第14話 「全クラス最終目的地到着」
――
デスフラッグの最終地点。
スタートから11時間後、初めて到着したのはブロンクラスだった。
「……まるで誰かに操作されていると疑うほど、時間ギリギリになってしまったな」
「そうだねー!キオっちのおかげでだいぶ楽できたけど、正直今回はミーも死ぬと思った瞬間あったなー」
金髪ロングの美少年キオラと褐色の宝石少女ラン=イーファンが溜息をつきながら入場した。
「おなかすいた」
「共感。食事不足」
後ろに続くのは白銀の少女ミア=ツヴァイン。
そして赤茶短髪オッドアイのグレイオス=ヴァリアードだった。
一見余裕そうに見えたブロンクラスだが、脅威の白と飛ばれる割には遅めの到着だ。
理由は何故か三連続で続いた大結晶スタンピード。いずれも全てデリオロスのものだった。
都合1100匹の討伐に成功したのは快挙だが、同時にあまりにも長くの時間を取られてしまった。特に後半は野生でもデリオロスが蔓延っており、1学年最強のミアですら長期戦に持ち込まれた程だ。
「ミア、体調はどうなっている」
「ん。もんだいない。おなかすいた」
特にミアはこの中で最もハードな戦闘をしている。キオラが心配するも、少女は泥のついた顔を拭いながら答えた。一行は余裕のあった数時間前と比較して相当削られている。
「あそこにあるのが城かー!なんか遠くない?てかここ広っ!?周り穴だらけだし!!」
今更敷地の特徴に気付くランだが、確かにこの部屋が通ってきた迷宮内で最も広い空間だった。
――最終地点、果ての城。
平面で見た時は長方形。だだっ広い敷地の北側に城が鎮座しており、その外周は数多の通路入り口と繋がっている。
更に出入り口のある場所以外は全てが底の見えないストームだらけで、あまり端の方に行くと下層に落ちかねない構造だ。加えて中央にもいくつかストームが存在する。
城は西洋古城型の巨大な4階層洋館で、木造と岩で作られ白い塗装が塗られている。窓はなく入り口は正面の扉一つしか存在しない。
この最上階に旗を刺して自陣に戻ればクリアだ。
「敷地が広い上に天井にはデリオロスか」
敷地の広さは危険度の高さと近いものがあった。
床からの高さは60mはあるドーム型。中心の小さな穴から出入りするのは3から5メートルのデリオロスたち。城の中に入るや否やどこかへと飛んで消えていく。
獲物が来たのに襲わない姿勢は社会的なルーティンの中で活動していることが窺える。本来暴食のデリオロスがこの様な状況を作り出す事自体不可解だが、キオラはそれ以上の分析よりも旗を刺す事に集中した。
「本来小中規模では見ることすら無いクラスの大結晶スタンピードが3連続、終始の可笑しなゴブリン、餌もなく蔓延るデリオロス、明らかに意図のある全魔獣……この謎は必ずいつか人類が暴いてみせる」
空の魔獣を睨み、キオラたちは歩き出す。
「キオっちいないねー魔獣」
「あぁ、今までが嘘みたいだ」
「快適」
「共感。楽だ」
特に何が起きるでもなく、城の前まで到着した。
城の大きさに対して扉が小さいのか、城が大きすぎるあまり小さく見えるだけなのか。
こぢんまりとした出入り口の前で4人は止まった。
よくある両扉の持ち手をランが掴んでいる。こう見ると高さが3メートルはあるため、城があまりに大きいと考えるのが良いだろう。
「んおっ!!ちょい待ちー!この扉、めっちゃ重い……」
押したり引いたりするランが微動だにしない扉を前に試行錯誤している。キオラとミアが後方で待つが、サポートに入ろうとグレイオスが前に出た瞬間。
扉が自ずから開いた。
「いや開くんかい!」
一本取られたよ!と叫ぶラン。
ドンッ!と。彼女の小さな胸を、巨大な針が貫いた。
「え?」
