んでいるのかもしれない

出雲は人が目の前で死ぬことに対する絶望感と何もできなかったという自傷が心を追い込む


(どうにもできない)

(無力だ)


天満が死ぬところを見守ることしかできない。


「嫌だよ…」


出雲の声が響く

最後の声だ

天満は淡々としたかすれた声で片手を私にかざしながら

天満には声が通らないが一方的に最後の気力で伝える


「ごめん…俺はもうだめみたい」

「逃げてくれ頼む」


天満の意識は消える。

天満は死ぬ時だって笑顔で微笑んでみて来た

風が辺りを包み天満の首はガクンと下を向くようにして…

出雲の目からも涙がこぼれ倒れこむ

助けれなかった自分に対する無力感

そんな出雲の手を取り康太やクラスメイトが逃げようとする。

もう天満の命は助からない…どうしようもない

だから、康太は出雲の手を取り逃げようとして走り出した。


「行くぞ出雲。もう無理だ」


叫ぶ康太

虚しい感情が彼らの心を支配しながらも

情けない自らの姿に涙があふれ

心が苦しくなる

心が痛くなる

だけど、彼の思いをたくし走る

教室の廊下を走る

階段を降りようとする


すれ違いざま


二人の人間が三階へ上がろうとしていた。

片方の人間は赤く光るローブをまとう長髪の女性

もう片方の人間は黒のローブをまとい、女性の後ろに隠れている赤色の目を宿した俺たちと同年代くらいの男の子


「だめだ。そっちには化け物が・・・」


二人は康太の声を無視する。

瞬間、二人のうちの一人の女性は一瞬にして視界内から消えてしまう。

歪むようにして…

いや、何かが歪んだ

この世にはあってはならないような、そんな異常な力

爆音が鳴る

康太たちは完全に振り返る

その、天満を見捨てた場所を

いや、天満に思いを託された場所を

あり得ない…ありえてはいけない。女性は化け物を斬り伏せた

時間の進みが遅くなる

一瞬で化け物の体はバラバラになり、気絶している天満と思われる塊が女性の肩によっかかるような状態になる

康太にとって理解ができなかった

意味が分からなかった

ただ一つ言えることとすれば、その女性が俺達を助けてくれたという事だった。



天満は気絶した後見ることとなる

その、真っ暗な世界と共に追ってくる死神のような化け物を


「はぁはぁはぁ。おいざけんなよお前は誰だよ?何が目的なんだよ?」


真っ暗のこの境界線のない世界で天満は走る


「ざけんな!ざけんな!ざけんな!俺はやらなきゃいけねぇことがあるだ。」


真っ暗な世界、そこで天満は何者かに語り掛けられている。

その言葉とは「力…力…」といったような断片的な発言だった

だからこそ俺は問う


「力がなんだよ…?まず、そもそもてめぇは誰だよ?」

「ア&##」

「何って言った?」

「あぁ、やっと聞こえた~。名前何ってどうでも良いだろ?私は君と契約をしたいんだ」


天満は相手が何を言っているか理解することができない。

契約って何かすらわからない

何なんだ?こいつは一体


「契約ってのは?」

「力を与える代わりに俺の何かを代償にするようなことだ」

「ん?力ってのは」

「強くなれる。今よりもずっと。単純でしょ?今出雲だけを救える」

「・・・」


天満は考える。

こいつが言ってることが本当の事なのであれば、どうしようもなく嬉しいことだ

だが、こいつの言っている事が本当ならばという条件下によって生まれる嬉嬉

同時に、この怪しい奴は何を考えてる何ってわからない

不気味だが契約内容を聞かない限り何もわからないし一旦は契約内容について聞いてみることにする


「その契約ってのは?」

「~~~~~~~~~~~」


その契約内容に絶句してしまう。

だからこそ、俺はその相手に対して怒りをあらわにし答える。


「だったら、契約は不成立だ」

「そっか…さては本物のポン。いわばバカだよね」

「ん?」


まぁこれで終わりだと思ったのだが、相手は言うこととなる。意味の分からないことを


「お前は幸の刻印があるのになぁ…」

「お前は化け物を殺すだけの素質を持っているのになぁ」

「愉快だなぁ」


何を言っているのか分からない。

俺にそんな素質があるのだとしたらもっと簡単にクラスメイトや全員助けれたのではないか?

一体何なんだ…


「刻印ってどういうことだよ?」


それには答えてくれず相手は耳元に顔を近づけ言う


「プレゼントだよ。受け取って。ここから先の記憶はないかも知らないけど、私と契約をしたいって思った時私を信じてみてよ」

(#$%”&%)


そう、意味の分からないことを言わされ絶望の果てに突き落とされてしまう…

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