第3話 新しい友達です
それは男子からすれば少しでも触れ合いたい憧れの存在だが、女子からすれば手の届かない物。人間は、自分の身近にありながらも手の届かない物には嫉妬してしまう。なのでスクールカーストを下げる事が今の課題だ。
だが、スクールカーストを下げると言っても一気に下げ過ぎれば、更に女子から好感度を下げる事になる。
そこで俺と同じクラスで1ーBの
茶色の髪のロングで、明るい茶色の目。クリーム色のカーディガンが似合う、見た目は少し大人な雰囲気をしつつも、可愛らしさを残した顔をしている。だが中身はかなりふわふわした女子だ。身長は160cm程で、宇佐美と同じくらい胸は大きい。竹内も男子からの人気がかなり高く、宇佐美が居なければ竹内が学年1だったかもしれない。
「竹内、ちょい良い?」
「ん?何〜?」
同じ教室で他の女子と会話してる途中だが、そんなのは気にせずに話しかける。そういうのを気にしてしまうと、タイミングを見つけるのは難しい。ならこういうのは気にしない方が良い。
「ちょっと来て」
そう言って教室の扉の方に行くと、竹内は俺の後ろをトコトコと着いてくる。
「竹内って1ーCで同じ中学の奴か、友達居る?」
「ん?居るけど…」
「なら良かった」
俺は竹内を連れて、隣の1ーCの教室に行く。扉の所から教室内を見てみると、宇佐美は自分の席に座っていて、その周りを3人程の男子が宇佐美の机を囲んでいた。
(えぐ〜…なんやあれ)
宇佐美は虚無の顔をして、男子から話を振られると適当に返事をしていた。
「宇佐美〜!!」
俺が名前を呼ぶと、宇佐美は俺を見つけてすぐに立ち上がった。そして、男子の間を抜けて少し駆け足でエサを見つけた子犬のように近寄ってくる。
宇佐美がすぐにその場を離れた事で、宇佐美を囲っていた男子達の視線が俺の方に向いてくる。
(お〜お〜…アイツらの視線が凄い…)
宇佐美は俺の事を見た後、隣に居る竹内を見て、少し不安そうな顔をした。
「宇佐美さん…だっけ?」
「そう…」
竹内の質問に、宇佐美が人見知りを発動している為、俺が色々説明する。
「
「友達になってあげて欲しいって事?」
「んま〜そんな感じ。だからさ、今日の放課後どっか行かね?宇佐美と同じクラスで、竹内が知ってる1ーCの人も入れて」
俺は宇佐美の友達が出来るきっかけを作りたかった。竹内は俺の誘いに、少しの考える時間も無く「うんいいよ〜」と承諾してくれた。
「ありがと。じゃあ竹内の知ってる人って今教室に居る?」
「うん居る!!奈央〜!!」
竹内は教室の扉から大きな声で、窓の近くの席で談笑している1人の女子の名前を呼ぶと、すぐにこっちに近づいてきた。
黒髪のボブで、黒色の瞳。そして髪色に合わせるかのような紺色のカーディガン。少しクールな感じのこれまた可愛い女子だ。
やはり女子的にはカーディガンを着るのがおしゃれで可愛いのだろうか。
「どしたん優香」
奈央と呼ばれた人物は竹内を見た後、俺と宇佐美を見て少し怪訝な表情をした。ここは関係性の無い俺が誘うよりも、竹内に任せた方が良い。竹内は俺の方を見て、俺からは何も言いそうに無いと察すると、すぐに誘ってくれる。
「放課後一緒にどっか行かない?」
「え、行く〜!!」
「ここに居る梅野と宇佐美ちゃんも一緒に行くんだけど良い?」
「え、俺も行くの?」
「え〜来ないの?」
流れるように俺も行く事になったが、宇佐美が竹内達と仲良くなれるかは、とても気になるのでついて行く事にした。宇佐美と竹内は元々関係があるが、奈央と呼ばれた人の苗字が分からないのでとりあえず質問する。
「ごめん、名前聞いても良い?俺は
「梅野ね、おっけ〜。うちは
「そう一緒。てか、なんか俺も行く事になったけど大丈夫?男子要らないなら俺行かないし、他に男子欲しかったら誰か誘うけど」
「別にそんなん良いよ!その代わりなんか奢って!」
「え、いきなり来るじゃん、別に良いけど」
そんな感じで放課後に遊びに行く予定を決めていると、宇佐美を囲んでた男子達がやって来た。
「なになに樋口どっか行くの?」
「え〜俺らも行っていい?男子少なそうだし」
厄介な事に、こいつらはダルい陽キャ寄りの様で、俺らの輪の中に気にせず入ってこようとしてくる。宇佐美は相変わらず困った顔をしつつも、断れなさそうな雰囲気をしていた。ナンパとかちゃんと断れないタイプだろ…
さっき他の男子も誘うか聞いてみたが1度断られているので、樋口的に『これ以上男子は居ない方が良いと思っている』と悟ったので俺が断ろうとすると、樋口が答えてくれた。
「うちら女子会だから無理〜」
「え〜?でも男子居るじゃん」
「梅野はうちらの荷物持ちだから」
「でも荷物持ちは多い方が良くね?」
「無理なもんは無理だから。ほらあっち行って」
