第9話  「復活の主人公」



 ――学園トーナメント前日の深夜。


 闇の中の闇。

 共同施設の広場は真っ暗な景色に包まれた。


 星の明かりだけが頼りの芝生の上、血溜まりに生徒が倒れ込む。切られた喉から「ヒュー……」と息が漏れ、生徒は必死に治癒魔法を喉に意識させて戻している。


 両手両足は粉砕骨折していて動かない。

 だが喉の傷は浅いのか、しばらくしたら治りそうな状態だった。


「君、雑魚すぎ。んでロイが何だって?」


 傷だらけの生徒は目の前に立つ少年を睨む。

 少年が深いフードを被ったまま、黒の瞳で生徒を見ていた。


「……」


 血塗れで満身創痍の生徒は、星の光に反射した眼光から敵意をまだ剥き出しにしているのがわかった。それを知った少年が大きくため息をつく。


 直後、フルスイングで生徒の頭を蹴飛ばした。

 鈍い音と共に歯が12本砕ける。


 生徒はやっと恐怖で体が震え始めた。


「答えろよ」


 ドカ、バギ、ゴギ、と。

 一方的な暴力の音が闇を支配した。


「まぁいいや……何だっけ君。言葉数多い割に名前も思い出せない。どっかで会った気もするな。確か、ライラを探しに4クラスに行った時だったっけ?」


 一通り痛めつけた少年は生徒の眼球をチェックする。

 晴れててよく分からないが、涙と恐怖で酷く歪んでいる。


 反抗心が消えた事を確認して彼は冷静になった。


「とりあえずありがとう。簡単に話にのってくれて」

「……ひぁぼへあ、ひゃうひょうべひぁひ」

「うんうん。了解」


 適当に流すと少年はフードをとった。

 側で決闘を見届けていたフードの少女に声をかける。


「反映されてる?」


 生徒手帳を確認した少女が頷く。

 少女は確認中何かに気づいたようだが、少年が「行こう」と合図をする。捨て台詞すら貰えなかった瀕死の生徒が、気絶する前に一言放った。


「あくまだ」


 言葉は空に散り伝わる事もない。

 直ぐに意識が遠のいて、赤い芝生の上で倒れた。


 ただ歩いてその場を去る2人。

 星に照らされて美しい夜空を見ていた。


「ねえ」

「ん?」


 返り血すらついていない少年に隣の少女が生徒手帳を向ける。それを見た彼は疑問に思ったが、意味は直ぐに伝わった。


「誕生日おめでとう」


 少女は真顔で日付が変わった時計を見せてきた。

 それが変に可笑しくて、少年は純粋な笑顔で返す。


「ありがとう」


 記憶のある内では初めてもらった祝いの言葉だ。



××××××××××××××××××××



 ――学園トーナメント当日。


 朝のニュースは全生徒を震撼させた。

 内容依然に衝撃な血濡れの映像が情報の足を早める。


 医療班より新聞部が第一目撃者になったことで、血まみれで気絶するアノマールの姿が動画リークされたのだ。


 内容は以下。


-----


黒色階級ノアールクラストーナメント抗争、復活の行方不明者】


 早朝、皮肉担当のアノマール=リアゲッティが無惨な姿となった。彼は全治1年以上の粉砕骨折に加え夥しい創傷。命に別状はないが、相手は急所を何度も故意に回避し暴行した事が窺える。


 この状況をいち早く知るべく我々が調査した結果、アノマール自ら決闘が申し込まれていることを確認。その後の調べによると、この決闘はトーナメント出場をかけての闘いだった。


 出場が決定していたアノマールがこれを目論んだ理由は定かではない。ただ相手は事実上アノマールの格下である。大きなポイント差を取得した対戦者は一気に頭角を現すだろう。


 いいや、それよりも。

 対戦者は行方不明のだ。


 姿形を捉える事は不可能だったが、これが事実であるならば6ヶ月ぶりの帰還。帰ってきた生徒怒涛の追撃とトーナメント出場。アノマールには悪いが、学園を盛り上げる引き立て役となってもらおう。


 続報をお待ちください!


 筆者 テレシィ=ペンズ


-----


 上記報道は共有施設に行く直前に報じられた。

 今大会は1学年最後のイベントだ。上級生も揃って会場で観覧するため、混雑を避けるために学年毎に移動しなければならない。


 つまり其々のクラスが広い教室に集まる事で噂は直ぐ拡散された。



 ――白色階級ブロンクラスでは。


「ミアっちキオっち!あとグレっちも見た?」

「御意」

「こーき?」

「……まさか」

 

 すとん、と生徒手帳を落としたミアとキオラは同時に鼓動が高鳴った。直ぐにミアがライラに連絡を、キオラがテイナに連絡を入れ始めた。



 ――赤色階級ルージュクラスでは。


「ガミアく〜ん、これほんとかなぁ」

「当たったら斬っていー?」

「朝からきめー動画流すなってんですよ」

「…………」


 生徒手帳を雑にしまって眠そうなプラハたち。ルージュクラスはいつも通りだ。黙り込むガミアは生徒手帳からマリードの連絡先を選択しメッセージを飛ばした。



 ――青色階級ブルクラスでは。


「スプラッタも女の子なら歓迎さ」

「わたくしには少し過激です、見れません」

「シュウメイ?ほ〜らほら、復活だってさ?」

「別に」


 小悪魔な表情を浮かべるリアスとマイペースないつもの面々を見て、シュウメイは普通に会場移動の準備を始める。思ったより動揺しない少女が逆に怪しいとリアスが笑った。



 ――黒色階級ノアールクラスでは。


「うあああああああああああああああああ!!」


 大惨事だった。

 朝修行で時間をずらしたネイが大慌てで教室に入ってきた。既にざわめいている教室がより喧騒の色を示す。


「マリードォオオオ!ここここ!コウキだ!!」

「ぬおおおお!?ネイ!!揺らしすぎである!」


 ネイがマリードに飛びついて肩を激しく揺らす。

 マリードもされるがまま揺れて居るが、心の内が穏やかではなかった。様々な感情が爆発している。


「コーキ……?本当に?」

「いやはや退院早々脅かしやがってぇ〜!ばっきゃろ!」


 テイナは逆に穏やかだった。泣きそうな表情で生徒手帳を見ている。それをフォローするように退院したばかりのエリエリがシュッシュッとシャドーして励ました。

 どんな励まし方だとテイナは思った。


「…………」


 そして最も意外だったのは隅でうずくまるライラだ。

 エリエリが横目で彼女の方を見てそっと目を逸らす。

 見なかったことにしてテイナを元気つけた。


「とにかくだ!」


 マリードが突然大声を出す。

 騒がしい一部の生徒たちが注目した。


「トーナメントに行けばわかるだろう」

「マリード……そうだな。すまない」


 騒いでパニックになっていたネイはマリードの言葉で落ち着きを取り戻した。内省した姿を見て彼は頷く。


「戻ってきたら迎え入れる。そしていつも通り過ごせる環境を作る。我々がコウキにできる事はまずそこからである」


 黒色階級ノアールクラス。デスフラッグの一行が意見を合わせるように頷いた。仮にコウキが生きていた時、何があっても離れないように各々はできる限りの事をしてきた。


 彼の事情を知る者たちは今一度覚悟を決める。


「行こう」


 そして1学年はトーナメント会場へと向かった。


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