第10話 「忍者の末裔シュウメイ」



 ――錯綜迷宮さくそうめいきゅうデリオロスゲート。

 白色階級ブロンクラススタート60キロ現時点。


 ハイペース攻略もあと一歩のところ。

 後半戦を一気に乗り切るためにまずは全員仮眠する案をランが提出。

 丁度広い部屋に出たので4人は休んでいたところだった。


 キオラが岩に座りながら生徒手帳のノートにまとめた文を眺める。


 今参加者の能力をリスト化したものだった。


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【参加者能力一覧】


白 光タイプ――付与や解放や空間や不変、等

・キオラ=フォン=イグニカ B “能才付与系”

・ミア=ツヴァイン S “特殊能力系”

・グレイオス=ヴァリアード B “斬撃解放系”

・ラン=イーファン B “能才付与系”


赤 炎タイプ――強化や成長や広域や災害、等

・ガミア=イシュタル B “個人強化系”

・テオ=ランティス B “広域範囲系”

・ゼクトロドリゲス A “時間成長系”

・プラハ=ヴァリアード C “個人強化系”

・クリーク=バラモア B “個人強化系”


青 水タイプ――保護や集中や回避や災害、等

・シュウメイ B “決定集中系”

・リアス=クロイ B “決定集中系”

・ヒメ=オオタケノミズチ B “特殊能力系”

・ナナミ=カトラッゼ B “分散保護系”


黒 闇タイプ――減少や拘束や時間や変化、等

・アオイコウキ B “不明”

・ロイ=スリア C “肉体拘束系”

・ネイ=オラキア=トリネテス B “能才減少系”

・ライラ=ナルディア B “特殊能力系”

・テイナ=フォン=イグニカ C “能才付与系”

・マリード=デリア B “環境変化系”



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 ギフテッドや魔法能力を除いて、単純な剣のアビリティをリスト化したものはこのようになっている。

