第4話 体育祭の時期です
俺と宇佐美の同居生活も3日目に入り、早くも少し慣れてきた。何故か宇佐美に起こされて、作られた出来たての朝食を食べるのも、だんだん違和感が無くなってきている。このままでは宇佐美が居なくなったら、俺の朝は酷い事になりそうだ…
昨日宇佐美は俺にキーホルダーを渡して、すぐに部屋に入ったと思ったら、何事も無かったかの様に出てきた。
俺は昨日から悩んでいる…黒色の兎のキーホルダーはどうするべきなのか。鞄とかに付けたい気持ちもあるが、袋は開けずにそのまま残したい気持ちもある。
でも鞄なんかに付けて、誰かに「そのキーホルダー可愛いね」なんて言われて、「あぁ貰ったんだよね」とか言って匂わせ的なのもしてみたい。
うん、やめとこう。こんな事を考えている時点で俺はあれを付けずに保管するべきだ。昨日からの悩みの種を1人で勝手に解決し、寝癖の強い髪を直すためにシャワーを浴び、その後制服を着て準備をしながら雑談する。
「宇佐美って何時位に起きてるの」
「ん?大体6時半とかかな」
「よく起きれるな…」
「逆によく今まで遅刻とかしなかったね」
「え、なんで知ってんの?」
「優香から聞いた」
「そゆこと、まぁ朝飯とか食べてなかったから」
「やばいじゃん」
どうやら昨日、俺が樋口と話している時に、宇佐美と竹内の方では俺の話をしていたようだ。宇佐美は鏡を見ながら制服のネクタイを締めて、クリーム色の髪を整えている。
俺も髪をセットし、伊達メガネをかけて部屋から鞄を持ってくる。宇佐美の方が早く準備し始め、俺が先に準備を終わらせると、ほぼ同時に宇佐美も準備が終わり、じっと俺の顔を見つめてくる。
「…?なに」
「いや、なんで眼鏡してるのかなって。目悪く無かったよね?」
「あ〜これ伊達だよ、レンズ無いし。まぁこれ付けた方が俺は良いって思ったから付けてるだけ」
「へ〜…確かに似合ってるもんね」
「え…ありがと」
急に宇佐美が素直に褒めてきたので、思わず照れてしまい。それまで宇佐美を見ていた視線を、何も無い所に向けてしまった。宇佐美はそんな分かりやすい反応をした俺を見て「ふふっ」と笑った後、特にからかう事はせずに、玄関に歩いていった。
学校に着いて、自分の席に荷物を置いた後。トイレに行くついでに宇佐美のクラスを覗いてみると、早速樋口達の輪の中に居た。
宇佐美を囲っていた男子達は宇佐美の席ではなく、他の席で3人で話していた。樋口が追い払ってくれたのだろう。とりあえずこれで一安心だ。
そして教室に戻り、他の女子達と話している竹内の所へ向かう。
竹内と一緒に居る女子もこれまた顔の良い女子ばかりだ。竹内と大体同じ身長で、竹内の茶髪よりも黒に近い、腰あたりまで伸びたロングヘアと、黒タイツがトレードマークの
そしてもう1人は竹内よりは身長が低く、宇佐美に近い身長の
伊織は宇佐美と似た系統の、少し幼さを残しつつも、しっかりと同い年だと分かる可愛らしさ。橘は、他の人達よりはどこか落ち着いた大人な美人系。そして竹内はこの中だとゆるふわ系といった感じだ。
「竹内、昨日はありがと」
無意識に主語が抜けた感謝の言葉を、昨日居なかった橘と伊織の前で言ってしまい、俺の言葉を聞いた2人は勘ぐり始めた。
(あ、やべ…)
「え、何!?優香、梅野となんかあったん!?」
「優香もしかして告った!?」
「違うから〜梅野はマジで無い」
「酷くね!?てか、隣のクラスの宇佐美達と、遊びに行っただけだから」
後々面倒になりそうだったので、正直に宇佐美達と行った事を話すと、今度は宇佐美の事に食いついてきた。
「え、宇佐美ってあのめっちゃ可愛い子?」
「そうだけど」
「は〜?何梅野、元々知り合いなん?」
「中学一緒で、まだ高校で馴染めて無いからって相談されたんだよ。んで、竹内と宇佐美と同じクラスの竹内の友達4人で遊びに行った。俺は完全に荷物持ちだったけど。それだけ」
「え〜良いな〜私らも誘って欲しかったんだけど〜」
