第15話 俺、王族専用ルートを進軍する暗殺部隊に妹を放り込む [アイル]
「アイル、聞こえるか?」
「バッチリ聞こえるよ!
正門前の戦いがひと段落したので、俺は次に敵が仕掛けてくるであろうポイントに配置したアイルと第一遊撃部隊数名の状況を確認していた。
イヴの追撃による虐殺は未遂に終わらせた。
場内からアマルフィアを通し、イヴに送っていた第一魔法部隊からの魔力供給を、俺の命令で全面カット。
いくら敵とはいえ、戦えなくなった者たちの命を全て刈り取る虐殺行為は、後々悪評となってミルトランの名声を蝕むことになる。
いくら3人の妹達が規格外の能力を覚醒したとはいえ、ミルトランが国として弱小であるという事実は変わらない。
必要なのは、少数精鋭ながら帝国の侵略から自国を守り切ったという事実。
撤退させればこちらの勝利なのだから、無暗に殺すことはない。
頭のいいイヴならその程度のこと、わかっているはずなんだけどな。
所詮は16歳の子供ということか。
激情で周りが見えなくなる辺り、うまくフォローしてやらないと国が滅びるな。
「俺の予想では、今アイル達がいる王族専用の脱出ルートに敵の暗殺部隊が送り込まれているはず。気を抜くなよ、アイル」
どの城でもそうだが、基本王族には専用の緊急脱出ルートというものが予め備え付けられている。
大きな国ほどその脱出ルートの数というのは多いらしいが、ミルトランは小国のため1つしかない。
帝国側がこの隠し通路の出口を発見していないとは考えていない。
彼らはそこから遡ってミルトラン場内に潜入する算段を予めつけているだろう。
だがそれが逆に、敵を迎え撃つにはうってつけ。
アイルを隊長とする第一遊撃部隊には、そのルートの中間地点で待機させていた。
攻城戦で大敗を喫した帝国は、恐らく俺の身柄だけでも捕獲、あるいは命を奪うためこのルートを利用して暗殺部隊を進軍させてくるはずだ。
時間的にはそろそろのはずだが……
「
「来たか……」
テンプレ通りの黒装束を身にまとった男たちが、アイル達の存在に気付き立ち止まった。
互いに間合いのギリギリ一歩外といった距離感で対敵している。
2、4、8……10人か。
案外少ないな。
まぁこっちはアイルの武力頼みだから5人しか配置してないんだけどね。
「……使節団の諜報結果と一致。ビルメンテ下手人がひとり、アイル・ミルトラン殿とお見受けする」
黒ずくめの1人がアイルの名前を知っていた事にはさすがに少し驚いた。
なるほど。あの使節団の連中、タダでは転んでいなかったようだ。
「えっ?私の名前、なんで知ってるの?」
「帝国の情報網を甘く見てもらっては困るな」
ただ調べているとはいってもせいぜいアイルの過去と、最近まで病気で寝てたってことくらいだろ。
彼女が何故急に規格外の強さでミルトラン攻略部隊のナンバー2を圧倒できたかまでは解析できてはいないはず。
仮に100歩譲って分析できていたとしても、対応策はないに等しい。
どうであれまったく問題ない。
「アイル。敵は余裕を見せながら出方を探っているだけだ。俺から見える範囲で敵の総数は10人。やれそうか?」
「余裕でしょ!」
拳を合わせていつでも攻撃を仕掛けらる合図を俺に送るアイル。
実に頼もしいな。
「ゼラニス。君を含む4人の遊撃部隊はアイルの後方で待機しろ。彼女の死角を抜けて先へ進もうとする敵がいたら叩け」
「了解しました、ラスト様」
4人の遊撃部隊員はウチの精鋭のみで編成している。
アイルほどの実力は当然ないが、それでもある程度の迎撃はできるはず。
特に副隊長のゼラニスは他国の有名どころにも引けをとらないくらいには、強い。
少数だが敵の暗殺部隊を止められる実力はあると信じている。
「……アイル・ミルトラン殿。貴女には2人お姉さんがいるね。シャンティ・ミルトランとイヴ・ミルトラン」
「……それがどうかした?」
「貴女も含めて3人の姉妹は、兄で現ミルトランの国王であるラスト・ミルトランとは血が繋がっていない」
「……だからなに?そんなことどうでもいいだろ」
よくしゃべる暗殺部隊だな。
今更その事実を確認したところで一体なにがあると言うのだ。
国中が知っている周知の事実だ。
「フフフ。使節団の調査報告によれば、貴女の兄ラスト・ミルトランと長女シャンティ・ミルトランは恋仲であるとのことだが、その事実は知っているかな?」
「なっ!」
なっ!
