第2話 とどめの一撃


「マオウを探せ! 奥へ進め! 必ず、首を獲るのだ!」


 外からはミッツ・アケーチ将軍の怒声が木霊こだましている。

 ここで「マオウ」オーダ・ノーブナを打ち洩らしてはすべてが水の泡になってしまう。


 レグナスは立ちはだかる敵たちを右に左に撫で切りにしながらずんずんと奥へと進んでゆく。


 いくつの部屋を越えたろうか?

 さすがに最奥部のあたりまで突き進んでゆくと、敵の数もまばらになりつつある。どうやらそろそろ「終着点」のようだ。


 ふん! やあ! たあ!


と、気合を発しながら、振るう右腕の剣も、そろそろ血脂で切れ味が落ちてくる。最後の一人に至っては、首の骨でがりっと音がして中途半端なところで止まる始末だ。


(すまんな――。苦しませてしまって――)


 少し申し訳なく思うが、こちらとて、手負いの上に体力もそろそろ限界に達しようとしている。


 そしておそらくこの扉が最後の扉になるだろう。

 レグナスはそう確信すると、一気に扉を開け放った。


「オーダ・ノーブナ! 神妙にしろ!」


 そこには、黒い衣服に身を包んだ美しき女が佇んでいた。長い黒髪は腰まで伸び、艶やかに揺れている。切れ長の眼に、長いまつげ……。まさしく絶世の美女であるが、なんとも妖艶な気配も漂わせている。


「ふん! ミッチーのやろう、さすがだな……。是非も無し――。おまえ、ミッチーのとこのレグナスだな? よくぞここまで辿り着いた。だが、この首だけは絶対渡さん。ランマ・ルー! わしが死んだら、この亡骸ごと燃やせ! わかったな!」


 「マオウ」オーダ・ノーブナは側に控えていた小姓の少年にそう告げる。この少年もまだ若いが、これも戦国のならい、仕方がないことだ。


「しかし、わしの最期の相手がレグナス、お前とはな。当代一の剣士とうたわれたお前を結局はわしの配下にすることができなんだが、それも因果と言うものか――」


「――――」

レグナスは剣を構えてじっと機会をうかがう。


「ふん、不愛想なやつよ。これほどの美女がお前を乞うて止まなかったと告白しておるのに、なんとも返答もなしか――。まあ、よい。それもまたお前という男なのだろう」


「――――」


「――さて、。せめて一合でも切り結ぶことにしようか……」


 レグナスがオーダの足元を見ると、そこには血だまりができている。おそらくは脇腹を突かれたか――。そうであれば確かに、時間はあまり残っていないだろう。


「ダイロクテンマオウ、オーダ・ノーブナ! 参る!!」



 鋭い突きだった――。


 オーダが渾身の力を込めて突き出した長槍の切っ先が、レグナスの頬をかすめる。

 と、同時に、レグナスは体をその場で翻し、右手の剣を真一文字に横薙ぎした。


 ずばん、という確かな手ごたえが、レグナスの利き手に伝わる。


「――ふ、みごと……だ。さすがはレグナス――。だが、これは読めなかったようだな……。ランマ・ルー、さらばじゃ。「この世界の人生」はなかなかに面白かったわ」


 そう言うと、オーダはがばあとレグナスに抱きついた。


「なにを――!」

「これが最期の切り札じゃ。お前には、一緒に来てもらうぞ――! 次元転移術式ディメンション・トランスレート!」


「な、なんだぁ!?」

「この世界でやるべきことはほぼやった。あとは好きにするがいいさ。わしたちは次の世界へ参るとしようか――」

「次の世界??」

「ああ、次の世界、じゃ――」


 レグナスの周りにまばゆい光があふれ出し、抱きつかれたままの態勢の二人をそのまま包み込む。


 やがてすべてが光で真っ白になると、レグナスは気を失ってしまった――。 

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