第3話.君のためなら死ねる…

上…なのか?真っ暗な空間だからこそ感覚が全く感じられない。

俺の身体の平衡感覚が不安定になりながらも眼前には映像が流れる。

雅出雲が死ぬ姿…

康太がひれ伏す姿…

瞬時俺はゆっくりと目を覚ます。

(ゾワッ)っとするような体全身に下半身から上半身へと浸透し伝染する鳥肌


「はぁはぁはぁ…なんだ?」

「大丈夫?」

「み、雅か…」

「そうだよ」


本当に心配だといったように俺の顔面を覗くかのようにして見てくる雅出雲。

さっき見ていたのは夢か…

俺は嫌な予感がする。あの夢の情景がこの先、本当になってしまうのではないかと…

あの夢がこのタイミングで現れたことに対するどうしようもない不安感が体中を回る

最悪な気分だ

周りにいたクラスメイトによると過呼吸によって俺は勢いよく教室に飛び込むと同時に倒れてしまったとのことだった

俺は周りを見るが沈黙を辺りを支配しており、嫌な空気がクラス全体を充満している

そして皆が深刻な顔をしてうなだれてしまっている

当然の事だ。あんな最悪な事象が起こってしまったのにも関わらず嫌な空気が充満しないわけがないのだ

そして、先生はというと俺同様に床で倒れてしまっている

精神の苦痛が相当つらかったのだろう


「あぁ…そうだった俺は…さっき」


瞬間思い返す。

階段で化け物に襲われて死んだ男の声

恐怖する彼の声

見捨てた彼の恐怖の声

その光景を脳裏に思い返した瞬間、助けれなかった罪悪感と悔しさにより唇を噛み自分自身を攻めるかのようにして前かがみに倒れこむ

息遣いが段々と荒くなり気分が悪くなる

何とも言えないこの感情だが、確実に思い返すたびに吐き気のような物が喉元に舞い上がってきてしまう

そんな後悔と自傷の感情に苛まれていると瞬時に察知したのか出雲必死に俺に向かって言ってくる。


「何考えてるの?あれは仕方ないかったことしょ!あなたは別に悪くない。だからしっかりしよう。大丈夫だよ私があなたを支えてあげるから」

「ありがとう」


その様なことを好きな人に言われたことによってすり減った精神は少しでも回復ができた気がする。

いや、俺は回復は実際できていないのだが、支えてくれる存在がいると知ったことによって安心したのだろう。

でも、そんなことを考える暇もないくらいには現在は相当やばいことになっている

だから立ち上がらないといけない皆のためにも

深刻な表情をしているクラスメイト。

生き残ろうと算段を付ける康太

康太を俺を見るなり言い放ってくる。


「さっきの化け物を見ただろ。それでその化け物の特徴はだいたい分かったよな天満」

「まぁそうだけど…」

「それで言わせてもらうんだけど、あの化け物はリーチの長いただののろまだ。」

「だから何?」

「分からないのか?俺らはあの化け物に打ち勝つことが勝利条件ではない。生存が勝利条件なんだよ。足が遅いなら犠牲は出るかもしれないが何とかなる。違うか?」

「まぁ…ただリーチが…」

「まぁリーチが長いっていう上で策があるんだよ」

「策…?」

「そうだよ。まず、第一.窓から頑張って降りる。」

「ばか?ここ三階だよ」

「これはあくまでも最終手段だ。天満も安心しろよ」

(最終手段を一番最初に言うなよ…)


そんなことを考えながらも康太は少し表情を変え酷なことを言ってくる


「まぁ第二の案は酷なんだけど、あの化け物の特徴としてリーチは教室全体を覆う。だからそもそも一方通行のこの場所を犠牲無しで通るのは不可能だと考えた方がいい。で、なんだが、手足の本数分以下の犠牲が起きると考える。つまりは12人以下で留めるってのが僕の考えている方法。その肝心の方法が、化け物が上に上がってきた途端の正面突破だな。」