 白と赤、黒と青は能力の方向がどこか似ている。

 白と黒は対になる関係、赤と青には共通項目の災害系が存在したが参加者には居ない。


 これらとランクを踏まえて最も攻略効率がいいのは実は赤のルージュクラスだとキオラは考える。

 5人のバランスの良さ含め、迷宮攻略には単純な個人強化も役に立つ。


 次いで青のブルクラスだろうか。

 決定集中はクリティカルや弱点突破の一手を得意とする上に、分散保護は防御の要だ。4人で機動力もある。


 最後に黒のノアールクラス。

 一見バランスは良いが、テイナ1人でこの多人数をカバーするのは難しいはずだ。加えてコウキの能力は依然分からず、何が起こるか予測ができないクラスと言える。


「――何だ?」


 生徒手帳の分析を改めてしていた時、キオラの目の前を光の粒子が飛んだ。

 青い光が宙を揺蕩うが、そこに幻想的な要素を見出すほどブロンクラスは浮かれてない。


「これは……何かがおかしい」

「キオっち!なんかなんか、ミーの感覚ではこの光はちまっと変だなと思う!」


 金髪の髪を結び始めたキオラが言うと、宝石だらけの褐色少女ラン=イーファンが二つの団子を揺らしながら返事をする。


 周りを見る。

 柔らかい青の光が大量発生して空間全てを埋め尽くしていた。

 誰よりも多く進んで大体の迷宮ロジックを把握したブロンのチームにとってこの状況は美しさよりも違和感に繋がる。


「この光、集まってる」

「共感。部屋の中心へ向かっている」


 呟くのは白銀の少女ミア=ツヴァイン。

 人間味のない声で返すのはグレイオス=ヴァリアードだ。


 光景が何を意味するのか彼らには分からなかったが間違いなく普通ではない事は分かる。

 そして一番不可解な点はキオラの体にあった。

 奇妙な焦燥にかられるも、その理由を五感で捉える事ができない。


「――とにかく、僕たちはここにはいない方がいい。全員次の広い部屋まで走るぞ」

「うーん、キオっち。……もう遅いかも?」

「ん。遅い」


 キオラの言葉に女子2人は一点を見ながら返した。

 キオラもその視線の先を追うと、驚きに言葉が詰まる。


「――ッ!?」


 そこには、巨大な青の丸い球体がある。

 宙に浮いたその球はまるで結晶のような美しさで佇む。直後に発光し部屋中を円の青い光が囲んだ。サークルの中に入っている4人は空間の中がやや息苦しくなる感覚を得た。


「疑問。あれは何だ」


 グレイオスが問いかけてミアが説明する。


「大結晶。たぶんデリオロス」

「あーね、スタンピードかあ!」

「理解」


 これまで無駄なく圧倒的に攻略を進めてきたブロン。そこへデリオロス200匹相当の大結晶スタンピードが発生する。

 じわじわと生み出される、黒い3メートル級の獰猛な竜たち。


 4人は即座に精霊剣を構え増殖していくデリオロスと対峙する。

 その姿に焦りはなく、ただ課題をこなす様な淡々とした所作を感じた。


「いや……僕らでも、まずくないか?」


 4人の中でキオラだけが汗を浮かべていた。



××××××××××××××××××××



 ――錯綜迷宮さくそうめいきゅうデリオロスゲート。

 青色階級ブルクラススタート38キロ現時点。


 ブルのクラスは進行度調整のために迷宮の細道をできる限りの速度で進んだ。これは休憩前にハイペースで進み、直前で減速して慣らし、その後休みに入るという一連の流れのためだった。


