第13話 体育祭後の夜

体育祭も終わり、宇佐美とは別々に家に帰る。俺が家に着いてから少しした位で宇佐美もすぐに帰ってきた。俺はすぐにシャワーを終わらせてお風呂の準備をしたので、宇佐美に声をかける。


「風呂の準備出来てるから、すぐに入ったら?」

「ほんと?ありがと〜」


宇佐美は嬉しそうに、自分の部屋に行って着替えを取りに行った。俺はリビングのソファに座ってスマホを開き、イソスタを見てみると竹内達が体育祭の写真を上げていた。鍵垢ではあるが、そういう身バレしそうな写真上げるのは怖くないのかと思ってしまう。


俺は基本的に写真は撮らないし、写真をネットに上げる事もしない。だからこそ、こういった写真を上げる行為はあまり理解は出来ていない。


俺との写真も上げられているが、別に消せなんて言うつもりは無い。竹内達の上げた色んな写真を見ながら感傷に浸る。体育祭も終わったので、次の1年のイベントとなると文化祭だろうか。少し早い気がするが、文化祭も楽しみだ。というかその前に夏休みに入る。夏休みの間、宇佐美はずっと俺の家に居るのだろうか?ずっと家に居るのなら、何かしら進展があってもおかしくない。今ではもう宇佐美のラフな姿は少し慣れたが、あまり近くに来られるとまだドキドキしてしまう。


俺と同じシャンプーとかを使ってるならまだマシなのだが、宇佐美は自分のシャンプーを買って使っているので匂いが違う。服も柔軟剤は自分の物を使っているので匂いも違う。ていうか、ラフな格好でシャンプーの良い匂いがする状態で、俺のすぐ隣に居たら襲われてしまうとか考えていないのだろうか…?


その危機感の無さは少しどうにかして欲しいが…


俺はそんな事を思いながら、テレビで今期やっているアニメを見ていると竹内達から連絡が来た。次の土曜の夜に打ち上げをする様で、夜に焼肉食べ放題に行くらしい。正直体育祭の打ち上げで焼肉まで行くのはちょっとハードル高いんじゃ…と思ったが、どうせ1年に1回しか無い機会なので行く事にした。


竹内達は他にも田中や佐々木達も来ると言っていた。そして、他にも追加メンバーが送られてくる。


「え…」

竹内からのメッセージを見ると、樋口と宇佐美も来るらしく、思わず声が出てしまった。他クラスだが大丈夫なのだろうかとも考えたが、どっちも竹内と仲良くしてたし大丈夫だろう。とりあえず今確定しているメンツだと、竹内、橘、伊織、樋口、俺、田中、佐々木の7人になる。人は多い方が良いが、あまり多過ぎるのもあれなのでこの位が丁度いいだろう。