さすがは竹内とほぼ常に一緒に居る2人だと思わせる雰囲気だ。全く関わりの無い宇佐美の話題が出てきても、一緒に行きたかったと言ってくる。橘と伊織も、宇佐美の事を知ったのだから、竹内も次からは宇佐美と何処かに行く際、この2人を誘う可能性もある。
「まぁまた行く事あったら竹内が誘うっしょ」
「誘う〜!茜は近くで見るともっと可愛いよ〜」
「え〜マジ誘って〜」
「てかもう今行っちゃわね?」
「は!?いやお前ら行動力えぐ!!」
3人は勢いに任せるように、宇佐美の居るクラスにドタバタと向かっていった。3人の行動力に驚きながらも自分の席に戻ると、田中と佐々木がやって来た。
そう言えばこいつらは、宇佐美が俺に話しかけてきた時に一緒に居た2人だ。今更になって、俺と宇佐美の事について聞きに来た。
「なぁ梅野、お前一昨日結局どうだったん?」
「なんでお前ら今更なんだ」
「いやめっちゃ忘れてたわ〜竹内達と話してるの見て思い出した」
俺はさっき竹内達に伝えた内容をそのまま話した。この話するの何回目だよ…その内容を聞いて、田中と佐々木はある程度納得しつつ、何処か腑に落ちない様な感じだった。そしてすぐにチャイムが鳴って先生が入ってきてホームルームが始まる。
「うぃ〜じゃあ大事な事伝えるぞ〜」
そう言いながら、少しけだるげな感じの若い男性教師が入ってくる。
「はい〜…んじゃもうすぐ体育祭だから、何出るか決めとけよ〜応援合戦とか、借り物とか、選抜リレーとかやるから、どれ出るか何となくでも良いから決めとけ〜明日には決めるぞ。必ず何か1つは出ないとだからな」
そう6月に入れば体育祭がやってくる。運動は出来るので、体育祭は別に嫌いじゃない。宇佐美も運動は出来る方だが、選抜リレーとか出るのだろうか?
そんな事を考えながら授業を受けていると、すぐに休み時間になった。休み時間になると、竹内達が俺の方にやって来た。
「梅野〜」
「何?」
「選抜リレー出てよ」
「え〜…」
クラス対抗選抜リレー。それは男子6人、女子6人の合計12人で走って1位を決めるやつだ。っていうか男女6人ずつって結構多いよな。選抜リレーというのは、体育祭で1番盛り上がる競技だろう。それ故に勝ちたい人が居てもおかしくない。それに俺だって負けるのは嫌だ。だが出るのはあまり気が進まない。
「竹内達は出るの?」
「私ら3人は全員出る予定だよ」
「マジかよ」
「お前ら全員出るなら出ても良いかな〜」とか言おうとしたら竹内、橘、伊織3人とも全員出るようだ。3人ともかなり運動は出来るので納得ではあるが…竹内は女バス、橘は女バレ。伊織は部活に入っていないが、運動はかなり出来ると聞いている。
「いや…でもな〜…」
正直めんどくさい…選抜リレーなんてめちゃくちゃ注目されて、任されて…そして緊張するのであまり出たくない。
「出てよ〜…梅野足速いんだからさ〜」
「田中からめっちゃ運動出来るってもう聞いてるんだよ〜?」
「ほんとお願い!」
「っ……はぁ…分かった」
それぞれタイプの違う可愛い女子3人に言い寄られて、嬉しい気持ちが勝ってしまい。つい承諾してしまった。これはしょうがない。こんなの断れる男子の方が少ないはずだ。
とりあえず、リレーに出る事は決まったので、
他の競技に出る必要は無い。これでどれに出れば良いか悩む必要が無くなったので、少し気は楽になった。
放課後になって俺は帰る為に鞄を持って、田中と佐々木と一緒に玄関に向かう。階段に向かうついでに、宇佐美の居る1ーCを覗いてみると。宇佐美は樋口や他の女子と楽しそうに話していた。ここで宇佐美に「俺、先に帰っとくわ」なんて言ったら同居バレ確定なので、俺はスマホから宇佐美に『先に帰っとく』とメッセージを残した。鍵は渡しているので、大丈夫なはずだ。
「どうした〜?宇佐美の事めっちゃ見て〜」
「いや、ちゃんと仲良くなってんなって思って」
「てか、宇佐美ちゃんマジ可愛いな〜彼氏とか居るの?」
「居ないけど…なに告んの?」
「マジ?田中お前ようやるな」
「体育祭で声掛けてみよっかな〜」
