第7話  「迷宮試験選抜メンバー発表」



「あの時、三式のカウンターが決まらなかったのは何でだ?」


 戦いについて切り出したのはロイだった。


 気絶から五分。

 失った血や肉の損傷が酷く、回復師による魔術的な治療を施した後だった。全快とまでは行かないが、とてもあの戦いをした後とは思えないほど体が楽になっており傷口を塞ぐだけの治癒魔法との違いを肌身で感じている。


「あれは選定戦順せんていせんじゅん、ギフテッドだ」

「なんかミオス先生が言ってたよね〜」

「どんな能力なんだ?」

「その昔、戦の王が真価を発揮したとされる能力だね。対象の精霊剣のあらゆる順番を使用者都合で変更できるんだよ」


 コウキたち3人は競技場の床に座ったまま話をしていた。午後は実技試験のみが行われる。次の試合が行われるまでの間は休憩という形になっていた。


「何だそれ。ボクには良さがいまいちわからん」

「俺も文の上では問題視してなかったけど、実際戦うともう二度と対面したくないね」

「具体的にはどう厄介だったの?」

「例えば今回のカウンター。これって順番にすると二番だよね。攻撃なくてはカウンターは決まらないから。マリードはこの順番を逆にしたんだ。俺が一番、マリードが二番という形にする事で優位性を確保していたね」


 コウキがあの瞬間を思い出す。

 どう考えてもコウキのカウンターは決まるはずだったのに、何故かマリードのカウンター返しが決まった。


「言葉では分かるけど本来そんな事が可能なのか」

「実際できていたから何とも。あと極め付けは、マリードが自分の斬った回数も変更した点だ。おそらく三回斬った事実を選定戦順で〇回目の状態にリセットしていた。だから迅の剣が継続されていて、超速のカウンター返しが来たって事だ」

「なるほど。三回毎に切り替わる欠点を見せながら相手の思い込みを利用したって訳ね」

「そうなるね」

「で、なぜかオマエが勝ったと」

「……そうなるね」


 意味わかんねー!!と不機嫌に癇癪を起こすロイ。

 こればかりはコウキも同じ気持ちだったので反論はない。


「選定戦順のギフテッド。軍略の剣スカンダを携えて頭のキレる大男……マリードは今後大きな壁になるだろうな」

「同じノアールってだけでもマシだぜ。あんな化け物」


 吐き捨てるように言うと、グェンが全生徒に集合の合図を送る。

 しばらくして生徒たちは競技場の中心へと集まり、グェンが話をし始めた。


「まず皆さん。第一試合お疲れ様でした。実戦に近い剣技はどうでしたか?今回の試験でより一層、精霊剣の在り方を考えてもらいたい所存です。恩恵を授かった者は剣と向き合い剣に成ることで、様々な剣気を纏います。これがあなたたちの生存を高める事に繋がります。心してかかるように」


 グェンはそして、と言葉を続けた。


「今回の試合で断絶を出せなかった者、途中退場した者、次回不参加とした者。全て省いて38人が残りました。退いた方々も焦る必要はありません。だからこそ、残った38人には敬意を。ここからは、4人残るまでの4ブロックトーナメント形式とさせてもらいます」


「いよいよだな」

「あぁ」

「ロイが残ったんだよな」

「あぁ、ボクが残った。今のテイナちゃんをこんな殺伐とした試験に投げ込めっかよ」

「まぁ、本人の意向次第だがそれもそうだな」


 グェンの話を聞きながら、二人は小声で会話する。

 テイナには時間が必要だ。人を斬ることに抵抗がある現状を直ぐに切り替える事ができるとも思えない。


「今回、例年に比べて多くの生徒が残ったみたいだけど、強い生徒は殆ど残っていないって話だ」

「ん、どう言うことだ」


 ロイの呟きにコウキが疑問符を並べる。


「ポイント稼ぎで最も大事な部分が第一試合に収束されてるって話だ。有力候補が第一試合で棄権。良くも悪くも戦うほどに手の内を明かされるからな。割り切りが多いって噂が出てる。テイナちゃん曰く、だけど」

