第5話 「金銀青白そして黒」
【デスフラッグ参加者一覧】
・キオラ=フォン=イグニカ B/男
・ミア=ツヴァイン S/女
・グレイオス=ヴァリアード B/男
・ラン=イーファン B/女
・ガミア=イシュタル B/男
・テオ=ランティス B/男
・ゼクトロドリゲス A/男
・プラハ=ヴァリアード C/女
・クリーク=バラモア B/男
・シュウメイ B/女
・リアス=クロイ B/女
・ヒメ=オオタケノミズチ B/女
・ナナミ=カトラッゼ B/男
・アオイコウキ B/男
・ロイ=スリア C/男
・ネイ=オラキア=トリネテス B/男
・ライラ=ナルディア B/女
・テイナ=フォン=イグニカ C/女
・マリード=デリア B/男
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――
人物、位置、共に不明。
黒いマントを被った男が2人、暗がりの中を征く。
他に何一つの気配は無い。歩く足音だけが反響する空間。
淀んだ空気と湿度の高いそこは至る所に水溜りが存在した。
「…………ひィ」
2人の男のうち、片方が裂けるように笑う。
何に笑みを浮かべたのか……それは本人にしか知り得ない事だ。
これから起きる未来か今起きている悲劇か。
何れにせよ真っ当な理由ではないはずだ。
「状況は」
「勿論うまく行ってるぜ」
「具体化しろ」
もう一人の男は深く被った帽子の奥から語りかけた。裂けた笑みの人物は、その言葉にまた笑う。
「指示通りにはやってるんだがなァ。順調としか言えねェよ。ついでに“最後の調整”もしてあんぜ、オレからのプレゼントだァ」
“最後の調整”という不可解なワードに帽子の男は少し黙るが、コイツは碌でもない事を考えるタイプだ。何かあれば処せばいいと考えた。
「失敗は無しだ」
「どう失敗しろってんだァ?お坊ちゃんがよ」
「それは漏洩と捉えて良いか」
「冗談の一つも言えね〜のか。やっぱお坊ち――」
キィン!と、金属の音が響く。
素早く抜いた鞘を捨て、帽子は笑う男の頬に切先を向ける。
そこで漸く2人の視線が交差した。金色の獰猛な瞳が、笑う道化を鋭く捉えている。
「もっと笑い易くしてやろうか」
「そりャ楽しいが、オレが死んだらオマエも多分死ぬぜ?」
「ここからなら私は帰ることができる」
「仮にここで済むなら帰れるだろうなァ」
ぐ、と剣を押し込んだ。笑う男の頬からは血が伝う。
だが彼はお構いなしに笑ったまま「怖い怖い」とだけ言っていた。
「とにかく言葉に気をつける事だ。お前はやるべき事をやれば良い。それ以外に価値などない」
「そ〜かよ」
「剣には毒が塗ってある。さっさと解毒して仕事しろ」
「――テメばか野郎ッ!」
そこでやっと道化の顔が青ざめた。彼はすかさず剣から距離をとって「冗談きついぜェ」と文句を垂れながら急いで解毒薬を塗る。それが終えた頃には帽子の男は居なかった。
「きもちわりィな。血筋ってのはよ」
その場で唾を吐き、笑う男は時を待った。
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――
「そいえばシュウメイさ〜あ。集会の時めっちゃ熱い視線もらってなかった?」
リアス=クロイは細い道を歩きながら言うと、頭を左右に振って悪戯に笑う。
深緑の髪は赤いハイライトが入っており、鎖骨まである髪が揺れた。毛先はカールしていて動きと共に上下にも動いた。瞳は若草色。首には赤の細長い紐が二重に巻かれ、余ったものが腰の位置まで垂れている。
「そうかな。分かんなかったけど」
シュウメイは振り向く事なく返事する。
「ふ〜ん。アレは100気にしてる視線だったけどね?」
リアスは彼女の後ろ姿を見つめて不敵に笑った。
シュウメイの歩くたび揺れる紺髪ツインテールを見て、短いスカートから下の編みタイツニーハイもついでに拝む。
「どっちかというとリアスの視線がきになるけど」
「いやいや絶対領域に網タイツ補正まで入れてるこのやりすぎ感が、むしろ逆に良い御御足だなとおもいましてね〜つんつん」
「――っ!ちょっと、触らないでよ!?」
頬を真っ赤にしていよいよシュウメイが振り返る。