「うん…まぁ…頑張れや」
「佐々木体育祭の時一緒に行こうぜ」
「なんかおもろそう、良いぜ」
体育祭での宇佐美がどうなるのか、今の田中を見て少し分かった気がした。
佐々木と田中の電車の方向は反対なので、高校の最寄り駅で別れる。
「じゃあな」
「んじゃ」
俺は電車に乗った後、スマホを開くと宇佐美から返信が来ていた。
『分かった!夜ご飯どうする?』
『何か買う?』
俺が返信をすると、すぐに既読がついて返事が帰ってきた。
『マック食べたい!』
『おけ。すぐ帰ってくる?』
『もうすぐ高校の最寄り駅着くよ!』
『俺もう電車乗ったわ、先に駅で待っとくから着いたら連絡して』
『は〜い』
そして先に家の最寄り駅に着いて、駅前のマックで待ち合わせて合流した。駅の中から歩いてくる宇佐美のクリーム色の髪はやはり目立つし、155cmくらいの身長もあって小動物の様だ。
「マックって結構食うの?」
「全然食べない!!久しぶりに食べてみたかった」
「そっか、家で食う?店内で食う?」
「店内で食べたい!!」
俺と宇佐美は店内に入って、セットを注文する。俺はサイドメニューにポテトを頼んで、宇佐美はナゲットを頼んだ。ポテトは分け合えば良い。少しして番号が呼ばれ、俺のメニューが渡されると、人も少ないので4人座れる机に頼んだものを置いて座った。すぐに宇佐美も反対側に座ってきて早速食べ始めた。
俺は宇佐美も取れるように方向を変えて、ポテトを食べ始めた。宇佐美はバーガーから美味しそうに食べている。
「体育祭何か出るん?」
俺が質問をすると、宇佐美は口の横についたソースを紙ナプキンで拭きながら答える。
「ん〜私は借り物出る予定!」
「借り物か…良いな…」
「梅野は?何出るか決まってる?」
「竹内に選抜リレー出てって言われて出る事になった」
「え〜凄!!私のクラスも奈央が出るって言ってた」
「正直、選抜リレーはめんどくさい…」
俺は机に肘をついて溜息を吐きながら、竹内達には言えなかった事を宇佐美にぶっちゃける。俺の正直な気持ちを聞いて、宇佐美は「ふふっ」と笑った後、ナゲットを1つ俺の目の前に持ってくる。
「頑張れ、私応援してあげるよ?別のクラスだけど」
宇佐美の言葉を聞いて、俺は少しやる気になった。体の内側から何かが燃え上がる様な感じがして、何とも言えない嬉しさの様なものがある。
そして俺は、宇佐美が顔の前に持ってきているナゲットに視線を向けて、そのままパクッと食べる。
「あっ…」
宇佐美はナゲットを持つ手を離して流れるようにポテトを食べ始めた。
「ポテト食べていい?」
「もう食べてんじゃん…別に良いけど。てか今日学校来てすぐに竹内達と一緒に橘と伊織行ったでしょ?」
「あ、来たよ!!めっちゃびっくりした!!」
「あいつら行動力えぐいから…てかクラスの他の女子とは大丈夫そうだった?」
「うん!!奈央がきっかけ作ってくれて、色んな子と仲良くなれた!!」
「そっか、なら良かったわ」
樋口のおかげでクラスに馴染めてきたようで安心した。やはり竹内経由で樋口に頼ってみたのは良かったかもしれない。
「ありがとね…?昨日は」
「良いよ別に。結局樋口達と仲良くなれるかは宇佐美次第だったし、別に俺はそんな大したことしてない」
「してるよ!梅野居なかったら、私もっと辛かったと思うし」
「まぁまたなんかあったら頼ってくれれば、俺に出来ることはするから」
「うん!!」
俺と宇佐美はその後一緒に家に帰り、俺が先に風呂に入ってリビングに戻ると、今日も恋愛アニメを見ていた。やはり恋愛系が好きなのか、ソファに座ってとても楽しそうにしていた。
明日は体育祭に出る種目が決まる。てか、一応運動しとかないとやばい気がするな。明日から近くの体育館でバスケでもするか。
普通に走るだけだと、何も楽しくないのでバスケをしながら体育祭に向けて、体を動かす事に決めた。
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