第24話 対峙する両雄


 レイバーン砦――。

 王都ケントルから西に続く街道の途中に設けられた関門を兼ねた要塞である。

 レグナスたちは今この砦に集結していた。


 ケントルには後発のギリアムが、部隊を3個ほど連れて来てくれた。それらに戦後処理を任せて置き、急ぎ、この砦までやってきたというわけだ。


 レグナスが王都ケントルを陥落させてからすでに3日経っている。そろそろ敵も何かしらの動きを見せるころだろう。


 この世界には「魔法」が存在している。

 だが、こと「通信」に関しては無いのと何も変わらない。前の世界とやや違うのは、移動速度の上昇バフ魔法があることぐらいだ。

 その為、伝令役には魔術師があたることが多い。魔術師が自身の馬に魔法を施しながら疾走はしるのだ。


 その「早馬」は、それでも通常移動の3倍にもならない。せいぜい倍かもう少しというところだ。



「レグナス様! 来ました! 敵の斥候部隊のようです!」

リーアムが砦の城門の上から、階下のレグナスへ向かって叫んだ。


 レグナスは直ちに城門へと駆け上がると、なるほど遠方の森にうっすらと砂煙が待っているのが見えた。


「少ないな――」

「ですね。その後ろに軍が来ているのか、それはまだ見えませんが――」

「わかった。あれが斥候部隊だとすれば――」


 レグナスは『左腕』の地図を見ると、そこにその斥候部隊が向かうであろう地点が示される。

 わかってるじゃないか、「魔王」さま。


「――ここだな。リーアム、ここの守りをお願いするよ。グレイグ! でるぞ!」

「え? 出るって、どちらに? まさか!」

「ああ、ちょっとしてくる。なあに心配はいらないさ、戦闘にはならないだろうから」


 レグナスはそう言い残すと、馬に跨り、グレイグ一騎のみを伴って城門から森へと向かって駆けだしていった。



 レイバーン砦の西に広がるのは「ヘーラカイト森林」。

 森林の中にはいくつかの丘があり、そこから東のケントル方面を見渡すことができる。その丘の中でも一番高いのが、リュクス丘陵だ。

 その丘陵は山頂に木々が無く、岩山になっている為、このあたり一帯がよく見渡せるのだ。


 「地図ゼクス」はそこを指していた。


 今から出れば、こちらの方が先に到着できる――。そう思っての即時行動だった。


 やがて、その丘陵の山頂に駆け上がると、やはりそこに敵の姿はまだ見えない。さきほどの砂煙はまだ丘の少し手前に確認できた。


 相手は森林の中を駆けているからこちらの動きを見るのは不可能だ。思っていた通り先回りできた――。



「ふうん。君が――。」


 不意にレグナスの後方から声がした。女の声のように聞こえる。


「レグナス様! 警戒を!」

グレイグが声をあげる。


「――まさか、先回りされているなんて、ね。あの砂煙は「陽動」か――」

レグナスは振り返りながらその声に返す。


「まあね。私だけ単騎で先に駆けてきた。馬はいい馬だったが、可哀そうなことをしたよ。この丘の中腹で力尽きてしまった――」


 そう、その「女」は答える。

 頭には顔半分ほどが隠れている兜、その兜から流れ出る金色の髪が光に反射して美しく輝いている。全身にはフルプレートの鎧、これほどの重さで無理をすれば、かなり馬には負担だったろう。銀色に輝く意匠は高貴でしなやか、女性らしいラインは目を奪い一瞬躊躇うかもしれない。

 この「女」の恰好を一目見てただの斥候ではないと確信に変わる。


「金獅子レーネ・ソープ――。まさか、本人がこんなところまで?」

グレイグがその「女」の恰好を見て呟いた。


「グレイグ、知り合いなのかい?」

「ま、まさか! 話に聞いているだけです。大軍師ヒューメル・ブラインの愛弟子、ですがその智勇はすでに師を上回っているとか――」


「ああ、あれは師が勝手に吹聴しているだけだ。そんなことはない。私など師の足元にも及ばない――」

と、「女」が返した。


「――否定はしないんだね。自分がそのレーネ・ソープだということは」


「ああ、しない。私がその、レーネ・ソープだ。君は、かな?」


 レーネは逆にそう質問を返してきた。



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