ピンクのラメより濃くなった顔と青い瞳がリアスを睨む。
「うふふ。おふたりとも、殿方がいる場所でしてよ?」
その光景を見ていた後方の女子生徒はヒメ=オオタケノミズチ。
口元に手を当てて和かな表情と濃い灰色の髪はストレートの姫カット。両耳に長い札型のピアスをしている。
「ヒメ、それナナミのこと〜? 色々な意味で男認定してる人初めて見た。 ……逆にご褒美だと思うよ?」
「あらあら、そうなのですか?」
ヒメが興味深そうに隣を見ると、ナナミ=カトラッゼは真顔だった。
絵に描いたような金髪紫瞳の超イケメンは整った顔に手を置いて言う。
「うむ。百合しか勝たん」
「おまえキッショ」
「それもご褒美さ」
振り向きもしないリアスに一言吐き捨てられるが、全く動じないイケメン。ヒメが少し引きながらその姿を見た。
「うふふ。ナナミさん、そんな性癖もお持ちなのですね?わたくし関わり方を変える必要がありそうです」
「うむ。ヒメ氏、百合は最高さ。……ちなみに、スカト――」
バゴン!!と、容赦なく飛んできた大きな氷がナナミの顔面に直撃した。振り返りもしないリアスが咄嗟に出した水と風の応用氷魔法だ。
「ナナミそれ、マ〜ジで禁止!」
「すかとろ?」
「ふふふ。リアス氏、これも全てご褒美さ」
疑問を浮かべるヒメをよそに立ち上がるイケメン。
彼は強力な一撃を食らったのに傷一つ無い。むしろ涼しい顔で髪をかきあげている。
「うふふ。相変わらず打たれ強いのですね」
「基本、打たれたいからね」
「ちょっとよく分かりませんが、元気そうでよかったです」
穏やかな笑顔でヒメが返す。
遠くを見つめるイケメンは回想するように言った。
「さっきの性癖をリアス氏が調べた時は半殺しにされたけどね。まだ思い出すだけでイッてしまいそうさ」
「それは可哀想です。わたくしより先に逝かないでください」
「ハッ!!ヒメ氏、その言葉もう一度言っ」
言葉は続かなかった。
遂にイケメンの口の中に巨大な氷柱が入り、物理的に言語を塞がれたのだ。もちろん何故か無傷だ。
「おまえいい加減にしろ」
「みなさん、喧嘩はやめて穏やかに行きませんか?」
怒るリアスとこれが喧嘩だと思ってる天然のヒメだった。
戯れは終わり、一行は狭くなる道を歩き続けていく。ブルのクラスは錯綜迷宮を着実にこなしている。4人しかいない機動力をベースに序盤からハイペースな進行を心がけていた。
そろそろ休憩ということもあり今はゆっくり会話しながら進む。
「わたくしから見ても、あの殿方はシュウメイさんを見ていたように思いますよ」
細い道をのんびり歩きながらヒメが言う。
「またその話?私そういうの興味ないんだけど」
「でもさ〜あ。シュウメイ、一応ルージュとかブロンとかと違って、
「確かにそうだね。必要ないけど」
シュウメイはごく普通に呟いた。
彼女は冷静で冷たいと言うよりは興味のある事にしか意識を置かないタイプだ。
本来は明るい性格で加えてやや天然なところがあり、それを親しい人以外に見せることはない。故に遠い位置にいる男子生徒からは高嶺の花のように見えている。
「わたしたちが興味なくても相手は興味あるのかもよ〜?……ま〜大したランクでもないし協力するメリット一つもないけどね?」
「僕が調べた情報では、彼アオイコウキは精霊剣の名が解析不能で、人よりも断絶が得意らしい」
「あらあら、ナナミさん。それって何だかミステリアスで素敵ですね」
リアス=クロイの言葉にナナミとヒメが風呂敷を広げた。
シュウメイは特に気にもせず先頭を歩く。
「断絶が得意ねぇ〜。って言っても精々3回に1回とかだよね?30%でもかな〜り凄い方だけどさ」
リアスが指摘するように言う。
聞いたナナミが、美形を崩さずに真顔で答えた。
「それが、試験では100%だったらしい」
「――、」
全員がその場で立ち止まる。
珍しくシュウメイも歩みを辞めていた。
「……100%、ですか」
ヒメが呟いて一度考えた。
断絶は本来、数ある精霊剣必殺のクリティカルヒット枠だと思って良い。凡人以下は才に恵まれず、発動しにくいが故に頼らない人が殆どだ。
成功率はレイス学園クラスの平凡が5%から8%で、優秀な生徒が最大30%そして達人の粋で50%程度だ。
