第23話 レーネの決断


(まさか、本当に『』に気が付いたというのか、それともたまたま偶然の出来事だったのか――。どっちなんだろうな)


 騎馬を駆りながらレーネは思案していた。


 そもそも今回の作戦は相手が準備をしてないところを急襲することをその本質としている。それゆえ、守りの兵をそれほど残さず、ほとんど全力で一気にレインマンス王国王都まで進軍するつもりだった。いや、そうでなければ『失敗』なのだ。


 レインマンス王国側は、自身の本拠点を守るために前線に兵を集中させるはずだった。だが、そうなればほぼこちらの勝利は確定していたのだ。


 これは簡単な理屈だ。


 守備兵を集結させるには時間がかかる。

 が、こちらはすでに前進をし続けている。これを止めるには、かなり深くに前線を張ってそこで食い止めるほかない。しかし、レーネの計算ではそれでは間に合わず、結局はレインマンス王国領の奥深くまで進軍できるはずだった。

 そうなれば、来る敵来る敵を各個撃破してゆけばそのうち相手の前線は崩れ去る。

 そうして、あとは国府を陥落させれば終わる。


 だが、この作戦には後方の守りが薄いという欠点があるのも事実だった。何らかの方法でこちらの王国領に攻め込めば、こちらの守備兵はほとんど残っていない為、容易く雌雄は決するのだ。


『せめて、南のオーベル砦にはそれなりの数の守備兵を配置すべきです――』


 レーネは一応進言した(叔父のジョバンニ・グエストロ将軍を通じて、である)のだが、ケントリアース王国国王ルード・ケンタウラはこれをれなかった。

 ただ、一刻も早くレインマンスを陥とせ、とだけ命じたのである。


(やはり、王と言っても名ばかり。戦略に関しては全くの無知同然だったか――)


 とは言え、今となってはもう遅い。国王ルードはその身をもって自分の愚かさの代償を払うこととなったわけだ。


(しかし、とんでもないことになった。これで、ケントリアースは跡目争いで戦乱が巻き起こるだろう。周辺各国も色めきだって、連携の甘くなった領地を目がけて我先にと仕掛けてくるやもしれない――)


 そうなれば戦火は広がり、戦線は拡大する。


 せめて、マイリーゼとルードヴィックだけは守り抜きたいところだが――。


 マイリーゼ公国は父ルーカス・ソープの所領でありレーネじぶんの故郷である。ルードヴィック公国は叔父のジョバンニ・グエストロ将軍の所領で、今は自分が仕える領地だ。

 どちらの国も現在守備兵は多くはない。

 

(父上と叔父さまが私の意見をれて、秘かに幾らか守備兵を残しておいてくれたから、幾らか時間は稼げるだろうが――)


 どちらにしても、見に行ってから決めていては守備に戻るのが間に合わない可能性がある。


(やはり、『時間』が惜しい――か)


 そう決意すると、レーネは駆けながら隣を走る近衛兵の一人に令を伝えることにする。


「カーズ! 叔父上に伝令に走ってくれ。見てからでは間に合わんかもしれん。即刻、自国領に戻り警戒にあたれと、レーネが言っていると伝えよ!」

「今からですか!?」

「ああ! 今この瞬間からすぐに、だ!」

「はっ! では、参ります! レーネ様、ご無理はなさらぬよう!」

「ああ、わかってる! だ――すぐ戻る!」


 カーズと呼ばれた騎士が隊列からはずれ、反転して後方へ駆けて行った。

 これで、各領主たちは自国領にまっすぐ戻って守備にあたるだろう。

 ケントリアース王国領を奪還できないことが確定したわけだ。しかし、早ければ早いほど戦火が拡大するのを防げるはずだ。



 そうしてレーネはひたすら走った。

 街道関門のレイバーン砦まではおそらく明後日あさっての未明には到着するだろう。

 



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