「へぇ……」


「ちなみにオマエが倒したあのデカブツは相当強いらしい」

「だろうな。試験内容が断絶じゃなきゃ圧倒的な実力差で負けてる」


 マリードが一番強い。と言う言葉が出てこない事に震えるほどマリードは強かった。思い出すだけで痛みが戻ってくるような、肉体的トラウマも植え付けられたほどだ。


「とまぁ、試験内容はこの通り初戦と同じです。制限時間のみが15分に絞られているため注意してください。以降は4人が残るまでノンストップで進めていきます。毎度治癒師や回復師を挟みますが、亡くなった命までは復活しません。互いに戦い方に注意して下さい」


「アイツ、殺人の否定はしないんだな」

「不慮の事故を想定して罪の意識を重くしすぎない為だろう」

「事故で死ぬ事があるって話かよ。そんなの……まぁ、無くは無いか。オマエ死んだと思ったし」

「俺も俺が死んだと思ったよ流石に」


「笑えないぜ。テイナちゃん限界過ぎてヤバかったぜ」

「でも命のやり取りがあるからこそ、見えるものもあったよ」

「ボクにはまだ分からないね。分かりたくもないけど」


 珍しく常識人に見えるロイだが、あまり無茶をするなと遠回しに言ってくれてるのだろう。コウキは素直に受け入れてグェンの話に集中する事にした。


「今回、4人が残った段階で本日の試験は終了します。そしてその4人は後日、ノアールを代表して全色階級合同対魔獣初人試験ぜんいろかいきゅうごうどうたいまじゅうしょにんしけん、通称“デスフラッグ”に参加してもらいます」


 少しだけ、周囲がざわめいたのを感じた。


「この“デスフラッグ”については後日お話するとして、内容は簡単に4クラスの代表者4人が合同で未開拓迷宮みかいたくめいきゅうに入り、指定位置に魔除けの旗を挿して戻ってくると言うもの。これらは帝国のための仕事として毎年、全国中継ぜんこくちゅうけいされる一大行事です」


「待て。教頭殿」


 話を遮り、一人の少年が声を上げた。

 銀髪の髪を肩の部分でバッサリと斬った、深い緑の目を持つ中性的な少年だ。もう一つ特徴的なのは耳だろう。尖ってつんとした耳の形は、御伽噺のエルフを思わせるそれだった。


「どうしましたか。ネイ=オラキア=トリネテス君」

「話の腰を折った事まずおびする。しかし、此度の“デスフラッグ”の人選については些か納得し難いと言うのが素直な意見だ。例年であれば、クラス勝抜の実技から選抜されると私は上級生から聞いている」


 ネイと呼ばれたエルフは、コウキから見て嫌味がない真っ直ぐな人間に見えた。言葉遣いの良いキオラを見ているような、そんな人物像だ。


「確かにそうですね。上級生からの入れ知恵のみを鵜呑うのみにするのでしたら、今回は異例の事態でしょう」

「教頭。珍しく言い方に棘があるな。情報収集は生き抜くために必要だ。何も悪い事ではない。元に、此度の試験の内容や大まかなポイント分配に関する情報を事前に知る事で、力のある者たちは無駄な戦いをしない棄権きけんという選択をとっている」


「続けて下さい」


 グェンは冷静で落ち着いた声のまま、ネイに発言を許可する。


「そうした策を講じている生徒を考慮すると、今回選ばれる4名が“デスフラッグ”に相応しい人材がどうかは怪しいものだ。あの企画は仰る通り、多くの王族の目に留まる。力を誇示するには申し分無い企画といえよう」

「つまり、ネイ=オラキア=トリネテス君からすると例年通りにいかない事が不当だと言う話だろうか」

「いいや、違う。私は正当に力のある者が評価されるべきだと心得る」


 胸を張って真っ直ぐにグェンを見つめるネイが、話を終わらせる。おそらく嫌味などではなく、心からそう願っているのだろう。グェンもその言葉を胸に留めながら話をし始めた。


「まず、言い方に棘を感じた事に謝罪しよう。鵜呑みにする、と言う表現について。これは、私がオリエンテーションの場で例年とは異なる事を伝えた筈だったのだが、それを考慮せずに例年通りのセオリーのみを貫こうとした姿勢について、示唆しさしたに過ぎない」