発動条件は相手の武器以外に攻撃する時。尚且つ確固たる意思も必要だった。逆に言えば意思無くしては断絶は起きないし、死線をくぐる中で常に断絶を意識するのは非効率である。
「確率論だし結果論でもある。それにあの試験は断絶がテーマだったから、常に意識する分全員が成功率をあげていたさ。だから態々重く捉える必要はないかもね」
この場が凍りついたように見えたのか、珍しくナナミはフォローした。
黙っていたリアスが話を続ける。
「……ま〜クリティカルは確率の話だから不可能って否定はできないけど。そんなことってあるかな?」
「リアス氏の言うとおり、信じ難い上に噂の範疇ではあるさ」
「わたくしも、あまり鵜呑みにはしません。ですけれど事実なら素敵なことですね」
3人が話をまとめる。シュウメイはただ立ち止まって聞いていた。
それを見たリアスは深緑の髪を揺らしてシュウメイを覗く。
「ど〜? 興味出てきた?」
揶揄うような笑顔がシュウメイの視界に現れる。
「別に大して気にしてないけど。精霊剣の必殺は断絶だけじゃないんだし。それに私が超える先は決まってる」
「素直じゃないな〜あ。大してって事は少しは気になったんだもんね〜?でもま〜
4人はノアールの話を終わらせて迷宮を歩き出した。
全員が想い描く人物は一致している。
「カーディナル、ミア=ツヴァイン」
シュウメイの瞳に闘志が宿った。
入学式の時ミアの戦いに心を打ち抜かれたのはコウキだけではなかった。
あの場にいる多くの者は憧れを抱いたが既に実力を持つ人間はこう思ったはずだ。
――悔しいほどに、勝てる気がしない。
青き心の羨望も、若き心の傲慢も、其々が重く自覚しすぎる程にミアは強かった。10年の修行の日々を軽々しく否定されたような気分になったのはきっとシュウメイだけじゃない。
「ミアを超えて、私たちが必ず天上に至る」
シュウメイは言霊を信じる。だからこそ声に出した。
その背中に3人は堂々と続く。まずは、誰よりも早く勝利をあげよう。
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――
「おそらく次の方向を左50m先、魔獣が7匹。その先5匹。次は20匹が奥にいる。広い部屋に出るだろう」
圧倒的だった。
あまりにも圧倒的な差をつけて、ブロンが走る。
計算が正しければ既に70%近くの進行をしている事になるが、これらは予想の範疇でしかない。ただ進行距離だけで言えば平均の倍を超える速度だった。
4人はキオラのギフテッドと其々の力を頼りに、最短最速のルートを模索しながらスタートから走り続けている。
「キオっち!ミー、もうそろ宝玉展開切れちゃう!」
「分かった。僕のヘイムダルが代わろう」
褐色の肌に小柄で小さな体。
栗色の髪を二つの団子にした煌びやかな髪飾りの女子生徒がキオラを呼んだ。
瞳は茶色、首元には数多の宝石のネックレスをつけたラン=イーファンだった。
キオラは変わらず金の長髪に緑の瞳、中性的で端正な顔立ちだ。
しかし普段と異なるのは首にかかった宝石のネックレスだろう。
「ほいじゃ皆!ミーのウルカグアイ能力切るよ!もうそろ宝石の効果切れるから、キオっちが号令かけるまで速度はやや減速気味に!」
――ラン=イーファンの精霊剣は宝源の剣ウルカグアイ。
黄金に宝石が埋められたその短剣は、ブロンクラスが得意とする正の能才付与を実現する。用意した宝石に能力を埋め込み、効果発動中は着用者に一才の疲労がかからないというものだった。
これを宝玉展開と称し、疲労の度合いが限界値を超えるか、能力の時間が消えるか、宝石が破壊されるまで人体は無限エネルギーの永久機関に極めて近付いた。
「――ヘイムダル!開戦号令、力を成せ!」
加えて、キオラの不眠の剣ヘイムダルも正の付与効果を実現した。
美しい金銀のコンビがクロスした剣は、対象者の身体能力を大きく向上させる力がある。
だがヘイムダルが最も優れているのは、その効果範囲が数ではなく号令の届く部分までを自由に選択できる点だ。故に人数は原則無限である。加えて対象となった人間が身体能力のうち何をどれだけ強くするかまで決めることができた。
