第13話 俺、城門前に展開する敵主戦部隊に妹を放り込む 1 [イヴ]
妹たちの
本当は明朝である今したほうが効果時間の観点ではよかったのかもしれないが、あの時はなんか収拾がつかない話の流れになったので、仕方がなかった。
治癒していた時の3人の表情は明らかに不服そうだった。
……妹達が俺に
ただ、俺は彼女たちに妹以上の感情を持ち合わせていない。
血は繋がっていないから、そういう恋愛感情的な気持ちになることが将来もしかするとあるかもしれないが、少なくとも現状その気持ちはまったくない。
とにかく、今はこのミルトランを帝国の魔の手から守ることが最優先事項だ。
それ以外の些末な問題は後で考えればいいだろう。
「イヴ……調子はどう?」
「……まったく、問題ありません」
ミルトラン城側の正門前。
俺とイヴ、そしてアマルフィアの3人が並んで立ち、嵐の前の静けさの中、最後の作戦概要をチェックしていた。
「アマルフィアは?」
「僕はイヴちゃん……じゃなかった団長が横に居てくれれば、いつでも万全です」
魔力測定試験の勝負でアマルフィアに勝ったイヴは、すでにミルトラン第一魔法兵団の団長に就任している。
ただそんな彼女の初任務は、恐らくミルトラン史上で最も過酷なものとなるだろう。
「敵総戦力の大まかな予測配置図は昨日話した通り。もう間もなく、
俺は城門を見上げながらイヴとアマルフィア、そして自分に言い聞かせるようにそう言った。
ミルトラン城を守る正門と四方を取り囲む高い城壁。
この正面を突破されれば、敵は雪崩のように城内へ押し寄せ、俺は一瞬で敵の手中に落ちるか凶刃に倒れるかのどちらかだろう。
シャンティとアイルはすでに別任務を遂行するための行動を開始してもらっているが、そもそもここが落ちたら本末転倒。
そうすると全ての意味はなくなってしまうから、俺がミルトラン第一魔法兵団に与えた任務、“帝国の総攻撃からミルトラン城を死守し、あわよくば殲滅大作戦”は必ず決行してもらわなくてはならない。
「……ラスト、お
「なに?どうしたの?」
「副団長は、足手まといだと、思うのです。私1人のほうが、作戦の成功確率は、上がると思います……」
「え~団長ぉ……僕、まぁまぁ役に立つと思いますよぉ」
いやそれはさすがにないよ、イヴ。
いくら君が規格外の術士に覚醒しているとはいえ、おそらく1万人近くで編成された帝国部隊の侵入を誰の力も借りずに全て1人で抑え込むのは難しいと思う。
火力的な側面はもしかしたら足りるかもしれないが、魔力切れを起こす可能性が大いにある。
アマルフィアをイヴのサポートにつけたのは、その足りなくなるであろう魔力を城内にいる全ての術士から送り込ませ、常に補給させるためだ。
魔力譲渡には媒介者が必要で、それは高度な魔法技術を持った術士にしかその役割は果たせない。
今のミルトランでそれができるのはアマルフィアのみ。
練度の低いウチの部隊を前線に出しても帝国の進軍は止められないし、無駄に命を失うだけ。
だったらイヴに全ての魔力を集め、1人で帝国1万の兵を相手にしてもらうほうが遥かに効果的なのではないかと考えた。
ただ、それでも城壁を上ってくる敵兵の侵入を全て防ぐことは難しいと思うので、城壁内にはウチが持つほぼすべての陸戦戦力を隙間なく配置させ、中で討ち取る算段にした。
一般市民の避難はすでに完了している。
城門前では殲滅作戦。城門内の侵入者は物量で各個撃破。
これが、俺がこのミルトラン城を死守するために遂行する戦略の概要だ。
一見無謀に思えるが、実は最も合理的な戦略だと自分では思っている。
まぁ、普通に考えたらとても作戦とは言えないけどね。
もちろん、イヴへの指示は女神にもらったもう一つのスキル【通信機能付き千里眼】とやらで逐一出すつもりではいるのだが、それでもイヴの能力にほぼ依存する事実は変わらない。
あとはもう、彼女が真の化物術士であることを信じて祈るしかない。
頼んだぞ、イヴ!
「イヴ。アマルフィアも僕の大切な仲間で、彼はとても優秀な魔術師だ。君の魔力は常に彼が補給する。だから、君は魔力を気にすることなく全力で、帝国の愚か者どもを駆逐してほしいんだ。わかった?」
「でも……」
「これは命令だよ、イヴ。僕のことを信頼するように、仲間の事も少しは信じてあげてほしい」
「ラスト様……僕、ちょっと涙でちゃった」
なんか目頭押さえて下向いてるけど、絶対泣いてないよね?アマルフィア。
適当なこというんじゃないよ、まったく。
「……わかりました、ラストお
「ありがとう。あ、イヴ。ちょっとこっちに来てくれる?」
「えっ?ラストお
俺はイヴを自分の傍まで引き寄せ、力いっぱい抱きしめてあげた。
「こんな作戦しか思いつかない愚かな兄を許してくれ、イヴ……」
「いや、そんな、あの……お
「えーいいなぁ、ラスト様。僕もイヴちゃんと……ひぃ!」
俺に抱擁されて身体をビクつかせながらも、アマルフィアを一瞥する眼光は衰えないイヴ。
なんで彼女がリズミカルに痙攣起こしてるのかはわからないが、まぁ嬉しすぎて心が震えちゃったんだと前向きに捉えよう。
「ラスト様!ミルトラン城正門、前方付近に敵影を確認しました!接触までの時間、およそ5分と推察されます!」
「ついに来たか……」
モブ兵士Bが片膝をつき、帝国の進撃を報告してくれた。
いよいよ、始まる。
「ラスト、お
「あ、ああ。すまない」
俺は抱擁を解き、イヴの肩に手を置き、そして言った。
「もう後には引けない。やれるね?イヴ」
「この命に代えても、必ず」
「アマルフィア」
「任せて!いざとなったら、僕が団長を連れて逃げてあげるから!……って冗談ですよ、冗談。そんな怖い顔で睨まなくっても……」
まぁそのくらいの余裕持ってくれる方がこちらとしても助かるよ。
ってかコイツ、魔力試験してた時と性格変わってるよね。
今まで根暗なヤツだと思ってたけど、こんな冗談を言う男だとは思わなかった。
こっちが本来の性格なのだろう。
喰えない男だ。
……ふふふ。
ついに本当の戦いが始まるんだな。
不安がないと言ったら嘘。恐怖という感情は確かにある。
ただ……この俺の身体を通して感じる、この感情はなんだ。
これは、高揚感だ。
高鳴る鼓動と湧き上がる血流。脳はクリアで身体は軽い。
ゲームでは決して味わえない、死と隣り合わせの本当の戦争。
しょうもない現実世界から転生し、俺は力を手に入れた。
小説世界とはいえ、大国を相手に戦える舞台を整えてくれた女神には感謝しよう。
この戦いで、敵国にはわからせる必要がある。
弱小国家ミルトランの若き王ラスト・ミルトランこそが、この世界に真の平穏をもたらす唯一王になる男であると。
震えて待てよ。ミルトランを蔑む馬鹿者どもが。
俺にイキってくる敵国の愚か者どもには、全員等しく心を病ませるとっておきのざまぁの味を、堪能させてやるよ!
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