第3話 違う世界へ


――ん、ん~。


 なんだったんだあれは?


 レグナスは気が付くと辺りを見渡した。


(森? だって――?)


 辺りは木が鬱蒼と生い茂る森の真ん中のようだった。


 側には、レグナスの剣が落ちている。


(取り敢えず、剣と鞘はあるようだし、装備もそのままだな。って!? なんだこれは――!?)


 左腕には見慣れない手甲てこうがはまっている。

 その禍々まがまがしい意匠は、明らかに怪しい。

 色は深紫色とでも言うか、むしろそれよりも黒い。よく見ると、蛇か竜か良く分からない気味の悪い生き物が彫られている。


(ちょ、これ、はずれないぞ――!? マジかよ――。呪いのアイテムとかそういうやつか?)


 そう思った時だった。その手甲からぼわんと、沸き立つ煙、いや、人影が現れる。


「お、お前は、オーダ・ノーブナ!! ん? いや、なんかさっきと雰囲気が違うんだけど、すいません、あなたはオーダさんですか?」


 顔の造形、体型などはまさしくさっきまで戦っていたオーダ・ノーブナのそれだが、着ている衣装があまりにも違いすぎる。

 今の彼女は、スケスケの白地のレースのドレスに身を包んでいる。


「いや、あの、ちょっと、目のやり場に困るんで、隠してくれません?」

「ん? ああ、気にしないで。これは、イメージなの。あなたが見たいものが具現化しているのだから、あなたが見たいように見れば見えなくなるはずよ。わたしの方はあなたにどう見えているかなんて、どうでもいい話だから――」

「――――。なんか、痛烈に非難されてる気がするんですが……。あ、本当だ、普通のワンピースになった」

「でしょ。じゃあ、話を始めてもいいよね?」

「いやいやいや、まずは僕の質問に答えてくれよ。あなたはオーダさんなんですか?」

「そうであるともいえるし、そうでないともいえるわ」

「禅問答かよ? だからー、どっちなんだってんだよ?」

「違いま~す」

「ちがうんか~い!」


 漫才を続けても話が進まないから、ここまでにしておこう。


 彼女の名前はゼクス・ディアブルと言った。

 天冥界てんめいかい第6番神格じんかくしゃ、「破滅と創生をつかさどる神」だという。


 私は次元を渡り歩き、それぞれの世界で破壊と創生を為し、人類を導くものである――と彼女は言う。



――それで?


と、レグナスは聞き返す。


「で、そのカミサマとかいう人がどうして僕をこんなところに連れてきたんだって話だよ!?」

「それはまあ、成り行き――かな、てへ(笑)」

「成り行きかな、てへ(笑)じゃねーよ!?」

「そうね。オーダ・ノーブナはあの世界での役目を終えたわ。まあ、予定よりも少し早かったんだけど、それほど大した差はないでしょう。あのあと数年もすればあの世界も平穏が訪れるはずよ。その予定を早めたのは誰のせいなのかしらね?」


 ゼクスがレグナスの顔を覗き込む。


「ちなみにわたしは神格者ですからね。どういう経緯でが裏切ったかはすでに調べてあるわよ。最後に提言したのはあなたでしょう?」

「あ――。いやいやいや、でもそれは、出来るよって言っただけで、やれよとは言ってないぞ?」

「でもぉ、あなたの言葉で決断したことは事実だわ。だから、あなたのせいで、確定ね」

「そんなぁ~」

「それにオーダにとどめを刺したのは間違いなくあなただからね――」

「ぐっ。それは――そうだけどさ」


「まあ良いじゃない。本来ならわたしがこの世界の住人に憑依して「事を為す」のが通例なんだけど、いつもやってて飽きてきたから、今回はすこし趣向を変えてみようと思ったのよね」

「趣向を変える?」

「ええ、今回の私はアドバイザー、随伴人、ガイド、傍観者、観覧車よ」

「ん? 最後の字が違うような気がするが――。いやいやいや、まてよ。それって――」

「勘が良くて助かるわぁ。今回はあなたが「マオウ」ってことね――」


――なんだって!? 僕が魔王!?


「――僕が……、マオウ?」

「まあ、厳密に言えば、魔王の力を宿した人間ってことね――。あなたにはこの世界を破滅へと導き創生を行ってもらおうと思ってる」

「力を宿すって――、ああ! もしかしてこの手甲!?」

「そうそれ、それはわたしの力を宿した手甲なの。うまく扱ってよね? おいおい説明はするから、心配はしなくても大丈夫よ?」



――なんだか変なことに巻き込まれてる気がする。


 レグナスは背筋に冷たいものが走るのを感じた。


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