ブロンはこの2人が交互にインターバルを補完し合うことで、魔獣遭遇時以外は常時走ることを可能にする。
「魔獣。討伐」
そして先頭は冥界の魔剣ゼウスを握る白い少女。
1学年の最強主席ミア=ツヴァインである。速度も落とさずに低級魔獣の急所を確実に捉え進み続ける。
「――確認。後方に魔獣」
最後尾に位置するグレイオス=ヴァリアードが呟いた。赤茶色に金のメッシュが入った短髪。赤い瞳は左側が黒目になっており、顔の左側には一本の線の刺青が入っている。
整った顔に表情は殆どない。
「グレっち!ユーのアレスで対応できる!?」
「御意。精霊剣で最速討伐を行う」
そしてグレイオスは血欲の剣アレスを展開した。
刃が紅蓮に染まりながらも芯の部分が白銀で彩られるその剣は、解放の能力を発揮する。
「――アレスチェイス」
具体的にはアレス自身の潜在力を解放させて、その分の力を追跡型の斬撃に変換するというものだった。一度瞳で捉えて仕舞えば後は見る必要はなく、絶命するか止めるまで剣が斬撃を自動射出する。
これによりブロンは、後方から追いかけてくる魔獣に対し安全に走りながら対応できていた。
ブロンは全てが重なって隙のない組み合わせだった。
最早このパーティに怖いものなどない。
「……広い部屋に出た」
「そうだな。一度ここで休憩しよう」
「やった!ミーかなり喉乾いてたんだよっ!」
「御意」
4人が出たこの空間には魔獣が20匹ほどいるが、キオラは全く気にせずに水魔法と炎魔法で飲み水を精製する。
キオラは魔獣の数や襲ってくるか否かの意思までを理解する事ができる。
能力はまだ完全に開花していないが、これでも十分に役立っていた。
「奴らは……襲ってこないか」
ギフテッド――
最も、不完全なキオラのギフテッドは低級魔獣を操作をする事が不可能でありランクの高い魔獣の検知も曖昧だ。
「ミアっち!明日さー買い物行かない?後日祭あるって!」
「そ。行く」
「やったー!ミー射的やりたい!」
「疑問。射的とは」
今回のデスフラッグで、既に明日の遊びを考える余裕があるのはこのクラスだけである。キオラは緊張感のない面々を見ながらも、これで良いと考えて飲み物を配る。
「ぷっはぁー!水んまい!ねーねーミアっち!行き道で強い魔獣も結構いたけどさ、ユーの恋人大丈夫かな?」
「こーき」
「そうそれ!なんで気に入ってんのかあんまりよく知らないけど!」
ミアは表情を変えずに飲み水を一口飲んだ。
「恋はしてない、でも好き」
「ミアっちて相変わらず意味わかんないねー!」
「こーきは、大丈夫」
「ほーん」
「疑問。好きとは」
興味がなくなったのか、ランはグレイオスの背中を叩き「馬鹿だなあユーにはまだ早いよ!」と笑っている。
「ノアールや他クラスは気になるが、協力までは難しいだろうな」
「そだねー、ミーの能力も別に宝石ないと無理だし?キオっちの能力もポテンシャルに依存するし?」
「助けはきっといらない」
「共感。機動力は削ぐべきではない」
4人が方向性を再確認すると、ランが思い出したようにいう。
「ノアールって、キオっちの妹いたよね!大丈夫かな?」
「それは僕の事情でしかない。気にするな」
「ほーん。でも窮地で遭遇したらどうする?」
「正直に言うなら妹は大切だ。助けられる場合のみ、手を貸すだろう」
「さんせい、こーきも」
「キオっちらしくていいね!ミアっちの男は置いといて、ミーたちも頑張ろ!」
ランがまとめて、全員が意思を共通にしたところで各々が本格的な休憩に入った。ミアとランは洋服の話を、グレイオスは床にいる1匹の虫を見ていた。
キオラは西側を見つめながら少年を思い浮かべる。
「コウキ。僕たちは先で待つ」
柄にも無く親友の無事を願ってみた。
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――
「もうすぐ到着だ」
励ますようにコウキが全員に報告する。
疲労を感じている訳ではないが、そろそろ広いところに出たいであろうロイとテイナが返事をする。
そして、一行は光の先、広い空間に出た。
「おおおおおお!めっちゃ広いぜ!」