そう言って厄介陽キャ達を押しのけてすぐに戻ってきた。さすがにアイツらもこれ以上踏み込んでは行けない引き際は分かるようで、それからは絡んでこなかった。
「ありがとう、樋口」
「良いよこの位、宇佐美もああいうのちゃんと断りな?」
「あ、うん…」
なんとか樋口に助けてもらい、最後に確認をとる。「じゃあこの4人で良かった?」と聞いてみると、全員OKしてこの4人で放課後どこかに行く事が決まった。そしてほぼ丁度休み時間が終わり、次の休み時間でまた竹内と今日行く場所を決める。まだ4人の距離感はあまり近くないので、距離を近づける為にもショッピングモールに行く事になった。
昼休みになり、俺は宇佐美の所へ向かう。また男子に囲まれている宇佐美を呼んで、人が少ない場所に行き、重要な事を伝える。
「宇佐美、これから色んな人と仲良くなるのに1番重要なのは、少し面倒くさくても何かに誘われたら基本行く事だ」
そう。陽キャという物は基本的にその場のノリを求めている。(なんだこのクソつまらんノリは…)と思っても、恥ずかしさを捨ててそのノリには乗った方が良い。
勿論ある程度の顔の良さは求められているが、陽キャの優先度からしたら、顔の良さよりも自分達の求めている物を出してくれるかどうかが大事になる。社会人になった時に上司のめんどくさい飲みの席に、内心は嫌でも着いていくような感じだ。
最初は金魚のフンだとしても、休み時間に陽キャの輪の中にいれば、いつかはその輪の中から放課後遊びに行く話が出てくる。
そして陽キャというのは優しさも持っている事が多い。輪の中に居るのに、特定の人だけその遊びに誘わないというのは、明らかに不自然になる。だから自然と「梅野は行く?」と誘ってくれる。
その誘いとその場のノリに乗って一緒に遊びに行けば、俺を誘うハードルも下がって陽キャの印象は、『遊びに着いてきてくれる友達』になってより仲良くなれる。それ以降は気軽に他の教室に行く時にでも「梅野早く行こうぜ」と誘ってくれる事も多くなる。
もし本当は行けるのに、『ノリが合わないから』や『めんどくさい』という理由で断れば、自分が行かなかった遊びの話が、自分の居る休み時間にされて距離が離されていく。
そして断り続ければ、陽キャの中の俺の印象は『誘ってもどうせ来ない人』になり、休み時間に輪の中に居ても、「誘ってもどうせ来ないでしょ」となってしまい誘われる事自体が無くなってしまう。
これはあくまで男子の場合の対処法だが、女子にもこれは有効だと考えている。だからこそこれを宇佐美に伝えた。
元々宇佐美は、中学の卒業記念で一緒に読ランに行った時の様に、誘えば来てくれる事も多い。それに元々宇佐美は陽キャの方だったので、会話内容について等は変に言う必要も無いだろう。なので樋口や竹内と仲良くなれるかについてはあまり心配はしていない。
「わかった!!」
宇佐美は俺の言葉をしっかりと聞いて受け止め、購買で買ったパンを小さな一口でまた食べ始める。
放課後になって竹内に呼ばれ、竹内と一緒に1ーCに行き、宇佐美と樋口と合流する。
既に樋口は宇佐美に話しかけてくれていた様で、少し仲良くなっていた。もしかして俺の気遣いは要らなかったのではとか思ったが、今更気にしないようにしよう。
4人でとりあえず高校の最寄り駅に向かう。
「竹内と樋口は中学一緒?」
「そう!!うちと優香は幼稚園から一緒」
「めっちゃ幼馴染じゃん」
「そっちは?梅野と宇佐美って中学一緒だったの?」
「そう。俺と宇佐美は中学から一緒。中2と中3同じクラスで、修学旅行の時とかも同じ班だった」
「じゃあ結構仲良いんだ」
「まぁそうかも」
より仲良くなる為にも過去を知るというのは大事な事だ。お互い知らない事について会話を交わして、より関係性を深めていく。
「優香はクラスでどんな感じなんよ?」
それまで少し静かだった竹内に気を使ったのか、樋口は竹内の話を俺に振ってきた。
「竹内は色んな人と話してるよ、マジ人気者って感じ。男子とかにも分け隔てなく話しかけたりしてるから、竹内の事もう好きな人とか居るんじゃね〜?」
「ちょっ!!そんなん居ないよ!!」
色恋沙汰を話すにはまだそれ程月日は経っていないが、竹内の反応がどんな感じか気になるので吹っかけてみると、竹内は少し慌てた様子で否定してきた。
「宇佐美は?もう誰かに告られたりした?」
2人きりでは決して聞けないような事を、ここで聞いてみる。すると困った様子で「え〜…答えなきゃダメ?」と聞いてきた。
すると竹内と樋口が息の揃った様に「教えて!! 教えて!」とお願いする。
押しに負けたのか、宇佐美は恥ずかしそうに答えた。なんと高校に入って既に2人から告白されたらしい…まだ5月ですけど?俺16年間まだなんですけど?