瞬間、鈍い音が再び続く。
キオラとミアの前にいたグレイオスも貫かれていた。
背中から針先が出ると同時、2人の顔に血が飛ぶ。
そこでキオラがようやく気づいた。
「――今すぐに引けッ!!!」
「ラン!グレイオス!」
踵を返し全速力で戻ろうとした時、ランとグレイオスが胸に5センチの風穴を作って動けないと理解した。キオラは焦りのあまり味方の状況を把握しきれなかった。即座にキオラがグレイオスを、ミアがランを背負って20メートル後方に飛ぶ。
「――っはぁ、おいグレイオス!大丈夫か!?」
「――――、」
「キオラ。こっちも反応無し」
「……最悪の奇襲だ」
全くもって油断はしてなかった。
そもそも扉を開けるのだ。全員が爆風や奇襲を考慮していたはず。それよりも速度が早かっただけ――否、気付けない理由はすぐに分かった。
「おい……民の剣気に反応しない……ギフテッドもだ」
「わたしも。そもそも、気付けなかったのは変」
互いが1人を支えながら回復魔法で傷を塞ぐ。
今はそれくらいしかできない上に、おかしいことは他にもある。
「致命は避けてるはずなのに、どちらも全く意識がないのも何故だ」
「ショック症状も無し。おかしい」
城の洋館の扉は開いたまま緊張感だけが過ぎる。
数分のうちに回復魔法が済んで2人を道の端に置いた。
どのみちクリアするには入らなければならないが、情報があまりに少なすぎるためミアとキオラは洋館に少しずつ近づいた。
これらの意味は射程圏内に入った段階ですぐに回避するためだが、それすら杞憂だと言わんばかりに直ぐ入り口から正体は現れる。
「あれは……」
乳白色で人と竜が合わさった様なシルエット。鋭い爪や牙を持ち、長い尻尾は数多の棘が生えている。
だが最も不可解なのは“状態”だった。
「……骨?」
キオラは目を見開いていた。これが現実かどうかさえ怪しいが、確かに今目の前には骨が現れている。骨である事を除けば、見た目は魔獣のそれと相違ない。
「ほね。だから知覚不可?」
「理論上はそうだが生物学的には可笑しな話だ!」
「でもそこにいる」
20メートル先にいる骨型の竜はカタカタと音を立てながらゆっくり歩き始める。全長3メートル、体重不明。おそらく固有武器は……尻尾の太い針だ。
「……いや。なんだかあの骨の魔獣……」
「骨操竜ケルニアス」
「そう、それだ!特徴もサイズも同じだ」
ケルニアスらしき魔獣が近づくのを警戒しながら、2人は横並びで精霊剣を顕現させた。キオラは能才付与のヘイムダル、ミアは特殊能力の魔剣ハデスだ。
「アンデッド族なんて居るのか?」
「滅んでる。はず」
「分かった。だがあれをアンデッドケルニアスと仮定して呼ぼう」
「ほねにあす」
「……………………分かった、ホネニアスでいこう。そのホネニアスの動きや特徴が分かるまでは隙のある業をやめてくれ。僕が強化する」
「ん」
2人は大きく息を吸う。
倒れて動かない仲間を横目に、倒すべき目の前のホネニアスを捉える。関節は脱力するイメージで、爆発的な速度と流動的な動きで緩急をつける準備をした。
そして、開戦の火蓋は切って落とされた。
「――ヘイムダル!開戦号令、力を成せ!」
「疾ッ!」
即座に与えられるヘイムダルの人体強化。特徴はそのパワーバランスを付与者自身が選べる事だ。
もちろんミアはスピードに全振りし、速度で以て相手の特徴を捉えに行った。
「――、」
風を斬る、むしろ斬り伏せる勢いで即座に射程へ持ち込み、ただでさえ速さに自信のあるミア瞬速の一撃が――、掠りもしなかった。
「な」
言葉は一つだけ。それ以上を許さないホネニアスの爪がミアをより早い速度で襲う。咄嗟に剣で守るものの、体重が軽い白の少女は洋館の壁に突き飛ばされる。
「ぅぐ」