俺は康太が何を言ってるのか分からず怒りの感情が心の奥底に溜まってしまう

否定するのは愚策かもしれないしただの我儘かもしれないけどいろいろと気になったことがあった

だから、傲慢と思われてもいいから考えを強めの語気で意思を康太にぶつけることにした


「それってどういうことだよ。そんなの策でも何でもねぇじゃねぇか」


康太も俺に対して冷静に返答を返す。


「あの化け物は人を殺すのに時間を要していた。だから、これで正面突破をすれば犠牲人数分以外は生きれる。ある程度の奴は切り捨てないといけない。切り捨てる奴が赤の他人とかだったらまだ大丈夫だろ。俺だって誰も死なせたくない。そんな策を練りたかったけどこんな策しかなかったんだよ。」


悔しそうに唇をかみながらも彼は言う

意味は理解できる。つまりはあの化け物の手足の本数分以下の犠牲で済むため正面突破することで最低限の被害で済ませる。しかも足が遅いため追うことはできないってことだろ。

だけど、俺はその康太の作戦に賛成はあまりできなかった。


「なぁ康太…お前にとっての赤の他人って何?」

「ん?自分の交流関係の中で一番最下層の人物だと思ってるけど」

「そっか…じゃあ、俺と康太は気が合わないな。俺にとっては、俺が相手の性格を知っていて、なおかつ興味のない人間よりかは赤の他人のほうが印象は上だぞ」

「今はそんなこと言ってる場合じゃ」

「なぁ康太…犠牲が少なかろうと俺にとってはゼロじゃないと気が乗らないんだよ。なんで犠牲が出る前提の策なんか持ってくるんだよ…だったら窓から飛び降りたほうがずいぶんましだと俺は思うが?」

「時間がもうないし、もう赤の他人ってどうでも良いだろ。犠牲が出てもいいだろ。僕たちは生きなきゃ。赤の他人がそんなに大切かよ?」

「あぁ大切だ。それも交流関係で2,3番目くらいに大切だって俺は思ってる。なんせ、仲良くなり馬の骨が合い共に飲んだり、たまに食べたり、たまに相談したり。そんな大切な奴が出来る、そんな可能性を赤の他人は秘めてるんだから」

「天満よく聞け、赤の他人何って何億人もいるんだからその中の一人が消えたって…」

「その何億人の中で気が合う奴は俺にとってごく少数だと思ってるもんでね、だから、俺は康太の案には反対だよ…残念ながら」

「ざけんな生き残るための方法だぞ」

「生に執着しすぎるのは別にいいけどさぁ、周りを見ろ熱くなりすぎだ。」


クラスメイトの全員が俺と康太との口論を少し怯えながらも見ていた。

その目線に気づき黙ってしまった康太に冷静に追撃をかける。

気づいたときには体があり得ないくらい冷めており、赤の他人はどうでもいいと言葉にした康太に怒りがわいていた。


「康太には視野を広く見る力が足りないと思う。上から目線だけどさ、こういう風に俺は俺の性格に合う奴としかつるまない。そんな我儘な性格に対して我儘をぶつけてくる、そんな奴が赤の他人の中には居るかもしれない。少なくとも俺は今までにそんな奴とはあったことがないからこそ、どかかで会う赤の他人に希望を感じてる」

「それに、俺の考えにはなるけど、赤の他人だからって人生を生きてないわけではない。彼らは俺の人生の1ページ爪痕を残せない一般人かもしれない。だが、彼らは彼らなりに別の人間の1ページに爪痕を残している。その爪痕を残した1ページでは、君らの言う赤の他人が知らない場所でヒーローになってるかもしれない」

「知らない場所で誰かは分からないが人間を間接的に救う。それだけでヒーローだ。俺はヒーローになってることを夢見てるし、すれ違う赤の他人が俺のヒーローになってくれないかって願望してる」

「そんな彼らを死んでもいい何って俺は思わない。過去に死んでしまったものは取り返しのない命かもしれないが、今ここに生きる命はこれから彼ら自身の中で何ページもの爪痕などを綴り、さらには他の人の1ページに入り込みヒーローになっていると俺は信じてる」

