第31話 リュクス会談①


 結局のところ、レインマンス王国連合軍は、デルミタージュを占拠したことで一旦解散となった。

 デルミタージュにはレインマンス王国直属軍が到着し、これを治めることとなったようだ。

 とはいえ、デルミタージュ領主街には領民は一人もいなかった為、レインマンス側としても、収穫としては小さい公国領を一つ領地に加えた程度のものでしかない。


 連合軍の各司令官たちは解散後、各自の領主国へともどり、一旦内政を安定させた後、すぐに今後の対応を検討する会議を開くことで合意していた。


 そんななか、ヒルダイン公国領主ルーデウス・パキラとレグナス・レブナントの密会が、リュクス丘陵の南にある東屋で行われた。



 この東屋はもとはケントリアース国王だったルード・ケンタウラが建てたもので、どうやらこの国王、たまに町娘を攫っては、この場所で欲望の限りを尽くしていたらしい。

 王都を陥落させた後、内々のことはギリアムにすべて委ねてある。その彼の調査報告の中にその件も書き記されていた。

 レグナスは即刻、これに関わった者たちに捕吏ほりつかわせ、全て捕らえたうえで、極刑にした。


(――戦争が日常の世界というのは、戦場でない場所でもひどい仕打ちに遭うものが少なくない。これもその一つだ。せめて僕の国だけはこういうことが起きない、いや、起こさせないようにしっかりと目を光らせて行かなければ――)


 実際のところ、デルミタージュを退去した領民のほぼすべてがこのケントルに集結してくれている。

 

 ギリアムは、


「すべてはレグナス様の治世に民が満足している表れでございます――」


と、言ってくれていたが、自分としては特に特別なことをしているつもりは全くない。

 もし、ギリアムが言う事が理由だというのなら、それはギリアムをはじめとした内政班がしっかりと管理・統制してくれていたからに他ならない。


「ありがとう、ギリアム。すべて、あなたのおかげだよ」

と、言葉を返したが、それでもギリアムは、

「いえ。レグナス様の命に従ったまで。すべてはレグナス様ゆえになせるわざです」

と、にこりともせずに答えたものだ。


 閑話休題――。


 場所は、冒頭の東屋。

 時は、エルス暦1833年1月末。


 ここで、ルーデウス・パキラとレグナス・レブナントが初めて顔を合わせていた。


 ルーデウス側には、騎士が2名、事務官が2名付き従っており、ルーデウスを併せて5名がこの会合の出席者だった。

 対するレグナス側は、ギリアムとリーアム、それにもう一人、可憐な女性が付き従っており、計4名だった。


 5名と4名は長テーブルを挟んで右と左に分かれて着席している。



 着席すると、まずは、申し入れた側であるルーデウスが口火を切った。


「レグナス・レブナント公。私の申し入れを受け入れ、このような場を設けていただいたこと、深く感謝いたします――」


 壮年の志士であるルーデウス・パキラは、まだうら若い目の前の青年をみて、正直驚いていた。容姿は端麗で、嫌味が無い。剣士としての力量は、魔王を倒したというその実績が示す通りなのだろうが、外見からそれを想像するにはなかなかに難しい。しかし、それに対して、この落ち着きよう――。


「ルーデウス・パキラ公。此度はこちらの単独行動により、公にはいらぬご心配をおかけしたこと、心よりお詫び申し上げます――。この会談が有用な時間であったと思えるよう、全身全霊をもってお応えする所存でございます」


 と、その青年は言った。


 確かに、王国の命に背き単独行動をとった結果、今に至っている。しかし、もし仮にこの青年がその決断をしていなければ、今頃戦火は拡大し、自領地であるヒルダインは戦火に覆われていたかもしれないのだ。


 それをわかっていながら、少しもおごることが無いどころか、デルミタージュを「攻め取った」側の総大将である自分に対し、詫びを入れるなどとは――。


 正直、器の違いを感じさせられたと言っていい。


「――見事な作戦でありました」

と、ルーデウスは静かに切り返した。 

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