第15話 「不本意な共闘」



 8対2000の交戦中。

 冬蓮華の群れの中に1人の男。ガミア=イシュタルの精霊剣、武炎の剣ゲルラが数多の魔獣を滅殺した。


「武炎帯剣」


 彼は力と体力を同時供給する精霊剣の能力で超人級のスタミナを持ちながらも、炎の魔法帯剣で更に強化するパワータイプ。帯剣中も力の強化は継続される為、このコンビネーションをフル活用した戦闘スタイルを得意とする。


豪塵ごうじん!」


 更に豪塵は炎魔法を渦のように身に纏い、寄せ付けるものすら焼き尽くす。武装のない冬蓮華では到底太刀打ちできなかった。


 純な力の暴力が、現れ続ける魔獣を滅ぼしていった。


「クソが。キリがねぇ」

「ガミアく〜ん!アレ見てアレぇ」


 遠くで交戦していたテオがガミアを呼んだ。話しかけてくるなとは思ったが、丁度視線の先にいたので反応する。


「――、」


 珍しくガミアは光景を二度見した。

 素直に「やばい」と思った。


「クソが……テメーら!この雑魚屠っとけ!!」


 薙ぎ払う事もせず歩きだけで魔獣にダメージを与えながらガミアは冬蓮華の群れから出た。パーティに指示を出すが全員無視。いつもの事だ。


 だがガミアは愚者ではない。こんなところでプライドを優先して命を落とすようなマネはしなかった。


 ――情けねぇが、やるしかねぇな。

 状況分析と対応。思考から行動までの速度に加えてその正確さがガミアの強みだ。


「ゼクト!重量溜まってからでいい。オレが失敗したら来い」


 ゼクトロドリゲスは戦闘に夢中だが、斬ることが好きすぎてどうせ加勢してくると判断しそれ以上は言わなかった。問題は――、


「オイ」

「なに、忙しいんだけど」

「ツラかせや」

「無理」


 近くにいるシュウメイは精霊剣ではなく忍術を使いサポートしながら交戦していた。そこにガミアが向かい、声をかける。


「――かせ」


 印を結ぶシュウメイの腕を掴んだ時、やっとガミアと目を合わせた。

 彼女はガミアが何を言いたいのかは分かっていた。


「――アレはまだいい、今は挟み撃ちの方がマズい」

「違ぇな、デリオロスが半分の位置まで来たら終わりだ」

「貴方やっぱり“何か”知ってるんだね。一部居ない事も」

「……いいから貸せ、ここはゼクトが持つ。オメーが居ねえとあの場は無理だ」


 互いの目が交差した。

 折れたのは、シュウメイだった。


「終われば話は聞かせてもらう。口外はしない」

「――仕方ねぇ」


 ガミアの返事でシュウメイはナナミへ指示を振り、2人は歩き出した。降りてくるデリオロスの群れを呆然と見つめるノアールクラスの方へ向かう。


「彼は何なの」

「奴隷だ」

「差別の話は要らないんだけど」

「何れにせよ“奴隷”だ」


 それ以上聞いても無駄だと判断したのか、シュウメイは不機嫌そうに黙って歩いた。

 断絶を100%行える可能性を持つ少年と今回の試験基準、そして居ない事実。これらから違和感を受けるのは当然だと心で思う。


 広場の状況は上から長方形で見た時に中央右下が冬蓮華の交戦、中央より下方にノアールパーティ、中央のかなり上の城付近にデリオロスが居た。


 ガミアはこのデリオロスが中央に来るとマズいと話す。

 それが何を示すのかはこの場の誰も知らない。


「おいハゲ」

「――ッ!?」


 そして2人はノアールパーティの元へ到着した。

 ガミアが後ろから呼ぶと、4人が全員振り返った。


「……何しに来たんだよオマエ」

「お呼びじゃねーよ豚」


 シュウメイはロイを見てこの人もガミアと一悶着あるのかと呆れた。ガミアは必要以上に敵を作りすぎているため、話を進めるのは厄介そうだ。


 そう思っていた時、今にも飛び出しそうなロイをマリードが手で制す。ロイは彼の目を見て私情を捨て、怒りを向けながらもその場にとどまった。


「ずいぶん飼い慣らしてるな」

「ハゲとは我の事か?」

「オメー以外に誰が居んだ」

「確認しただけである。貴族イシュタルのオツムをな」


 マリードが爽やかに皮肉で返すとガミアは興味無さそうな態度をとった。シュウメイはてっきり怒ると思っていたので驚きながら、自己紹介を済ませる。


「私は青の代表シュウメイ。彼は口の悪いガミア」

「存じている。マリード=デリアだ」


 他の面々も自己紹介を済ませると、最後のテイナの部分でシュウメイが彼女をまじまじと見つめた。


「えっ、何!?」

「似てないって思っただけだけど」

「あっはは〜、よく言われるよ〜。お兄ぃ堅物でうけるよね」