「だから、俺は犠牲を出す前提のお前の案には納得がいってなかったんだ」


ただ一つ冷淡に言う。

俺自身もなぜこんなに熱くなっているかは分からないが、気に食わなかったのだ。ただそれだけで、康太の策を正面から壊す。

俺は我儘だから

俺は傲慢だから

康太は親友だから

そしてまた、一つ淡々と言葉を彼に発する。


「だけどまぁ、いじめを行ってるような屑とかはさ逆に他人の1ページを血で濡らす悪魔だって思ってるの。だから、俺は興味のない人間や嫌いな人間とは関わらないようにしてる。悪魔に一度でもなった彼らは居なくなっても正直言って良いと俺は思っている」


そんな傲慢な自分語りをしながらも冷静になりながら天満はゆっくりとマイペースに話す。


「なぁ康太あの化け物めっちゃ足が遅いからさ、策を考える時間はあるよ。全員が生存できる方法を模索しようぜ」

「…うん」


康太は当然少しだけ不満そうなのだが、その康太の感情を無視して考える。

いや、すでに考えていたっていうほうが正しいかもしれない。


(さぁて俺が囮になるかな。やってやるよぉ化け物さんよぉ…俺は人ひとり見殺しにして他人の1ページで悪魔になった存在だからよぉ…ハッハッ)

(そうせ死ぬんだから、悪魔と化け物。どっちが最終的に勝てるか勝負してやるか…)


多分だが天満は完全に死ぬ気でいたため、マイペースにすべてを話していたのだろう。

瞬間だった階段上に異様な気配があり、そちらを見た瞬間化け物と目と目が先ほどと同じように交錯する。

死までのカウントダウンだ…天満が囮になるかと考えた直後。

死までのカウントダウン…康太や出雲、雫が最悪だと考えた直後


「「「「は?…」」」」」


気が付いたときには遅かった、化け物は一瞬で俺たちの方へ近づきやがった。

そうだった、あくまで足が遅いのはその可能性があるってだけで別に足が遅いのは確定事項じゃなかった。

まじかよ死のカウントダウン何ってもんは無く一瞬で皆あの化け物に捕食されるのか?

だったら俺が囮になったとしても皆は追いつかれて殺されるのが落ちかよ…


(ふざけんなよ)


俺はものすごく苛立っていた


「いやだ」


当然の反応だ


「いやだ…」


なんで俺が囮になろうとしたかわかるかよ。なんで俺が化け物と戦おうとしたかわかるかよ。

それは誰も死なないためだぞ。

なのによぉ速度早くて全員が死ぬなら、俺の決意した気持ちは何だっていうんだ?


「最悪だ…ふざけんな、ふざけんな、ふざけんな」


何勝手に全員死ぬって決めつけてんだよ。

何決意した事折れそうになってんだよ。

出雲も康太もクラスメイトも全員助ける。たとえ奴の足が異常に早かったとしても、違うか?

俺自身に問う


「そうだわ…そうだ。ふざけんなよ化け物…ぶっ潰してやる」


天満がそういう風に考えを改める約10秒前

化け物は出雲を真っ先に狙い。狩りをするかのように倒れた出雲のもとへ飛んで行く


「皆、今の間に逃げて…」


雅出雲はクラスメイトにそうはいったもののその後小声で独り言を喋ることとなる。


「…やっぱり怖いなぁ死ぬのって」


出雲が死ぬ。出雲が完全に化け物に捕まるそう思われた瞬間の出来事だった。

天満は出雲の言った独り言を見逃さない。


「だったら雅が逃げろ」


出雲は殺させない絶対にこの化け物を潰してやる悪魔みたいに醜くなってもよぉ

出雲殺すんだったらよぉ…だったら…だったら

あのバケモンに一つ嚙みついてだってやってやるよ。


「おい、バケモン一緒に死んでやるよ」

「一緒に地獄へ行こうぜ~八ッハッ」


俺は化け物に対して右親指を下に向ける。

それで出雲達が逃げれれば万々歳やろ、やってやるよ


「絶対潰してやるよ、気色わりぃバケモンが」

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