「――ミア……?」
キオラはこの日初めてミアが尻餅をついている光景を見た。あれだけの魔獣を前に涼しい顔をしていた少女は衝撃に顔を歪める。
「大丈夫、油断した」
「僕も加勢しよう」
「やめて」
ホネニアスに向かおうとしたキオラを、立ち上がったミアが城側から止めた。そこに余裕はなさそうだった。
「本気出す。気を遣えない」
「……了解だ」
こう言われてはキオラも参加できない。
1学年最強のミアの足を引っ張る事実に歯噛みするが、それでも仲間を信じて見届ける。
そして、ミアが動いた。
ドッッ!!と風が舞う。目視できない領域に、甲高い金属音だけが遅れてやってくる。
ホネニアスの周囲を凄まじい速度でミアが行き来し、あらゆる角度から火花が散った。もはや何をしているかも分からない最速の戦いにただ圧倒される。
――この時。
ミアは戦いの最中で徐々に感じていた事がある。一度目の攻撃は通った。二度、三度、四度とあらゆる角度から魔剣を放つ中で確実にホネニアスはダメージを負う。
だと言うのに、徐々にホネニアスがミアの攻撃速度に合わせてきているのだった。これが何を示すかは定かでないが、高速の剣撃の中で一つの事実が導き出された。
「……適応、してる」
ドガッ!!!
ミアのゼウスとホネニアスの鉤爪が交差した。
ぎりぎりぎりと擦れる音がして、互いが向き合った。
「キオラ。ほね、適応してる」
「……適応?速度や攻撃パターンか」
「ん。たぶん倒し方は分かった」
ミアが伝えると鉤爪を大きく弾き、同時に射出された尻尾の針をしゃがんで躱す。
「――、」
凄まじい速度がスローに見えた。
一歩ミアが踏み出すたびに高速度で爪を振るホネニアス。踏み込みながら少女は的確に受け流し、懐に入って剣を薙ぐ。
「断絶」
ビシィィ!と黒いイナズマがホネニアスを刈り取った。
それまで最速だったはずの敵は突然動かなくなる。
「――、」
「……なんだ」
次の瞬間、崩れるように砕け散った。ジグソーパズルがバラけるように部位ごとに落ちていき、ミアの前に骨の山だけが残る。
「ん。終わった」
「ミア」
すぐにキオラが駆け寄るが、ホネニアスはただの細い竜骨の山となっていて動く様子はない。
「何だったんだ、この魔獣は」
「分からない。可能性は遠隔操作」
「遠隔操作……魔術の類か。それはありそうだな」
「断絶で動かなくなった。たぶんそう」
断絶の特徴は斬らずに断てるというものだ。純粋な会心目的では両断されるが、意思次第では簡単な魔術の類や精神操作のみを斬ることもできる。
キオラは今やるべき事は原因特定よりも状況分析だと考え深い考察をやめる。とにかく城には入らなければならないし、倒れた2人をどこかに隠さなければいけなかった。
「……一度2人を比較的安全な場所に置いて、魔除けを張ろう」
「ん」
キオラとミアは2人を運び、近くの岩を削って中へと隠した。入り口を岩でカバーして魔除けの札を貼る。
やるべき事はやった。2人のどちらかが起きた時に内側から開ける事は可能だろう。
先ずは城に旗を置く目的の方を考える。
「よし……行こう」
「ん」
倒れた仲間に複雑な感情を抱きながら2人は空いた扉の前に立つ。部屋の奥は薄暗くてよく分からない。
一歩また一歩と近付いて洋館に入った。
扉が2人を隠すように自動で閉じる。
「くそ……!!」
「――、」
そして、洋館内に大結晶が出現した。
××××××××××××××××××××
――
「まさか……」
空間の西側から目的地の部屋に着いたロイが小さく言葉を残した。城を見て目的地を悟ったのだろう。
喜びよりも驚きが混ざっていた。
――時は1時間前に遡る。
「……魔獣はほとんど出なくなってるけど、目的地まで着く気がしないぜ?」
