第4話 「よ」
錯綜迷宮デリオロスゲート。
地獄は変わらぬ見た目でそこにある。
あの惨劇から五ヶ月以上経つと言うのに、シュウメイは昨日のことの様に多くの戦いを思い出す事ができた。
「……え?」
だからこそ、迷宮の違和感に気づく事ができた。
「入ればもっと分かるさ」
そうして入り口の方へと進み4クラスが始めた道とは異なるスタート地点につく。入り組む迷路のような道が特徴的だったが、今回の入り口は極端に真っ直ぐでどこかに続いていた。
「ここからは地下に続く一本道だ。足元に気をつけて」
「……はい」
シュウメイはここまで歩く最中にくっきりと覚えている光景を思い出す。
巨竜車を降りた時点から過去に感じたある特徴が失われている。
下り道を降りて行き、どんどん強まる違和感でついに言葉が出た。
「魔獣、いませんけど」
「そう。これがまず見せたかった光景だ」
「……どう言う事ですか、これは」
試験前、外の入り口から見えた大量のデリオロス。
今日はそれらが1匹も空を飛んでいなかったとシュウメイは思い出す。
加えて入り口から地下への道にも、別ルートとされる道にも魔獣は居なかった。人より鋭い彼女の民の剣気がそれらを説明している。
「報告と違うだろう?どこに夥しい魔獣がいるのかと思う」
「近くにもいません」
「ああ。更にここは特例閉鎖迷宮。今はもう申請許可無くては立ち入り禁止なんだ」
「……」
「じきに入り口は全て塞がれる」
「捜索隊は何を見て特例指定したんですか……?」
シュウメイは疑問が高まった。
地下に行けば魔獣が増えるのか。あるいはそもそも数が少なすぎるのか。
どちらにせよこの環境は魔獣遣い一人がどうにかできる規模なのだろうか。
考察中にグェンが返事する。
「捜索隊?一度も来てないさ、そんなのは」
「――、」
言葉が出なかった。
様々な思考を張り巡らせ、ただ無言で長い道を歩く。
道の途中でグェンが空気を読んで話を始めた。
「衝撃的だったようだね。すまない」
「驚くに決まってます」
「状況証拠を見せればある程度は信用してもらえるかなと」
「……探索隊の派遣は国の管轄です。それが誤情報だとするなら、これは」
「明らかな王国側の汚職と言える。それに考えてみればこの通路が存在する時点で全てが明白」
「迷宮の殆どが、故意に作られてるという事ですね」
「ああ。おそらく迷宮まがいの洞窟を作り、そこに魔獣を入れた擬似迷宮に違いない」
「同じ階層でこんなに異なる道は自然にできませんから」
「そうなるよ。一生徒の殺害だけに此処までする訳が無いだろうし、意図は全くもって分からないけれどね」
少女が歩きながら話を整理した。
グェンは生徒を殺害する名目の裏に何かが含まれているのでは無いかと説明している。迷宮規模の土地を開拓し、そこに魔獣を放って試験をした意味までは分からない。
だが、この
「全てを作り出して全てを揉み消すにしては大掛かり」
「不思議だろう?何故そんなことをするのか」
「はい。実際、王族の力があれば一月で迷宮作成はを可能にはすると思います」
「でもそれをする理由が見つからない訳だ」
「はい……」
シュウメイはじっと思考するが、意味はない。
一生徒ごときでは想像することも難しい話だった。
「公開はしないが私は理由の一部を予測できている」
「それは不確定事項だから……ですか?」
「そうだね。殆どその通りと言っていい」
「ほとんど?」
「ある人物との約束なんだ。全てを知るまでは何も話さないと」
「それを知るための組織化ですね」
「ああ」
シュウメイはこれらを聞いて自分が誘われた事に納得した。王族どころか貴族内の王族派にも絶対に内容がバレてはいけないため今回は敵が多すぎる。
少し抜けているミアでは漏洩リスクがあり力不足。
ライラも“特待候補生”で学園と貴族両方に精通。
他の有力な生徒は既に隠密組織に加入している。
「だから私……」
小さく呟く。
そもそもAランク以上で王族貴族の全てに関わりのない人物はシュウメイとゼクトロドリゲスくらいで後者は論外。他人より自分を信じて真面目に努力できるシュウメイは、グェンからみたら有力な駒だろう。
「そろそろだ」
「長かったですね」
しばらく歩くと道は狭くなってきた。
肌にまとわりつく湿気で不快感を覚える。
直線で進んだとしたらもう既に深層辺りまでは辿り着いただろうか。シュウメイは周りの壁や床、下り坂が続く光景を見ながら自分のいる場所を把握した。
そして目的地に到達した。
「着いたよ。ここが、見せたかった場所だ」
「扉……?」
通路の幅と同等の巨大な扉の前でグェン=レミコンサスは止まった。ドアノブに手をかけてシュウメイを見る。
「この扉の先で組織加入の是非を判断してもらいたい」
「どうして私なんかにそこまで拘るのですか?」
「それも、見て判断するといいさ」
グエンが扉に力を入れた。
鈍い音がグラグラと鳴って徐々に隙間が開く。
扉が全て開いた先は迷宮の一室だった。
天井が高く、岩と土しかない茶色い空間が広がる。
否、注目すべきはそこではない。
「――――ぇ」
シュウメイが震えた声を漏らした。
「よ」
前に立つアオイコウキが、挨拶をしてきたのだ。
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