「――、」


『今年からは例年通りのカリキュラムを変更し、試験的なアプローチを施します』


 あの時のグェンの言葉を思い出しながら話を聞いた。

 ネイという少年も反論する事なく聞くに徹している。


「加えて、自称じしょう強者が無駄な戦いを避けて棄権した事について。私からするとその程度の生徒は雑魚としか思えない。これはあえて棘のある言い方にさせてもらうよ」


 グェンが慣れない皮肉に一度咳払いをし、説明を続けた。


「上級生から聞いたのか知らないが、本来努力できる部分に手を抜いて、慢心まんしんに溺れて己の力がさぞ貴重なものとし公開を避ける。実に滑稽こっけいだ。君たちは今成長期であり其々の能力に大きな差はないことから、慢心は一分一秒をもがく生徒に追い抜かれ、肝心な時に失敗し死に至る事だろう。――故に今回のカリキュラムから、棄権した生徒の評価ポイントはゼロだ」


 ここでも小さなざわめきが生まれる。

 グェンは一度軽く手を上げる事で生徒を黙らせ、自然な声色で話を始める。


「生き抜く上で最も大切な事。それは諦めない事だ。手足をもがれようが、生きて帰って来る。生きている事が戦争の勝利条件と言っても過言では無い。人は窮地きゅうちに追いやられ、本物の死が迫ると生を諦めてしまう。それは、諦める方が比較的楽だからだ」


 コウキはマリードとの戦いを通して、グェンの話す言葉の意味を強く理解していた。


 あの時、諦める選択をとれたらどれだけ楽だったことか。倒れずに進み続ける事がいかに難しいことか。他人の言葉を通す事で改めて実感する。


「私たちの学園では、上級生がカリキュラムの理解と抜け穴を探す事に必死になり、諦めず直向きに努力する事を疎かにしている部分が見受けられる。実際のところ、“デスフラッグ”で最も大切な事の一つが諦めの悪さだ。決して個人技の強さだけでは無い。故に、この評価方法を私は正当であると考える」


 話を終えると、生徒たちは素直に受け入れていた。

 中には怒りを露わにする者や興味のない素ぶりの者もいるが、異論反論の余地はない。ネイという生徒もまた、心が晴れたかのような表情となりグェンを見た。


「教頭。先程の失礼を詫びよう。私が間違っていた」

「正しさや間違いは人それぞれです。気に病むことはありません」


「では内省する事を宣言しよう。私も直向きに努力させてもらう」

「それでこそ、我が校の生徒です。頑張りなさい」


 今回の太陽のように暖かなグェンの言葉は、ほとんどの生徒にとって指標そのものだった。あまりに教育者として申し分無い姿勢に完璧すぎると違和感を感じていた者も、この件だけはグェンの人格を肯定できただろう。


「話を続けます。と言ってももう終わりですが。そのデスフラッグに参加する上で最も大切なこと、それは諦めない事に加えて状況判断力、そして断絶と剣気けんきです。迷宮には魔獣が溢れています。武装した魔獣を手っ取り早く倒す方法が断絶、無駄な敵と戦わない方法が剣気。焦る事なくまずは断絶から慣れていきましょう」


 グェンがそれでは、と言葉を紡ぐ。


「第二試合を開始します。位置についてください」



××××××××××××××××××××



 コウキとロイは別ブロックにて、次々と相手を倒していった。


 コウキに至っては単純に初戦の相手が強過ぎた。

 ほとんどの生徒の攻撃が遅く見えてしまい、隙を見つけては基本的に一撃での断絶で床に伏せる戦闘スタイルだ。


 ロイはというと、能力が非常に強力だった。

 自他共にタイミングをずらせるという畏敬の剣、スタンチク。

 この“拘束”という能力そのものが対人戦闘においてマウントをとっている。加えて剣技も幼い頃から学びがあるようで、性格を思わせない慎重で正確な戦い方が魅力だった。


「ロイ、まじで凄いな」

「毎回一撃で終わらせてるヤツに言われたくねー!」

「そんなにライバル視しなくても」

「してねーよ!というか断絶って慣れてても成功率50%だったりするんだぜ?なんでオマエ毎回一度目で出せるんだよ!」

「確かに。考えた事もなかったな」

「ちっとは考えろ!」

「でもロイも五回以内で終わらせて無いか?」

「ボクは一応剣技が得意なんだよ!師にも褒められるほどな!なのにこんな規格外の奴いたら自慢にもならねぇ」


 実際のところ、コウキも不思議に思っていた。

 本当に断絶は成功させるのが難しいのだろうか。

 何かコツがあって、それ故に上手くいってるのかもしれない。ともあれこの試験の内容とコウキの現状は上手く噛み合っており、このままいけばトーナメント優勝は時間の問題だった。


