第32話 リュクス会談②


「ケントルを攻め落とした迅速果敢じんそくかかんな行動、その後、切り返すレインマンス王国軍のデルミタージュ侵攻に対する引き際――。いずれについてもこのルーデウス、感服いたしております」

と、返す。


「――つきましては、其許そこもとの今の考えを率直にお聞きしたいと思い、この密会を申し入れた次第です。出来れば忌憚きたんなくお答えいただければ幸いと思っております」

「なんなりと――」


――それではまず第一点。王国の命に従わずケントルを陥落せしめたのは如何いかに?


「戦火を拡げない為」


――次に第二点。デルミタージュの領地につき奪還の意思はおありか?


「ない」


――第三点。ケントリアース領をレインマンス王国に明け渡す意思はおありか?


「ない」



「――そしてこれが最後ですが、レグナス・レブナント公よ、そなたはレインマンスに従属する意思はあるのか? あるのであれば全力で私が弁護をいたす所存だが、如何いかがか?」


 ここで初めてその青年は即答を避けた。


 その青年の脇に居並ぶ面々もまっすぐに正面を向き、ただ、その青年、自分たちの主の「答え」を待っている。


「――その前に一つ、こちらからお聞きしてもよろしいでしょうか、ルーデウス様」


 ようやく返したその言葉に敵対心はなく、ただ素直にわからないことを問う子供のような無垢な色が含まれている。


 ルーデウスはその無垢さに思わず、

「どうぞ」

と、答えてしまった。


 そうして、次に発せられたその青年の言葉に対して、非常に苦慮することになる。



「レインマンスは戦乱に終止符を打つ考えはあるのでしょうか?」


 その青年のまっすぐな問いにルーデウスは躊躇ちゅうちょする。そして、その躊躇ためらいを見抜いたかのように青年は言葉を続ける。


「僕は戦乱に終止符を打つためにはどうすべきかをずっと考えています。かつて僕の師と呼ぶべき人はこういいました。世を平らかにするには二つの方法しかない、『王道』と『覇道』だ、お前はどちらが正しいと思うか、と――。僕は未だにその答えを出せていません。ですが、夜を平らかにする必要があるとは考えています――」


 世を平らかに、つまり、戦争が起きない世界を創るのだ、そうしなければならないのだとこの青年は言っているのだろう。


 ルーデウスは返答に困った。そうしてようやく絞り出した言葉が次のような言葉だった。

「――戦争を……、無くすことはできない、と私は思うに至っている。レインマンスにその考えはあるかと問われれば、それは私には答えられない。ただ言えるのは、私はかつてそのように考えていた時期があるということだ。だが、レインマンス王国国王カール・レインにそれは無いように見える」


「そうですか――。わかりました。質問にお答えいたします。レインマンスに属するつもりはありません。僕は僕の道を行こうと思います」


 ルーデウスは、その眼を見てしまった。

 あまりに純粋で、あまりに無垢。世の中の汚いことをまるで見て来ていないかのような眼。

 しかしそんなはずはない。彼は紛れもなく、この国ケントリアースの国王を討ち取っているのだから。

 ならばどうしてこのような眼ができるというのか――。


「そういう事なのですね――。ケントル入城後も、抵抗する軍兵は排除し、国王の首は刎ねたというが、領民や王族には一切手出ししなかったのはそういう理由からですか――。なるほど。しかし、あなたの行く道はあまりに険しい修羅の道のように思えますが、それでもその道を歩むと、そう心をお決めになっているということですな」


「そうです。僕は僕の『覇道』を行こうと思います」


 ルーデウスは青年とその横に居並ぶ一同の顔をもう一度見渡した。


 どうやら、この従者たちも、この「レグナス」と同じ道を行くと決意しているのだろう。


「しかしどうやって、それを為すおつもりか?」

「大丈夫です。私にはが付いておりますので」

?」

「はい、一番脇に座っているその女、彼女が私の案内役ガイドです」

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