「あまり関わりはないけど。あと、代表はどこ?」


 シュウメイが突いてガミアが睨んだ。「シラを切ってやがる……」と、さっきの会話を無かったことにしたシュウメイに舌打ちした。


「……コーキの事知ってるの?」

「知らないけど」


 会話に違和感を持ったテイナはシュウメイに食い込んでいく。シュウメイもまた、何故踏み入れられたか分からなかった。


「何でコーキだけを名指ししたの?」

「居ないからだけど」

「いないのはライラさんもだよ?」

「………………そうなの?」


 なんか違う方向進みそう。と内心で焦るシュウメイは「だれ?」とガミアに聞くが、彼は目を合わせてそのまま無視した。

 赤い短髪は勝手に困ってろといった表情だ。


「まぁ、いいけど。話進めよう」

「良くないけど進めさせてあげるね?」


 テイナの笑顔は怖かった。恋愛感情なのか、仲間想いなのかはこの場の誰も探ろうとはしなかった。

 話すタイミングを待っていたガミアが大きくため息をついてイライラした様子で全体を見る。


「長ぇんだよ。単刀直入に言う。ハゲ、手伝え」

「デリオロスの事か?」


 遠くにいるデリオロスを顎だけで指すと、マリードが直ぐに理解を示した。


「ちょっと待て。何でオマエが指示するんだ」

「豚は黙ってろ」


 うおおおおおおお!とブチギレるロイをネイが止める。

 普通に会話しようとしていた良心をガミアが抉る。


「あまり吠えるなガミア。して、作戦を聞こう」

「マリード君、大丈夫なの……?」

「構わん。この性格で協力要請している事実を無視する方が危険だ」

「流石に軍才が光るな、ハゲだけに」


 シュウメイはたまにマリードの眉がぴくっと動くから、ちょっと傷ついてるんだなと結論付けた。不憫だ。


「テメーとオレ、そしてコイツで出来るだけ減らす」

「初めが我ら3人である理由は……一旦よそう」

「その後はテメーらだ」


 ガミアはテイナ、ロイ、ネイを見ながら言った。一度それぞれの能力特徴を軽く聞き、直ぐに作戦を組む。彼の手際の良さに全員が素直に驚いていた。


「そこの妹女が馬鹿みてぇな耳の男に出来るだけ高い付与をかけろ。馬鹿みてぇな耳のテメーは先頭の脚を出来るだけ早く切れ。最後に豚は一番先のデリオロスからトドメを刺して回れ。妹女は戦闘すんな。3分後またオレたちが代わる。これを繰り返す。質問はあるか?」


 淡々と話をするガミアに3人は最速挙手した。


「あぁ?さっさと話せ無能かよ」


 何でこんなことも分からないのかとガミアが思った。

 だが全く意図せぬ部分で落ち込む3人がそこにいる。


「豚やめてください」

「妹女やめてください」

「馬鹿みてぇな耳……………」


 確固たる意志を示す2人と傷つきすぎた男が1人。

 ガミアは戦闘においてパフォーマンスを発揮されないと困る為「仕方ねぇ」と名前で呼ぶことを了承した。


「ならば我も」

「テメーはハゲだ」

「…………」


 またマリードの眉がぴくっとした、とシュウメイが真顔で見つめた。マリードは「まぁよい」と多分強がって話を続ける。


「タイミングはいつだ」

「オレが指示する。いいか、一撃で多くの魔獣を殺せ」

「了解」


 マリードとシュウメイは意図を汲んで協力の意志を示した。

 最後にガミアが念を押すようネイの方を見る。


「テメーはちゃんと脚を狙え、なるべく多くな」

「尽力しよう」


 それぞれが役割を持ったところで、向かってくるデリオロスの群れの前に立つ。左からマリード、ガミア、シュウメイの順だ。


 3人は充分に広い間隔を空けて先にいるデリオロスの群れを眺めていた。黒く光る体、竜なのに歩行する姿、何よりも数が凄まじい。


「クソが。気持ち悪りぃぜオイ」

「貴方の言葉遣いと同じくらい不愉快だけど」

「実は、ハゲは少し気にしてる」

「それは知ってるけど」


 危機的状況においてもブレない3人は精霊剣を持ったままその時を待っている。

 暫くして、全体の3分の1程進んだことを確認したガミアが剣を構えた。


「分かってんだろうな」

「あぁ」 「うん」


 マリードとシュウメイが同時に返事をする。


「今から3秒後だ」


 そして目を閉じる。

 マリード、ガミア、シュウメイは同時に息を吸った。


 それは剣に呼びかける、肉体の調和と魂の解放だ。


「「「――――具現解放ッ!!」」」


 大気が大きく震える。

 即座、三者の到達点が顕になった。

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