とりあえず何となく固まってきた所で、宇佐美がお風呂から上がってきた。


「あ、宇佐美。今度体育祭の打ち上げ行くって樋口から聞いた?」

「え、あ〜打ち上げするとは聞いたけど…なんで知ってるの?」

「なんか俺のクラスの何人かと一緒に打ち上げするってなったけど大丈夫?」

「ん、どういう事?」

「樋口と宇佐美が、俺達の竹内とか橘とか伊織とかと一緒に打ち上げするって事」

「あ〜そういう事。わかった!」


宇佐美は意外にもあっさりとOKすると、すぐに俺がアニメを見ているのに気づき、俺の隣に座ってきた。


「ねぇ、梅野のお父さんとかお母さんってどんな感じなの」


宇佐美の突然の質問は今見ているアニメで家族が映ったからだろうか、とりあえず俺は変に言葉を濁す事も無く素直に伝える。


「ん〜お母さんは普通に関西の人で、お父さんは熊本とかだった気がする。でも俺の生まれは三重」

「へ〜中学上がる時に東京来たんだもんね」

「そーだよ。まぁ……親の仕事の関係でね」

「家族と仲良い?」

「分かんねぇ…どうなんだろう」

「いつか梅野の家族とも話しておきたいな…お世話になってるし」

「お母さんとは気軽に話せるかもだけど、お父さんとは無理だな」

「なんで…?」

「俺のお父さん耳聞こえないから」


俺の言葉を聞いて宇佐美は少し驚いて、静かに下を向いた。別にそういうつもりで言ったんじゃなかったのだが…


「別にそんな重い話じゃないよ?気になった事聞いてみ」

「耳聞こえないって、手話で会話するの?」

「いや、俺のお父さんの場合は手話とかじゃなくて、ジェスチャーと口パクで大体伝わるよ」

「そーなんだ!すご!」

「いつか見てみたいな、宇佐美がどう喋れば良いか分かんなくて困惑してる所」


俺がそう言うと宇佐美は申し訳なさそうに笑っていた。まじでそう言う重い話のつもりじゃなかったんだけどな…俺からしたら宇佐美の家族関係の話の方が重かったぞ。俺からすれば、お父さんの耳が聞こえないのなんて生まれた時からだから、それが当然なのだ。


「まぁ、夏休みにお父さんとかがこっちに来るか、俺が向こうに行く事になると思うからその時に行くか」

俺がそう言うと、宇佐美は少し嬉しそうに返事をした。


最初は少し距離があった宇佐美との仲も、今ではそこら辺の恋人よりも近い距離感にある気がする。宇佐美の髪から良い匂いが俺の方に漂ってくるし、服も良い匂いがする。


その後は一緒に夜ご飯を作ることにした。体育祭もあったので記念にステーキを作ると決めて、ご飯を炊飯器に入れてご飯が出来るまでの時間にスーパーに行って2枚ステーキ肉を買ってくる。


そして玉ねぎで肉を柔らかくして、ご飯が炊けてから肉を焼き始める。付け合せも準備をして、出来た物から皿に盛り付けていく。


今回はあまり難しい調理は無かったので、すぐに夜ご飯が出来た。未成年の一人暮らしで不便な点と言えば、赤ワイン等を買って料理に使えない事だ。


2人で夜ご飯を食べ始め、今日も宇佐美と一緒に過ごす。

「体育祭終わったら次なんのイベントある?」

俺が聞いてみると、宇佐美は少し考えた後にすぐ返事を出す。

「期末テストじゃない?」

「あ…」


すっかり忘れていたテストの存在…ま、まぁ俺には勉強教えてくれる宇佐美が居るし…大丈夫でしょ


「宇佐美、勉強教えて…」

「え〜、休みの日教えてるじゃん」

「あれだけだと不安なんだよ…」


とりあえず打ち上げが終わってから、勉強は教えて貰う事にしよう。俺は少し不安になりながらもステーキを食べる。


そしてご飯が食べ終わった後、また2人で横に並んで恋愛アニメを見始める。アニメの中のキャラは、ソファに座っている男の子の膝の上に、ヒロインが向き合う形(対○座位)で座り始めた。


宇佐美はそれを見てテンションが上がっていた…

「うわ〜!めっちゃ良い…」

「そんなに…?」

「あれはヤバいよ…分かんない?こんな感じなんだよ」


宇佐美はテンションがかなり上がっているのか、アニメを一旦ストップさせてまでわざわざ俺の方に近寄ってきた。


「ちょ…何」

宇佐美はさっきのアニメと同じように、ソファに座った俺の膝の上に跨って向き合う形(対面○位)になってきた。そして、俺の後ろにある背もたれに壁ドンしてきた。

「これだよ?ヤバいでしょ」

「確かにヤバい…」


他の場所が色々と!距離は近いし、宇佐美のテンションがおかしい…恋愛アニメは媚薬効果でもあるのかと疑ってしまう程だ。宇佐美がその状態のやばさを俺に伝えた事で、宇佐美は満足したのか、立ち上がろうとする。


「うわっ…!」

宇佐美の声と共に、宇佐美の身体が俺の方に倒れてくる。壁ドンをして俺の方に体重預けていた為、背もたれに置いた手が立ち上がる時に後ろにすっぽ抜けてしまった様だ。宇佐美との距離があまりにも近かった為、俺はどうする事も出来ず、宇佐美が倒れてきたのを身体で受け止めてしまった。


