第25話 問い
「勇者?」
と、レグナスはその言葉の意味がわからず問い返した。
「ああ、君、魔王を倒したんだろう? 古来、魔王を倒せるものは「勇者」だけと決まっているじゃないか?」
と、レーネが返す。
「まあ、いいさ。それよりどうする? ここで斬り合うかい?」
「斬ってほしいのか?」
と、レグナスはやや笑いながら問い返す。
「そんなわけは、ないだろう。斬られるのは君の方だよ。まあ、そうなった場合、隣のお兄さんも同行する羽目になるだろうけど――」
「貴様! レグナス様に向かって無礼な! レグナス様、こんなやつここでぶった斬ってしまいましょう!」
ここまで黙っていたグレイグが割って入る。
「――いや、グレイグ、やめておこう。どうやら、僕たちの「勝ち」の確定のようだ。ここで、挑発に乗って「勝ち」を掠め取られるのは嫌だからね」
レグナスは反攻の部隊はこないか、あるいは、この国の残兵だけだろうと予測した。おそらくのところ、ケントリアース王国軍はすでに解散し、各公国に引き返しているのだろう。レーネとしては「唯一」逆転の可能性のある『策』、「レグナスの首をとる」ということに賭けてみた、というところだ。
「そうか、それももうわかっているんだな。なるほど、力ばかりの脳筋馬鹿ではないようだな。君の言う通りだよ、レグナス・レブナント。今回は『私の策』をやり切って見せた君の「勝ち」だ。おめでとう、勇者くん」
レーネはそう言って、ふわりと笑った。いや、兜で顔の半分がほとんど隠れているから、兜のバイザーから覗く目と、白く輝く口元だけを見て笑ったように見えただけなのかもしれない。
「『私の策』とは、どういうことだ!?」
グレイグが聞き返す。
「ああ、すまない。話が読めなかったな。今回君たちが取った行動、南のオーベル砦突破作戦だが、この可能性について私は予想をしていた。陛下には叔父を通じて具申したのだが、容れられなかった。そんなことは起こらない、と言う判断だったのだろう」
つまり、レーネは『自分の策』を行えるものがいたとすれば、ケントリアース王国軍を敗北させることができると見ていた、ということを言っている。
「――レーネ・ソープ、せめて、その素顔を見せてくれないか? 今度どこかの酒場で出会っても、声も掛けられない」
もちろんそんなことなどあろうはずもない。レーネとレグナスがどこかの「酒場」で出会う。そんなことは、この世の中が『平らか』になって、二人ともが「冒険者」にでもならない限り、訪れない未来だ。
「いつ、そんなことが起きるというんだ? 君、本当にそんなことになる「未来」があると信じているのか?」
と、レーネが返す。
レグナスは、にやりと笑う。まさか、なにかしらの反応が返ってくるとは思ってもいなかったからだ。
「――まあ確かに、「そんな未来」が訪れるにはなかなかいろんなことを解決しないといけないだろうけど、ね。でも、君と「そういう未来」があるのなら、本気で目指してみてもいいかなって……」
「レグナス様?」
「ふ、ふふふ、ははは――。君、面白いね。どうやってこの戦乱を終わらせるというんだ? その「答え」はたった二つしかないのだ。しかも、どちらの道もまずやり通せるものはいないだろう」
そう、「たった二つ」――。
レグナスの師であり養父でもある、ミッツ・アケーチ将軍もそう言っていた。
『王道』と『覇道』。
「――レーネ・ソープ。君に一つ質問をしたいが、許してくれるかい?」
「いいだろう、一つだけなら答えてやる」
「君は、『王道』と『覇道』のどちらが早いとおもう?」
レーネは少しの間、逡巡した。
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