そんな事実はない!でまかせもいいところだ!
アイル、騙されてはいけない!
これは姉妹仲があまり良くないことと、彼女たちが俺に好意を持っていることを調べ上げた帝国側の情報操作だ!
……少し、侮りすぎたかもしれない!
「さらにラスト・ミルトランは、イヴ・ミルトランとも度々逢瀬を重ね、カラダだけの関係性を築き上げているという調査結果も出ている。アイル殿とは……一切そういった関係は結んでおられないようだ」
「アイル、騙されるな!ソイツの言っていることは全部嘘だ!」
「……」
アイルが下を向いて肩を落としてしまった!
くそっ!今この場で俺の無実を証明することは不可能だ!
浮気の言い訳に似た、しょうもない言葉しか並べたてることができない!
「大人しそうな顔してやることはしっかりやってるようだな、キミの義兄は。アイル殿はどうやら、あまりラスト・ミルトランの好みではなかったらしい」
「……」
「信じるな!アイル!俺は君を姉妹の中で誰よりも愛して……」
「ラスト・ミルトランは天真爛漫な淫乱元気娘より、女性的な体形を強調した天然色狂い娘か、大人しくて賢い好き者娘のほうが好みだったということだ」
おい、偏見もいいところだぞ!
スケベな元気娘だって俺は大好きだ!
いやいやいやいや。
今はそれどころじゃないだろ、俺!
「ラスト・ミルトランは信頼に値しない男だ。どうだ?アイル・ミルトラン。帝国にその身を任せてみるというのは?君の実力ならすぐに軍の上位幹部になれる。こんなみすぼらしい国はとっとと捨てて、大国で新しい人生をやり直してみないか?」
「……帝国には、
えっ?アイルちゃん、マジですか?
なんか心ちょっと揺らいでんじゃないか?
「ゴマンといる」
「私みたいなアバずれのノー天気女でも好きになってくれる、スパダリ王子様はいる?」
「ここにいる。少なくとも私にとっては、貴女はとても魅力的な女性だ」
黒ずくめの分際でなにちょっとカッコいいこと言っちゃってんの?
それ、ナンパじゃないですか!
……いやちょっとアイルさん!
なに無防備に下向いたまま敵に近付いて行ってんの?
まさか今会ったばかりの男について行くような、そんな尻軽女じゃないよね?
「アイル!!」
「
「そうだ、アイル殿。ミルトランのような滅びを待つだけの国で君のような……」
「……なぁ~んちゃって!」
地面を見ながら歩みを進めていたアイルが急に、消えた!?
「ごはぁっ!!」
口の軽い暗殺者の男が派手に胃酸と血をぶちまけ、その場に膝をつき倒れ込む。
認識するのにそれほどの時間は必要なかった。
説明すれば単純なこと。
トボトボ歩いていたアイルが、突然瞬間移動のごとき速さでしゃべっていた黒ずくめとの間合いを一気に詰め、強烈な膝蹴りを敵の腹にキメていただけだった。
「はん!1000歩譲って今お前の言ったことが事実だったとしても!」
崩れ落ちた黒ずくめの髪を掴み、自身の眼前に寄せるアイル。
もう意識がなくなっていることは明白であったが、彼女はソレに向かってさらに言葉を続けた。
「関係ない!最後は絶対、
近くにいた別の黒ずくめ2人が毒針のようなものを構え、アイルに迫る!
危ない!
「ぐはっ!」
「がっ!」
いや、危なくなどまったくなかった。
もはや格が違いすぎた。
襲ってきた2人の暗殺者は自身が何をされたかのかもわからなかっただろう。
ただアイルに攻撃をしかけて、見えない反撃でバタリと倒された。
彼女は眼前に伏した三人の暗殺者を一瞥し、自身が先ほど言いかけていた言葉を冥途の手向けにハッキリと言い放った。
「最後は絶対、
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