ほんの数秒だったが、宇佐美の控えめだがしっかりと実った胸が俺の身体に密着し、宇佐美だけが使っている柔軟剤の匂いと、俺の使っているのとは違うボディーソープの良い匂いが俺の常識的な考えを麻痺させ始める。


「ごめん…大丈夫?」

宇佐美は俺の左右両方の、ソファの背もたれにちゃんと手を置き顔を見て確認してきた。どうやら宇佐美の顔が、俺の顔に当たったと思っているようだった。逆壁ドンの様になった今の状況と、さっきまでイチャイチャした恋愛アニメを見ていたせいで、俺の中の糸が1本切れたような感覚がした。


目の前には俺の心配をしながらも可愛い顔をした宇佐美、そして漂う良い匂いと2人きりで静かな空間。


(あ…無理だ…)

手を伸ばせば抱きしめられる距離に居る宇佐美の身体に腕を回して、そのまま抱きしめてしまった…これは今まで我慢していた分が、今行動として出てしまったのだろうか…


「ちょっ…!?梅野…!?」

宇佐美は少し慌てた様子で、一瞬離れようとしたがすぐに無言で動かなくなった。最初の一瞬は固まっていた体も、力が抜けるかのように無抵抗になる。


俺が宇佐美の言葉を無視して抱きしめると、俺の斜め上にあった胸は俺の顔を埋めてしまった…もう少し強く抱きしめると、顔は更に埋まっていく…少し息苦しいが、逆にそれが心地良い…


30秒程だろうか…最初は抵抗しようとしていた宇佐美も動かなくなり、俺も少し満足したのか宇佐美から離れる…まだ余韻が残っているのか、頭が少し回ってない気がする。


「ごめん…」

「良いよ…今のは私が悪かったし…」

俺がまだ回ってない頭でとりあえず謝ると、宇佐美は顔を赤くしながらも許してくれる。このままもう少しの進展もしてみたかったが、もしもの事が頭の中に浮かんできてしまい。俺はそれ以上進めなかった。


俺はすぐに立ち上がって、自分の部屋に籠ることにした。宇佐美は俺の事を好きでは無いかもしれない。ただの友達として見ているかもしれない。そんな思いが俺の中にあるのが1番邪魔をしている。それに宇佐美の母親やお義父さんが信頼してくれているのに、それを裏切るのは申し訳無かった…


俺はその日は最低限の事をする時以外、部屋から出る事は無かった。

◇ ◇ ◇

あの状況の良さを分かってもらおうと、勢いで梅野に跨って壁ドンをした。ソファの背もたれに腕を伸ばして壁ドンしてソファに体重を預ける。


梅野が良さを分かった所で、預けていた体重から立ち上がろうと更に力を込めた所で、すっぽ抜けてしまった。肘をつく時のように、手首の所でしか体重を預けて無かったのが原因だ。私の身体はそのまま梅野の上に乗って、私の顔は梅野の顔に当たってしまった。


「ごめん…大丈夫?」

私が聞いてみると、梅野は少しぼーっとした顔のままだった。まさか私のせいで変なことになってしまったのかと考えていると、私の体は梅野の身体に引き寄せられる。


「ちょっ…梅野!?」

慌てて一瞬梅野から離れようとしたが、梅野の頭からはシャンプーの香りがしてもう少し抱きしめられたままで良いかなと思えた。考えてみればこれは幸せな事…抵抗する必要は無いと理解した…


(あ…ヤバい身体熱い…耳も熱くなってきた…心臓もめっちゃ早くなってる…)

そのまま梅野は30秒程抱きしめた後、ゆっくり離して謝ってきた。


別に梅野が謝る事じゃなかったし、男の子はあういうのが普通って聞いた事あるから…それに梅野になら…


そのまま梅野はすぐに部屋に籠ってしまった。その日は私も部屋に籠って、1人でさっきまでの事を何回も思い出し、してしまった。

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