 現在は休憩の直前でゆっくりと歩いている。


 歩くたびに深緑と赤の髪、長く垂れた首のリボンが揺れるリアス=クロイ。彼女は前を歩くシュウメイの足をまじまじと見る。


「シュウメイさ〜あ、だいぶハイペースで進んだけど配分合ってる?」

「少し無理してるけど。辛かった?」


 シュウメイは紺色のツインテールを揺らして振り向いた。

 アイジュエリーのついた目がリアスの視線に気づいて鋭くなる。


「どこ見てんの」

「だから御御足だよ〜、本当スケベだね〜」

「はぁ」


 ふんふん、とシュウメイの絶対領域を眺めるリアス。見られる側はもう慣れてしまった自分に悔しさを抱きながら無視して前を向く。

 一行はそれほど疲れていない様子だった。


 少し進んだ時、リアスの後ろを歩く姫カットの少女が口元に手を置き振り返る。ヒメ=オオタケノミズチだ。


「ナナミさんは大丈夫です?」

「僕かい?もちろん元気さ、むしろハードこそが至高」


 後方にいたのは残念なイケメンである。


「ナナミ〜わかってるよなあ?」

「り、リアス氏……!どうしよう、やらかしてもやらかさなくてもご褒美だっ!?」

「あらあら、元気そうでよかったです」


 金髪を激しく掻きむしりながら悩むナナミを見てヒメはズレた感想を並べた。

 振り向きもしないリアスの殺気がナナミ=カトラッゼをより興奮させる。


「そういえば、わたくし最近お料理を始めたのです」

「んお〜、それはいいねヒメ。何作ってるの?」

「うふふ、煮込み料理ですよリアスさん。上手になったらお作りしますね」

「煮込み料理とはヒメ氏。また難しいジャンルを」


 ナナミが綺麗な顎に手を添えて言う。

 彼は残念さを除けばスペックが異常に高く、文武以外に料理の才もあるほどだ。


「ナナミさんほど上手くなれば、わたくしもより楽しくできそうです」

「上手い下手よりも大切なのは愛情さ……何事もね」

「わたしの心が穢れてるのかな、もう全部違う意味に聞こえる」


 キリッとした目で話すナナミにリアスが答えた。

 ヒメは料理のワードで楽しくなったのか、先頭のシュウメイにも声をかける。


「シュウメイさんは何が好きですか?」

「照り焼きだけど」

「それはそれは、美味しく作るのが大変なジャンルです」


 即答だった。

 振り返りもせずにシュウメイが答えると、ヒメは「まだまだこれからですね」と付け加えた。


「照り焼きか……まぁ僕から見てもあれは多少なら誤魔化せるさ。本当に美味しいものを作るなら技術は必要」

「ナナミさ〜あ、普段からそのキャラで行きなよ、下ネタやめよう。そしたら多少モテると思うし」

「何言ってるリアス氏、僕がモテる必要はない。女の子同士で花園を展開することが僕の中では至高……つまり、僕なんかは便器の塵紙でいいのさ」


 もう誰にもナナミの思想は理解できなかった。

 ヒメすらもサポートできないほどに拗れた性癖がブロンの女性陣を黙らせる。


「あれ、言いすぎたかな……まぁ放置プレイだと思えば快楽さ」

「おまえ本当にくたばれよ」

「あぁっ!その棘も気持ちいぃっ!」


 髪を靡くナナミにリアスが苦言を呈す。

 ご褒美でしかないことで嫌気がさしてこれ以上の会話は行われなかった。


 こうして広い部屋にたどり着いたブルクラスは休憩のためにキャンプを広げる。今回は各々が順番で仮眠をとるつもりだ。その後は最速でクリアに励む予定である。


「にしてもさ〜あ、シュウメイ。今日の迷宮ってこんなに簡単だったんだね〜、わたし的にはもっと苦戦するかと」

「どうかな……ここから過酷になるかもだし、あまり油断はできないけど。私たちなりに気を抜かずにやればいいと思う」

「うふふ。そうですね、傲慢にならない事がわたくしたちの良さだと自覚しています」


 座りながら水分補給をするリアスとシュウメイの会話にヒメが参加した。

 近くにいたナナミも共感するように前髪をかきあげる。


「僕も異論はないさ。自意識過剰のメスガキ系をわからせるってのも乙だけどね」

「お前はなにを言ってるの?」


 リアスに流されてちょっと気持ちよくなるナナミは末期だ。

 困惑した様子で対応する彼女は、逐一反応を示す分なんだかんだ言いながらもお人好しなのだろう。

 シュウメイは見向きもせずに道具ポーチを整理している。


「シュウメイさん、気になっていたのですが……その小さな刃物たちはなんでしょうか?」

「あ〜そっか、ヒメとはパーティになるまでわたしたちと交流無かったもんね?」

「これは角手と苦無と手裏剣。角手は毒針の指輪、他はナイフや飛び道具の役割と思っていいけど」


 そう言いながら、シュウメイが手裏剣をすっと投げて見せる。

 軽々しく投げた割にはぐんと伸び、広い空間の先にある小さな岩を砕いてみせた。


