第12話 体育祭終了

橘と話をして、なんとか落ち込んでいた所から立ち直り、校舎裏から校庭の待機場所へ戻る。


「あ、香織!怪我の手当てしないと」

伊織がそう言って救護係の所へ橘を連れて行く。俺も何となく救護係の所へついて行き、橘がちゃんと手当てを受けているか監視する。すると、実行委員の竹内と佐々木が救護係の所へ来た。

「橘大丈夫そ〜?」

「香織大丈夫?」


佐々木と竹内が心配そうな声で気にかけると、さっきとは真逆のテンションで返事をする。


「うん!!大丈夫!!」

元気そうに返事をした橘を見て、佐々木と竹内は安心したのかホッと一息ついた。そして竹内が何かを思い出し、俺達に声をかける。

「あ、そうだ。今度打ち上げ行かない?」

「お〜良いね!!俺行くわ」

すぐに俺は承諾の返事をして、周りの反応を伺う。すると伊織と橘、そして佐々木も行く事になった。


「どうする〜?もうちょっと人欲しいよね〜誰誘う?」

一瞬宇佐美のことも頭に出たが、他クラスの宇佐美を誘うのはさすがに場違いだろう。俺は出かかった言葉を飲み込んで提案する。


「田中とか…そこら辺も呼ぶか」

正直宇佐美を置いてクラスの皆と打ち上げに行くのは後ろめたさがあるが、宇佐美は同じクラスの樋口にでも頼んで、そっちで打ち上げをしてもらおう。


橘の怪我の手当ても終わってクラスの所へ戻るなり、橘や竹内達が記念写真を撮る段階へ移行した。


スマホを片手に写真を撮りあったり、動画を撮っている。そんな3人を横目に、他学年の競技を見ていると肩をトントンとつつかれる。振り返ると笑顔の可愛らしい橘が居た。

「ん?」

「梅、写真撮ろ!!」

「あぁ良いよ」


そう言って立ち上がると、竹内が不思議そうに俺を見つめていた。どうやら俺の呼び方について気になった様で、興味津々に聞いてきた。

「梅!?なにそれ呼び方可愛い〜」

「そー!!さっき私が決めたんだ!!」

竹内の言葉に、橘はどこか嬉しそうに返事をした。


「え、それそんな可愛いか?」

「可愛いよ!あたし梅ちゃんって呼ぶ事にしたし。梅野だとなんか堅いけど、梅ちゃんだと可愛くなる!!」

「そ、そうなんだ…よー分からん」


伊織の熱弁に押され気味になりながらも雑談をしていると、竹内が俺の顔の前から覗き込む。


「びっくりした…何?」

「じゃあ私はうめちゃんって呼んでいい?」

「別に良いけど」

「あ、ちなみにわたしのは〜ひらがなでのうめちゃんだから!!紗奈のは漢字の梅ちゃんだからね〜」

「いや分からんわ…ひらがなって言われても分からん」

「ほら梅!!記念に写真撮ろ!!」


橘に呼ばれて俺と橘で写真を何枚か撮り始める。橘が右手で、スマホの内側カメラを自分に向け、右端に橘が映っているので少し膝を曲げて橘の左側に寄る。


「はい、撮るよ〜」

そう言ってまた何枚か写真を撮ると、竹内や伊織を呼んだ。

「優香〜紗奈〜」

「は〜〜い!!」

2人は名前を呼ばれると、俺が退く時間も与えないまま伊織が俺にもたれかかってきた。

「ちょ…お前…」

反射的に重いと言いそうになったが、さすがに配慮して言い留まる。伊織の控えめではありつつも、ちゃんとある程度は実った柔らかい物が当たってる気がする…ついさっきは橘のが当たってた気がするんだが…


伊織が俺の背中にもたれかかり、竹内は俺の左側に立つ。そして右側には橘が居る。なんなんだこの一瞬で出来たハーレム空間は…色んな方向から良い匂いするんですけど…3人のそれぞれ違う良い匂いが、一気に俺の鼻腔を刺激してくる。そしてその良い匂いはもはや中毒性があると言っても良い。だからといってその嬉しさは絶対に表情には出さない。