「――ロイ。それなりに速足だが、やはり走れない事が弊害だ」
「あぁ、15分の仮眠を2セット続けた事も理由だが、まだかかる可能性は大いにある」
ロイの言葉にネイとマリードが応えた。
一行はコウキと逸れた時点で距離ではなく時間でのペース管理をする事にした。当時残されていた時間は8時間弱、テイナが使えない以上この時間を歩いて無理ならもう仕方がないと考えた。
勝ち負けにこだわる必要があるが、無茶ばかりをしてこれ以上何かを失えばこのパーティは崩壊するだろう。
マリードの提案に異論を唱えるものは勿論いない。
約3時間毎に20分休憩15分睡眠を重ねて今に至る。
残り時間は2時間程度で、どれだけ歩いても入り組んだ道が続いた。
「まぁ時間過ぎちまっても約束がある。とりあえず行くしかねーよ」
「ロイ、この数時間で頼りになったな」
「元々頼りになるだろ!?バカが…………ぁ……よ?」
「どうした」
振り返って怒るロイの顔が、だんだんと不思議な表情に変わっていく。それは徐々に驚きに変わり、思わずロイはその場で叫んだ。
「――テイナちゃんが起きてるッッッ!!!?」
男3人、一同に驚愕してテイナを見た。
「――んぁ、おはよぉ……」
「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」」」
「――ちょっ、ちょっ!?揺れてる揺れてる!」
ロイ、ネイ、マリードが大歓喜しながら肩を組む。ロイは感極まって号泣。ネイとマリードまでもが目尻に涙を浮かべていた。
彼らの中には、長く目覚めることがないという最悪のパターンまであったほどだ。これだけ早く目覚めた事に心からの喜びを得ていた。
「テイナちゃん!体調は?どうだ!?」
「えっ、あ、全然大丈夫だよ!怪我……してたのかな?ちょっとゴブリンからの記憶が無いけど……」
「そんな事はいいんだよ、元気そうでよかった!」
おぶられてる様子を見てテイナが察すると、ロイは満遍の笑みで答えた。
マリードが縄を解いて降ろし、テイナが痺れる足をなんとか持ち堪える。
テイナは周囲の様子から察するに、おそらくここは道の途中だと認識した。自分が怪我をして眠っていたことまでは分かった。身体に異常はなく、疲労もかなり回復している。頭も冴えて心地いい万全の状態。
――でも、何かが足りなかった。
「…………コーキとライラさんは?」
言葉に3人が黙る。
不穏な様子というよりは何から話せばいいのかを決めかねているようだった。しかし、切り出したのはネイだ。
「テイナ。……コウキはライラと共に下層へ落ちた」
「――ぇ」
ネイの瞳がテイナの目を捉える。彼女は動揺を隠しきれない様子だった。
しかしここで誤魔化す訳にもいかなかった。
「だが約束した。必ず目的地で会おうと」
「――、」
沈黙が続き、テイナがさが思い詰めた表情をした。どう声をかけていいのか分からない3人が少女を見守る。
3人同時。ネイが続いて声をかけようと、ロイが励まそうと、マリードが切替の言葉を選ぼうとした時だった。
「――そっか。なら信じて目的地へ向かおう。詳しくは歩きながら聞くから」
テイナは強くあることを選んだ。
3人はそれぞれ複雑な感情が過ると共に、覚悟を決めて頷く。こうして目的地の方角へ向けて歩き出した。
道中では、テイナが倒れて直ぐにコウキが駆けつけたこと、ライラが激怒して相当な無茶をしたこと、コウキが絶望の底のような顔で項垂れていたこと、それをロイがぶん殴って目を醒させたこと、マリードの具現開放やストームの出来事等……様々な話をしていった。
時にはペースを無理に上げて走った。
時にはテイナの力を借りて大きく進んだ。
とにかく約束の時、コウキたちと会えるように。