 大きな破壊音に驚いたのか、ヒメは肩を跳ねさせて遠くを見つめ呟く。


「……物理法則に則って無さそうですが」

「簡易的な人体魔法と風魔法で応用してる。あれでも優しく投げた方だけど」

「そ、そうなんですね。正直恐ろしく思います……」


 姫カットが嫌な汗を流すと、補うようにリアスが話始める。


「シュウメイは今は滅んだ忍者という一族の末裔なんだよ〜、隠密行動に長けてる上に、魔法ではなく魔術がちゃんと使えるの」

「忍者って、あの珍しい幻術等を使う暗殺部隊ですか?」

「正式には違う。私たち忍者は元来平和を維持する警護隊に近い。その延長線上に暗殺はあるし、暗殺という悪名を利用する事で風紀を守っていたの」


 ヒメは納得したのか、自分の軽はずみな言葉に謝罪する。


 シュウメイが気にしてない事を伝えるとナナミがまたよからぬ事を言おうとしていた。

 気付いたリアスが言葉を発する前に氷魔法の氷柱で刺しまくるが、ナナミは相変わらず無傷だった。


「とりあえずさ〜あ軽い休憩も終わったところで……奥に魔獣が居るかもだし、一旦安全確保しよっか〜」

「そうですね。ちょうど出入り口は4つありますし、別れて罠を貼りましょう」

「では各々指定方角で。僕は西側の出入り口へ向かうよ」


 4人が仮眠をとるために安全確保に移る。

 即座に散って出入り口へと向かった。


 罠をはり魔獣の進行を防ぐ事で奇襲される側の立場を逆転する事ができる。


 ――青色の階級と言えば“柔能く剛を制す”だ。

 ブルクラスの最も秀でた特徴は、派手な交戦よりも的確な安全確保を第一とする点。交戦時も無駄のない流れるような防御と一点集中の攻撃を行う。


 その上で戦闘は先制攻撃が多く戦いのペースを操作して相手を自分のテリトリーに誘導する。

 攻守のバランスが良く、守すらも攻に変える理性的な立ち回りだった。


縮約しゅくやく――九字護身法くじごしんぼう


 全クラスで最もAランクに近いと言われるシュウメイ。

 彼女は遠い位置にある北の出入り口へと走りながら独自の省略印しょうりゃくいんを手で結ぶ。


 臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前の九つの印を3等分3種の印に分けた省略印、縮約九字護身法しゅくやくくじごしんぼうは彼女にとって精霊剣を顕現させる上で最も重要である。


「炎――見聞の剣、毘沙門天びしゃもんてん


 こうして現れるシュウメイの精霊剣はヴァーリアでは非常に珍しい刀の形だ。

 種類は紅蓮の忍者刀に近いデザインで能力は集中型、所謂いわゆる相手の決定打を解析する決定集中系だった。


 だが毘沙門天は基本が炎タイプであり、水タイプで構成されるブルクラスには本来配置されない。その常識をシュウメイはある恩恵により“精霊剣のタイプ”すらも変えて可能にしてしまう。


「ギフテッド――銘々反転めいめいはんてん


 直後、赤い刀身の毘沙門天は深い藍色を帯びる。

 これこそがシュウメイの真骨頂である銘々反転めいめいはんてんだった。

 炎タイプと水タイプ、光タイプと闇タイプで対を成す属性を表と裏に分け自由に切り替える事ができる。


「水――毘沙門天・裏」


 剣を出し到着したシュウメイは出入り口付近にオークの群れを4匹、ゴブリンを8匹確認。

 相手もこちらに気付き勇敢で交戦的なオークが2匹襲いかかる。


影縫かげぬい」


 足を広げて低く構えたシュウメイ。

 手前のオークにニーハイの中の仕込み針を放つ。瞬間、オークがその場に留められたように硬直した。


 そのままシュウメイは2匹目のオークに視線をやると、既に振り下ろされた大鉈がシュウメイの頭に直撃。


「――、」


 否、シュウメイの身代わりに直撃した。

 オークの鉈は一枚の小さな布を貫通して地面に突き刺さる。


影分身かげぶんしん


 シュウメイの本体は既にオークの後方に位置しており宙を舞っていた。鉈のオークを背後から精霊剣が屠る。続け様反対の手に握る苦無が影縫いのオークの首を刺す。


 僅か2秒で魔獣の巨躯が散った。


 留まらぬシュウメイは既に精霊剣を床に突き刺しており、省略印を結んでいた。即座に振り返って残りの魔獣たちへ“在の印”を向ける。


三段影法さんだんえいほう――幻影沼湖げんえいしょうこの術」


 刹那にゴブリンたちの片足が沼に浸かるようにして動きが止まった。

 何事かと考える余裕も束の間。シュウメイの毘沙門天・裏がゴブリンとオークへ決定打を放っていく。


 一連の流れは三段影法と呼ばれる。

 基本忍法を2回行ったモーションを構築式に大業忍術を放つ。


 本来の大業忍術は魔術と理論が同じで構築式代わりに印を長く切る必要があるが、同じ種の忍法を繰り返すことにより影法構築式を流動で形成し、少ない印の数で放つ事ができる。


