第10話 「トーナメント開幕宣言」
会場は共有施設の屋上にあり空の下で行われる。
最低でも5000人が軽く入れるほどの規模だ。
ドーム会場の様に段になった席、広い敷地、中心にある四角い石畳の戦闘ステージ。空中には無数の映像イプリムが飛び回っている。
そしてステージに居るのは15人の代表生徒。
全校生徒がそれらを着席して観覧する中で1箇所特設スペースがある。そこを代表者15人は横並びで眺める。教師と実況、そして貴族王族が見るための来賓席だった。
グェン=レミコンサスは来賓席で1人の生徒と話する。
「いいね?テレシィ君。できるだけ目立たせるんだ」
「ついに先生も撮れ高気にしてくれますか!私もテン上げっすよ!!」
「あ、あぁ……。とりあえず実況よろしく頼むよ」
メガネをかけたロングヘア。ぼさっとした赤髪の綺麗な少女が元気に答える。新聞広報担当のテレシィ=ペンズだ。
「いや〜記事に集中しすぎてお風呂入ってないっす!」
「うん、報告はいらないかな」
グェンは苦笑いで答えながら返事した。
――ここでアオイコウキ君を目立たせ、確実な位置にする。3位以内に入ればきっと……。
そう強く決心した。
半年弱、この為にグェンは時間を費やしたと言っても過言では無い。コウキが学園で生きる為にカリキュラム以上のノウハウを叩き込んだ。
実際にアオイコウキは吸収して応用してみせた。どこまで強くなったとしても、実戦で生きるのは知識ではなくその活用。彼は寧ろ知識がなかったため充分に強くなったはずだ。
「頑張れ」
一言呟いてトーナメントがスタートする。
『皆さん、本日はお集まりいただきありがとうございます。学期末試験初人真剣勝抜戦。通称学園トーナメントの進行を努めます。テレシィ=ペンズです』
会場が始まりの予感にざわつき始めた。
『まずは彼ら15名の後ろにある画面をご覧ください』
映像イプリムの中でディスプレイ担当が空中に巨大な画面を映し出した。
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【本戦トーナメント出場者】
第一ブロック
赤・ガミア=イシュタル B/男
黒・アオイコウキ B/男
青・ナナミ=カトラッゼ B/男
黒・リリィ=ベルン B/女
第二ブロック
白・ミア=ツヴァイン S/女
赤・ゼクトロドリゲス A/男
青・レイヴィニア=コトル B/女
赤・アイザック=テスメル B/男
第三ブロック
青・ガラム=ルーカス B/男
白・ラン=イーファン A/女
黒・バキラ=グラスコ B/男
赤・プラハ=ヴァリアード B/女
第四ブロック
青・シュウメイ A/女
白・ピナ=ランティス B/女
白・ハオ=ロイドゲート D/男
黒・エルミーナ=ヴァリアード A/女
【ルール】
・決闘ルールに準ずる。
・基本試合の制限時間は5分。
・準決勝及び決勝の制限時間は10分。
・試合最中に場外へ出ると即敗退となる。
・道具の持ち込みには事前登録と審査が必要。
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其々の名前と顔が映し出され、同時に会場が賑やかになった。
来賓席では最も驚いた王族の1人をグェンは直ぐ把握する。
今回コウキが復活した事実に動揺しているのは1人のみ。それ以外の面々は気付いて居なかったり「彼は行方不明では?」程度の話しか出ていない。
『お気付きかも知れませんが、只今16人中15人が集まっています』
実況は続ける。
『実は今朝、代表者の変更がありました。詳しくは新聞部の記事をお読み下さい』
テレシィが「そして」と言葉を紡いだ。
『新しい代表者の運営許可が先程下りました。入場して下さい』
言葉と共に15人の後方から1人の影。
出場者の半分が後方の彼を見る。
ミア=ツヴァインは振り返って走り出していた。
「――、」
ミアは顔の見えない影の前で立ち止まり、いつか見た同じ光景を思い出す。
あの時はすれ違う事しか出来なかった。
実に半年ぶりの出来事だった。
遂に実況が彼の名を呼ぶ。
『
少年がフードを外した。
ちゃんと、元気そうに笑うコウキがそこにいた。
「ひさしぶり」
「――――、」
各クラスの仲間たちはその場で立ち上がる。
生きている。彼が呼吸している。
当たり前の事を喜ぶくらいに尊い一瞬は、まるで一生の時を感じていた。
そしてミアが飛び付いた。
「こーき!!!!!!!」
「あ」
ガバッと抱きついてホールド。
「――っちょま!?おま離せそれはまずいッ!」
「いやッ!!ぜっっったい嫌ッッッ!!!」
「嫌とか嫌じゃないとかじゃないんだけど!?」
「むりむりむりむりむりむりむりむりむりむりむり」
「キャラ変中失礼しますめっちゃグローバルですミアさん!?」
振り払う少年と絶対に離さない少女の絵にならないやり取りが映像イプリムで全国放送される。実況のテレシィですら次に進み辛い展開だった。
「わかったから!あとで話そうよ頼む!!」
「…………」
「おーけー?もう居なくならないから」
「ほんと?」
「マジ。みんな心配かけてごめんなさい」
謝るのをきっかけに妥協したミア。
コウキがステージ中央定位置まで歩くのを、ギリギリの際まで着いてきてから少女が離れた。
だがこれにより役者は揃った形だ。
『と、まぁそんな感じで!!それでは改めて――』
突然のイレギュラーにドン引きのテレシィは冷や汗を浮かべながら進行を再開する。内容説明や注意事項等が放送を通して伝えられていった。
「掴みは上手くいった」
来賓席にいるグェンはミアとコウキがこうなる事を予測できていた。
本来トーナメントは最初から最後まで全生徒が個別待機室を設けており全員が集まることはない。だから新しく開戦前に接触できる環境作りをした。
そしてこれは万が一の布石だが、ミアにはサプライズではなく“もしかしたらコウキが戻るかも”という余白を行動のヒントで残した。突然コウキが現れたら衝撃過で感動の余裕が無いかも知れない。
とりあえずはこれで第一歩。コウキとカーディナルの絆を王族に見せる事ができた形だった。
『――以上がルール説明です。準決勝敗退者同士の3位決定戦を最後に行い、上位3名に特典を与えます。試合は表の上から順。第一試合はガミア=イシュタルとアオイコウキから始まりです』
テレシィは大きく息を吸う。
『では今一度、16名の勇敢なる代表者に敬意を』
そしてグェンがマイクを変わった。
これはデスフラッグ以降半年ぶりの開幕宣言だ。
『彼の者達、天上へ至る刃の加護があらんことをッ!』
学期末試験初人真剣勝抜戦。
通称学園トーナメント、ここに開幕。
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