4人はただ真っ直ぐに言葉を信じて絆を想った。
「まさか……」
1時間を経過した頃、先頭を走っていたロイが言葉を残した。
驚いた表情で目の前の光景を見る。
それは直ぐに喜びへと変わり、振り返ったロイが3人へ告げる。
「ついた……ついたぞ…………!――目的地だッ!」
「――ッ!!」
反応したテイナ、ネイ、マリードが走り続いてその光景を見る。感動のあまり全員の手が震える。
緊張にも似た肩の震えと達成感をぐっと抑えて、4人は入場した。
「ここが……目的地」
「――ここで会うんだ。コウキ、ライラ」
「絶対に勝とうねコーキ」
「無事でいろ」
其々が西側から膨大な敷地と奥の城を眺める。
周りはストーム、天井にはデリオロス、身体は限界を迎えたこの地獄で目的遂行の任務が始まる。
全員が誓いを胸に進もうとした時だった。
「……あれ、
それは向かいの東側。
シュウメイたちが走りながら部屋に入ってきた。
××××××××××××××××××××
――
広い空間の中心に澄み渡る巨大な池がある。
最も水の透明度を知るには、その上に浮かんだ2000を超える大量の蓮の花を退かさなければならない。
美しい花が一面に広がっている光景は地獄の入り口と揶揄される迷宮とは程遠い世界だ。
そこに癒され、眺めている4人がいた。
「急がなきゃなんだけどね〜。ちょっとこれは足が止まるっていうか」
「確かに綺麗だけど」
「うわああ。ほんっとうに綺麗ですね」
「華を愛でるオナゴ。あぁっ……てえてぇさぁ」
リアスを筆頭にツインテールのシュウメイ、姫カットのヒメ、残念イケメンのナナミが池を眺めていた。
空間はだだっ広く、池もそれなりに大きい。そして堂々たる満開の花。見るものを魅了するとはこの事だろう。
自然本来の美しさに触れて5分ほど光景を楽しんだ。
「行こう。花はいつでも愛でることができる」
「シュウメイ氏……それ何か名言みたいじゃないか」
「下ネタには繋がらないよね〜ナナミ?」
「流石の僕も華の前では難しいさ」
何を言っても信用はない。花が好きなナナミは普段の行いが悪いとちょっと反省していた。
これは大変珍しいことだった。
「――、なんか来る」
雑談も束の間、シュウメイ含む全員が警戒態勢に入った。池を挟んだ向かいの出入り口から何かが来る。
「おめーのせいでクリークが消えたんですよ。3浪のセカンド童貞みてーな顔しやがってです」
「あぁ?斬っていー?」
「ガミアく〜ん、君だけなんか知ってそうって思うんだけどなぁ」
「――想像に任せる、喋りかけんな」
「あ〜まじか。もうやだ〜」
リアスの嘆きも届かず。
入り口から現れたのは
入ってきたのは順番に赤の短髪ガミア、青髪のテオ、黒髪ロングのゼクトロドリゲスに、ボブヘアのオーバーサイズ制服はプラハだった。
「――うわっうわわっ!なんかくっせーと思ったら
プラハが心底嫌そうにパタパタ手を振った。4人が眺めていると、無視して通り過ぎると思っていたガミアが珍しく声をかけてきた。
「よぉ、雑魚ども。調子はどうだ?」
「珍しいね、人と話せるんだ。意外だけど?」
真顔でシュウメイが返事をする。
ヒヤヒヤしていたのはリアスだ。温厚なメンバーが多い中で最も角が立つのは実はシュウメイなのである。
「テメー質問に質問で返せって学校で教わったのか?」
「そっちこそ質問時は具体的にって教わらなかった?」
5メートルほどの距離で睨み合う。赤と青の代表者。
「勝負だ」
「勝負ね」
リアスがずっと「何言ってんだろうこの人たち」という顔で見ている。ヒメはあたふたしているし、ナナミはぶかぶかの服を着たプラハを「萌えだね」と評価している。
ルージュの他の面々は特に興味もなさそうだった。