「――最後」


 瞬く間にして動けない魔獣たちは絶命した。


 残す最後の1匹の前でシュウメイは立ち止まる。

 バッと手で特殊な形を作り動けぬゴブリンに向けた。


「仲間を率いれ立ち去れ」


 言葉をゴブリンは理解できない。しかしその意味を魂が理解する。直後に脱力したゴブリンが、ふらつくような足取りで出入り口の奥へと進み消えていく。


 汗水一つ感じさせないシュウメイは都合10秒で12匹の魔獣を始末した。更には二度と来ないよう暗示をかけた後に罠をはり、ものの1分足らずで事を済ます。


「57秒か……ちょっとのんびりしすぎたかな」


 自分に厳しい評価をした後、キャンプ地へと戻る。

 他の仲間は特に魔獣に遭遇する事なくシュウメイが最後だったようだ。


 こうしてブルクラスは作り出した安全地帯で休息をとる。

 来る終盤に向けて万全の体制を整えていった。



××××××××××××××××××××



 全色階級合同対魔獣初人試験、通称デスフラッグはいよいよ後半戦を迎える事となる。


「はっはっ、今年はルージュクラスのガミアたちが素晴らしいですね〜。イシュタルの魂を感じます。赤色に大きく賭けてよかった」

「何を申します、やはりブロンのツヴァインは最強でしょう。見ましたか、デリオロスを1撃で屠りましたぞ」

「私は肌の白い幼子が好みでミアは良いですがね、オッズに旨みが……やはりシュウメイでしょう」


 豪奢な衣装に反する小汚い会話。

 椅子に並んで座る貴族たちが遊女を乗せて映像を見ている。下衆な賭け事が繰り広げられていることは、1人の生徒を除き知る者はいない。


「あの遊女らはテクいものの締まらないな」


 貴族たちの後方からはバスローブに筋肉を隠した若い金髪ロングの男が現れる。奥の薄いカーテンには疲れ果てる裸の女が2人ほど倒れていた。


「イグニカの本家、御曹司はお盛んですな〜」

「何を言う、そこの女も抱くのでよこせ」

「ご自由に」


 貴族の上に座る女性を掴み、目の前で野獣のようにドレスを剥ぐのはフリージオ=イグニカだ。

 レイス学園の4学年、現在17歳である。


「して、4学年のフリージオ君から見た今試験の見どころはあるのかね、君はこの場唯一の学生だが」

「興味がないな」

「はっはっ、失礼したよ。どうぞ続けて」


 フリージオは構わずカーテンの奥へと消えていった。

 貴族たちは「若さは魅力だ」等と呆けた話をしながらまた会話を続ける。


「ノアールはパッとしませんが、マリードはデリア家の長兄。流石に具現解放ぐげんかいほう含め素晴らしい出来ですな」

「えぇ、なんと来月から学園隠密組織がくえんおんみつそしきの一つにガミアとマリードが同時加入するだとか、そんな噂も」

「それまた少数精鋭の。まぁこの感じであれば、筆頭する生徒たちの殆どが様々な組織に引き抜かれる事でしょう」

「本当に完成度の高い1学年たちですね。何年振りでしょうかねぇ」


 白ワインやフルーツを手にして見る映像。


 その先には大水晶スタンピードで奮闘するブロンの姿、ひたすら迷宮を駆け抜けていくルージュの姿、負傷者を背負って進むノアールの姿、そして10秒で魔獣を片付けるブルの姿が映し出されていた。


「ほう。魔法ではなく忍法、魔術ではなく忍術ですか」

「いやいや、現代の呼び方は魔術2科の“流動型応用魔術りゅうどうがたおうようまじゅつ”で列記とした魔法と魔術ですぞ。シュウメイはこれが有名ですからね」


 ――これは過去にミオスの講義で出た用語だ。


『その他2科には1科の“二次応用魔術”の派生である“流動型応用魔術”と言うのもあるデス。これは戦闘において魔法の一連のモーションを構築式と仮定し、繰り返す事で構築式を完成させて魔術に昇華する方法デス』


 魔術は魔法に構築式を加えたもの。

 それは魔法陣であったり刺青であったり図や柄であったりもする。シュウメイの忍術はミオスの解説した流動型応用魔術が基盤だ。


 魔法である忍法に一連の動きをリンクさせることで構築式と仮定し大業を放つ。

 これが流動魔術であり忍術と呼ぶ。


「それはそれは、私が学んでいる時なんかは区分けされてませんでしたから。いい時代になったものですな」

「はっはっ、魔術2科は原則学業体得不能の魔術カテゴリですぞ。我々もまた一つ勉強になりました、成長ですな」

「それは実に可笑しい」


 数人の貴族が声高く笑って酒を楽しむ。

 笑い声はどこまでも響き渡り、デスフラッグの盛り上がりと共に仮設部屋は大きな賑わいを見せた。


 そこに、グェンの姿は見えなかった。

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