 次の試合まで余裕があるため、コウキはテイナを連れて他の戦いを見る事にした。


「コーキ、怪我の調子はどう?」


 不安そうに聞いて来る少女は金髪の髪を緩くカールにした、容姿端麗のテイナだ。相変わらず崩した胸元や意味のないチョーカー、ガーターベルト、短いスカートの丈が特徴的である。こんな見た目をしていながら、繊細で優しい一面は間違いなく初見殺しのギャップ萌えギャルというやつだ。あまりにも剣が似合わない難点も踏まえよう。


「大丈夫だよ」

「あれ、いま珍しく目線がやらしかった気がする」

「キノセイダヨ」

「ほんとかなぁ〜。んまーいいけど」

「そういう格好ってさ、見られる事は承知なの?」

「これ?まー、見られるとは思ってるけど、男性側がそれ言うとセクハラっぽくなるよ?」

「たしかに。やめとこ」

「続きが見たいならアタシを手中に収める事だね、少年よ。ギャルはガードが固いぞ〜」

「高嶺の花だね、やめとく」


 いけすかないなぁ、等と他愛のない会話を繰り広げながら、戦闘が行われている会場へと足を運ぶ。ここはコウキとロイのいるABブロックではなく、Cブロックの戦闘会場だった。


「あ、いたいた。あの子だよねー?」

「そうそう、さっきのネイって人だ」


 視線の先には、茶髪の生徒と戦うネイがいた。エルフの耳に銀の髪。前髪のあるボブヘアが特徴的だった。


「独特な精霊剣だね〜」

「あぁ、レイピア型か……」

「レイピア?」

「速度と刺突に優れていて、手を覆うヒルトが特徴的な剣だよ」

「へぇ〜物知りだね相変わらず」


 ブロードソードやロングソードが主軸になる事の多い精霊剣では、あまり見ない細身の剣だ。コウキが刀だと判明した際に世界の精霊剣について勉強したため、名称までを理解していた。


「あっ、押されてる」

「ネイがか?」


 戦いに視線を向けると、茶髪の生徒が精霊剣の能力を発揮したのか、凄まじい連撃を繰り広げていた。ネイは受ける度に強く弾かれて防戦一方に見える。


「あぁ、あれは誘い込みだね」

「え?そーなの?」

「うん。よく見て、重心がブレてない。本当に弾かれると踵に重さが来るんだけど、あれは上半身だけが弾かれてる」

「どうしてそんなことするんだろう」

「計ってるんじゃないかな、次のタイミングとかを。茶髪の子も相手がレイピアで集中する部分が鋒なのもあって、相手の足元まで視線がいってない。精霊剣に意識が行き過ぎてるんだろう」