「先に目的地へ着いたクラスが勝ちだ」
「おそらくもう一本道だと思うけど?」
「庶民の癖に剣気が鋭いな。蹴落とし合うんだよタコ」
「貴族の割に口が悪いけど。まぁ、いいや」
お互いの方向性が決まったところで、位置につくために全員が出入り口に並ぶ。
その時。背後の蓮の池が波立った。
「…………中断だ」
「予定外だけど」
池から続々と魔獣が出現する。
ガリガリの人型魔獣は頭に一輪の蓮の花を乗せていた。
剣気で確認できないのはその身体がとうに死滅しているからであり、それを操るのが蓮の花だったからだ。
「めーっちゃ気持ちわりーです」
「斬っていー?」
「ゼクトく〜ん、これは多分いいよぉ」
よく見ると魔獣は痩せ細っているがゴブリンやオークにも見え、全身の血管のように見えるのは蓮の根だ。
奴らは蓮の数だけ存在する。
美しい姿に触れたものを取り込み操る。
これこそが寄生花、
「きもいきもいきもい」
「わたくし無理ですぅ!」
「萌えじゃないね」
リアスとヒメの悲鳴を聞きシュウメイが指示する。
「――もっと広いところで戦う。走って!!」
直後、走り出した8人。
そして数えきれない程の冬蓮華が一斉に追いかけた。
××××××××××××××××××××
全色階級、最終目的地“果ての城”到達。
「――あれは……!」
「クソが。ノアールが先かよ」
「……いない」
「あぁ?何言ってんだテメー」
向かいにいたノアールクラスにシュウメイが気付きその後に続いたガミアが舌打ちする。
最速で走った2人は一度中央まで走り、来た道を振り返ると大慌てで自分のパーティに其々指示を振っていた。
20m程度の距離でそれを見ていたのはノアールの面々だ。
縁のストームが危ないということで中央から城を目指そうとしたため、思いの外近い距離にいた。
「
「――ロイ君、みんな慌てて何してるんだろう?」
「テイナ、構わず進もう」
ロイ、テイナ、ネイが其々感想を述べたあと、様子がおかしいとマリードが彼らの来た出入り口に目を凝らした。
「――、」
マリードは冷や汗と苦笑いを浮かべた。
ドドドドッッ!!と。
地ならしが起きてすぐ、入り口から気持ち悪い花の魔獣が現れた。
「なんじゃありゃぁぁぁぁぁ!?」
「ごめ〜んノアールの人たち!連れてきちゃった!」
「バカがよッッッ!!!」
珍しくロイが女子生徒にキレていた。
リアスはてへっとウインクしてそのまま魔獣たちと交戦し始める。
「ノアールく〜ん、2000匹くらいいるんだぁ、ちょっと手伝えないかねぇ」
糸目のテオが応戦を希望する。
その言葉のあとにブル、ルージュ共に全員が魔獣との大交戦を始めた。
「いやいやオイ明らかに8人で終わらせる量じゃなくないかあれ?減らないぞ!!」
「――おそらく大丈夫である。ゼクトロドリゲスがいる」
「やはり先を急ごう」
「ネイ君でもあの人助けてって」
「テオはとりあえず言ってみるタイプだ。気にするな」
何か繋がりがあるのかネイがそう言い残すと進み始めた。
着いていくようにノアールのパーティが進むが、すぐにロイがネイの腕を掴んで止める。
「――んんんんん??」
「どうした、ロイ」
「ウエカラナニカオチテクルヨー」
キャラ崩壊する程にイレギュラー続きだった。
「――、」
超巨大な真っ黒の物体が天井から落ちてきている。
それは大きさにしてはゆっくりと落下している。
城の前あたりに向かってじわりじわりと降下する。
目を凝らした4人が言葉を失った。
「……………………………………………全部デリオロスだ」
都合3000を超えるデリオロスの群れが一斉躍進する。
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