「凄い、こんな場所があるんだ……」
「……これは驚いたな」
ロイ、テイナ、ネイの3人が感動の声を上げた。
他の3人も声には出さないが、あまりにも広い空間に圧倒される。
そこは天井がかなり高い位置にあり、先の壁穴までが塵のように小さく見える空間だった。飲めないだろうが池の水辺が澄み渡って空気も良い。発光石が散りばめられて明るい上、最も特徴的な事があった。
「コーキ、この粒子すっごく綺麗だね〜!」
ニコニコの笑顔で指さすテイナが示しているもの。
それは宙を揺蕩う無数の光だった。
どう言う原理かは分からないが紫色に発光する淡い光が当たり一面に散らばっており、空中を幻想的に浮遊している。
「凄いな。迷宮は新しい事だらけだ」
「ええ」
「ふん。これなら気負わず休めそうである」
隣のライラとマリードも同意してパーティは休憩に入った。
そうして10分を過ぎた頃。
水分を補給し終えた各々は雑談に入っていた。
元々休み休みとはいえ何かしらの作業を並行しながら活動している。
本格的に体を休めるためには今から30分ほど時間を使う必要があるだろう。
その後のタイムロスをテイナの能力を駆使する事で補う提案がネイからされて、これを全員が可決した形だ。
「んでさぁ!対峙してたエロゴブリンがそのテイナちゃんたちを見て震えてやがんの!あれは多分ちびってたね!」
「あははっなにそれしぬ。ロイ君ゴブリンの観察なんかやめなよ!アタシたちがまるで悪者みたい」
息抜きでき始めているロイとテイナを見て、コウキたち4人は良かったと安堵する。珍しく微笑むライラや、その光景全てを楽しむようなマリード、会話に参加しようとするネイを見てコウキも胸が高鳴った。
全く折り返し地点とまでは言えない。
だが時間を考えれば目的地まで間に合うだろう。
この錯綜迷宮は非常に入り組んでおり、加えて魔獣の数も果てしない。そんな中で平均ランクの低いノアールが安全に進めているのは各々の努力の結晶だった。
つい笑みが溢れるコウキは、ふとロイがキョロキョロしているのを見た。メンバーはすぐ近くにいるから人を探している訳ではなさそうだった。
「ロイ、どうした?」
「いやなんか……」
まだ周囲を見渡すロイが立ち上がる。突然の挙動に全員が反応し始めた。其々が「何事か」と考えるが、ロイの態度は危機的な様子というよりは不可解な様子に近い。
「この光……集まってないか?」
「――っ?」
メンバーが立ち上がり揺蕩う紫の光を見る。
「ほら、あそこだ。あの光に向かって集まってる」
「本当だ」
コウキは見て驚いた。
幻想的な光は40m先の場所、高い空中で一つの大きな光を形成し始めていた。夢の中のような光景がコウキたちを魅了する。
――そして紫の光たちは一箇所の大きな光に集約された。
「――、」
刹那、光源が弾ける。
すぐに空間一体を紫の大きな円が囲んだ。
光は飛び散って床を照らす代わりとして、元の場所に大きな宝石を残した。
紫色で高さ30m、横幅は15mはありそうな菱形の宝石だった。
「――綺麗」
「凄いな……」
感動を声に出したのはテイナとコウキだった。
あまりにも美しい宙に浮く巨大宝石を眺めマリードやロイやネイも感極まった様子だ。
コウキはその宝石を見て場違いにも思う事があった。
「ライラ、あの宝石ってどことなく結――、ライラ?」
「……………………………………………………」
ライラは目を見開いていた。
それは“感動”を現したものではない。
「そんな…………………」
ライラの美しい顔はみるみる“絶望”に染まった。
「…………ぁだ……………」
異変に気付いた他のメンバーが混乱する。
「………………………罠だ」
震える手をぐっと抑え何かを我慢するように言った。
「あの“大結晶”はスタンピード」
乗り越えなければならない大きな結晶を前に。
「魔獣たちが来る」
「――――、」
――悲劇は突然やってくる。
『うわぁ本当に結晶になる!小さくて綺麗〜!』
コウキは場違いにもあの時のテイナの姿を回想した。
手に持つ結晶がまるでこの宝石に酷似していると。
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