そのまま何回か写真を撮った後、1ーCの方に行って宇佐美の様子を見に行ってみる。するといつかの男子達が宇佐美に話しかけて、樋口がその相手をしていた。


「宇佐美〜」

俺が声をかけると、宇佐美と樋口がすぐにこっちに寄って来る。宇佐美はさりげなく俺を壁にする様に、それで居て簡単には分からないようにわざわざ遠回りをして、男子達の反対方向に避ける。


「あ、樋口の髪型もいつもと違うな」

樋口の今日の髪型は外巻きのボブヘアーのまま、サイドを編み込んだヘアスタイルだ。これも樋口に似合った髪型で、とても可愛らしさが出ている。

「でしょ〜うちこの髪型結構好きなんだよね」

「うん、似合ってて可愛いじゃん」

「えへ〜…あっ、茜の髪型も可愛いよね!!」


俺がそういうと、樋口は宇佐美の方を向いて少し焦った顔をした後、宇佐美の髪型について話題を振った。


「確かに、宇佐美の髪型も可愛いよ」

俺がそう言いつつ宇佐美を見ると、少し頬を膨らませてぷんぷんしていた。前から少し思っていたが、宇佐美はどこか猫のような感じがある。女子は頑張った髪型を褒められると嬉しいと聞くし、褒めておいた方が無難だろう。


「てか、竹内達写真撮ってるから一緒に写真撮ってきたら?」

俺の提案を聞いて、宇佐美はすぐにいつもの顔に戻ってすぐに疑問が浮かんだのか、顔を傾げながら質問してきた。


「梅野は来ないの?」

「ちょっと用あるから」


その言葉を聞いて、宇佐美と樋口は竹内の方へ歩いていく。そして俺はそろそろコイツらに宇佐美と距離を置く様に言わなければ。


「なぁ、お前らそろそろ理解したら?」

俺の強めの語気に少しの苛立ちを見せながら、3人組が反応を見せる。


「いや、お前宇佐美の何なの?彼氏?」

「俺は宇佐美と中学の時から一緒の友達」

「彼氏でも無い奴がそんなの言う権利ある?」

「お前ら宇佐美の反応見て分からんのか?」

「あ?」

「どう見てもグイグイ行き過ぎて嫌がってんだろ。別に話しかけんのは良いけど、相手がどういう反応してるかは理解しろよ」


宇佐美はコイツらに話しかけられるのは嫌じゃないはずだ。ただコイツらは執拗しつこいんだ、宇佐美との距離感が近すぎる。いきなり近い距離感で来られたら萎縮してしまう。


だから宇佐美と接する距離感を理解して欲しい。


「お前らは宇佐美と関わる時の距離感を考えろ。そんなに仲良くないのに、距離感がどう見ても近すぎるんだよ」


そう話していると宇佐美と樋口がすぐに戻ってきた。丁度良かったので、宇佐美を呼びつける。


「何?」

「宇佐美はコイツらが話しかけてくる事、どう思ってる?」

「え…何急に」


男達は特に何も言わず、宇佐美が何を言うか待っている。宇佐美も何となく空気を察したのか申し訳なさそうにしつつも、正直に話し始める。


「私は…話しかけられるのは嫌じゃない…けど、もうちょっと距離感は離して欲しい」

宇佐美の正直な言葉に、男達は驚きながらも納得したようですぐに謝罪してきた。

「そうか…ごめんな、宇佐美」

「「ごめん…」」

「良いよ…でも、これからはもうちょっと距離感考えてね」


宇佐美の恥ずかしそうにしながらも男達に向けた返事は、男達の心を鷲掴みにしたようでなんとも言えない顔をしていた。なんとか男達の事も解決し、宇佐美に声をかけてからクラスの所へまた戻る。


クラスの所へ戻るとほぼ同時に閉会式の準備に入り、そのまま1年の体育祭は終了した。

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