 しばらくすると変化は起きた。

 ネイが途端に一回転し、相手の剣を流す。

 瞬く間に刺突の二連撃が放たれ、膝をつく直前にまた斬り込みを入れた。同時に断絶が発生し、たった一秒程度で勝敗が決まる。


「凄いな」

「うん、びっくり。早過ぎない?」

「あぁ。分かっていても反応するのがやっとだ」


 素直に感銘を受けていると、戦いを終えたネイがこちらを見ていた。グェンが勝利を告げたあたりで、本人がコウキたちの元へ歩いて来る。


「アオイコウキ殿だな」

「コウキでいいよ、あ、この子はテイナ」

「そうか。よろしく頼む」


 ネイは好印象な少年だった。


「何故見ていたのか聞いても構わないか」

「あ、ごめん。次の試合まで暇でたまたまだ」

「そうか。コウキの戦いは私も見せてもらった」

「恐れ多いよ。偶然勝ってしまって」

「いいや。得るものは大きかった。あの戦いはなるべくしてなったと言える。特に相手があのマリードでは、偶然の勝利などあってはならない」


 ありがとう、と軽く礼を言って話を逸らす。真っ直ぐに褒められるのは嬉しい反面恥ずかしいというのが思春期あるあるだ。


「ネイも凄まじい速度だった。緩急をつけるにしても、あそこまで加速させられるのは常人の域ではないね」

「私は精霊剣の特性上、速度だけは落とせないのだ」

「レイピアだよね。俺のも珍しくて、調べてる途中で出てきたよ」

「ご存知か。まさにその名の通りだ。更に私はギフテッドを2つ保有しており、いずれもレイピアの特性に合っている」

「二つもか、驚いたな。……正直同じブロックじゃなくてよかったよ」

「そっくりそのまま返そう」


 半笑いでネイが呟く。

 固いタイプかと思ったが、軽口もいける生徒だったようだ。冗談を挟んだ後、ネイが右手を差し出した。


「お互いに決勝を勝ち抜けば、デスフラッグでは同志となる。今のうちに交友関係を結ぶとしよう。私は2クラスだ。なんでも聞いてくれて構わない」

「1クラス、アオイコウキだ。同じくなんでも聞いてくれ」


 コウキは右手でグッとエルフの手を握り返した。

 事のついでだ、連絡先の交換も済ましておいて、全てを終わらしてその場を去る。


 もうそろそろ最後の戦闘が始まろうとしていた。


「コーキ、お友達できてよかったね」

「なんでテイナが嬉しそうなんだ」

「べっつに〜、次の試合も頑張ってね」


 楽しそうに少し先を歩くテイナを見ながら、コウキはAブロックへと戻っていく。


 次の対戦で勝敗が決まる。


 しかし緊張は殆どなかった。



××××××××××××××××××××



 そして全試合が終了した。

 生徒はまた中心に集まり、グェンは運び込まれた表彰台の上に立っている。


「それでは、一学年の代表者4名を発表致します。呼ばれた生徒は表彰台へ。プレゼントである特別生のブローチを制服に取り付けます」


 グェンの見せたブローチは金と銀が交差するブローチだった。魔除けと毒避け、平和と象徴、希望と未来、様々な意味が交わる神聖なロゴであるとされる。


「4クラス ライラ=ナルディア」

「はい」


 呼ばれた生徒は女子生徒だった。

 肩までのミルクティーの髪は波打つパーマがかけられており、瞳は栗色。鼻がすんと伸びたドール顔の少女だった。スタイルも良くクールな印象を思わせる独特な佇まいだ。


 グェンからブローチを受け取ると、ライラはそのまま一礼して戻っていった。


「2クラス ネイ=オラキア=トリネテス」

「はい」


 次に呼ばれたのはやはりネイだ。

 さらさらの銀髪が歩く度に揺れ、そこから飛び出た耳が印象的。深い緑の瞳は真っ直ぐに物事を見つめ、グェンを近くにしても物怖じしない。


 ネイもブローチを受け取ると、早々に自分の位置に戻った。


「1クラス ロイ=スリア」

「ほい」


 少しアホくさい印象で返事をしたのはロイだった。

 金髪碧眼、癖毛で涙黒子のある甘い犬顔。貴族出身とは思えない女たらし(たらせてない)だが、今回で最も実力派だと感じさせる安定した戦闘スタイルをもっている。


 ぎこちなくお礼をした後、ブローチを受け取って席につく。


「1クラス アオイコウキ」

「はい」


 そして最後に呼ばれたのはコウキだった。

 黒髪に黒眼という珍しい組み合わせ。本来の能力が明かされない刀を保有し、判断力と分析に優れた一面を持つ。しかしキレると諦めの悪い根性論に移行しやすい、絶妙なバランスだった。


 丁寧に一礼し、グェンを見ると嬉しそうにウィンクしてきた。


 イケメンじゃなければ終わっているが、とりあえず無視してブローチを受け取って席に戻った。


「以上4名がトーナメントを勝ち抜いた代表者です。三日後、全校ニュースにて全クラスのメンバーと試験日程が発表されます。他クラスとは協力関係になることも可能であるため、把握する事を推奨します」


 グェンは大きく手を叩き、


「以上で、ノアール合同実技試験を終了致します」


 試験の終幕を知らせるのであった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る