1人はクラスも違う人で、1人は同じクラスらしい…さすがに誰からかは言わなかった。そして竹内が宇佐美になぜ断ったか聞いてみる。
「なんで断っちゃったの?」
「まだ全然知らない人だったから…」
まぁ流石にこれで付き合うのは早すぎる。それなのに告る人は完全に宇佐美の顔しか見ていないのだろう。ていうかここに居る女子3人はかなりモテてそうな感じがある。
そんな雑談をしていると駅に着き、樋口と竹内がトイレに行った。
「宇佐美」
「ん?」
「今日のノルマはあの2人とお互い名前呼びになる事、良いな?」
「分かった。頑張る」
今日の目標を決めて、ショッピングモールに着くと樋口と竹内は服屋に行こうと提案してきた。女性物の服しか無いようなお店に3人は入ったが、俺は入りづらかったので店の前で待っていた。女子3人の方が気楽だろうし。
店の外から見える3人は、さっきよりも仲良くなっているようで俺はホッと安心した。
そして30分程服を見た後、店から出てきた。
「茜めっちゃ可愛かった〜」
「茜何でも似合うから凄いわ」
竹内と樋口は宇佐美の事を既に名前呼びして、仲良く3人で出てきた。
(いきなりノルマ達成してるし…)
そして流れる様に別の店に入っていった。少しして樋口だけが店から出てきて俺の方に寄ってきた。せっかくなので、同じクラスである樋口から宇佐美の様子を聞いてみる。
「宇佐美ってぶっちゃけどんな感じ?同じクラスの女子から見て」
「あ〜…茜は休み時間になると、ずっと男子に囲まれてるから話しかけづらいんだよね…囲んでる男子達も、俺ならワンチャンあるかもとか思いながら近くにずっと居るから、超邪魔なんよ」
「ま〜そうだよな…てか、宇佐美が話しかけたら無視された〜みたいなの聞いたんだけど、あれって何でなん?」
「それは話しかける人が悪かったんじゃないかな…多分茜が話しかけたの、茜にめっちゃ嫉妬してる女子だと思う」
「あ、そゆこと?」
「私らとかはきっかけが無かったから…茜の方から話しかけたりされなかったし、無言で居る事多かったら1人が好きなんかな〜って思ってた」
確かにきっかけが無ければ、宇佐美に自分から話しかける人は中々居ないだろう。だが今日遊びに誘った事で、宇佐美と樋口がある程度仲良くなれたと思う。これで今後のクラス内での立ち位置も少しは安心出来る。
「明日から宇佐美の事任せて良い?」
「何、任せるって?うちの茜なんですけど」
「ごめんごめん」
宇佐美は早速、樋口の心を掴んだようだった。
「ていうか、茜と梅野ってどういう関係?」
「どういうって…普通に中2と中3同じクラスで、高校入ってから友達出来なくて悩んでるって相談されたから」
「ふ〜〜ん…それだけ?」
「え…?それだけだけど?」
樋口は俺の説明を聞いても納得してないようで、どこか含みを持たせた笑みでこちらを見てくる。樋口も可愛いな…
「まぁいいや、梅野連絡先交換しよ」
「…?良いけど」
結局樋口がなぜそんな笑みをしたのか分からなかったが、樋口と連絡先を交換した。宇佐美の事は聞けたが、話したい事は他にも沢山ある。例えば竹内は中学の頃どんな感じだったのか。
「竹内って中学の頃どんな感じだったん?」
「優香?ん〜多分今と変わんないと思うよ。さっき梅野が話してた感じで色んな人と話したりしてた」
「竹内って中学でもあんな感じなら、かなりモテてそうだな…」
「ま〜告る人は居たね…主に陰キャの子…話しかけられて勘違いしちゃう子が多くて、その度に申し訳なさそうに断ってた」
「まぁそういう人居るだろうな。竹内って彼氏とか居なかったの?」
「うん居なかったね〜うちは中学の時から3人くらいと付き合ったけど、優香は居なかった。てか茜は?誰かと付き合ってたりしてた?」
「宇佐美は特に居なかったと思う。中学の時はかなり勉強に集中してたっぽくて、告られても全部断ってたらしい」
「ま〜そうだよね〜」
今居ない人の恋愛事情を勝手に話していると、宇佐美と竹内が何かを買ったのか袋を持って店から出てきた。
俺は2人の前に「ん」と手を差し出す。
「俺、荷物持ちなんでしょ?」
俺がそう言うと2人は持っていた袋を俺に渡してくる。
「じゃあうちの鞄も持って〜」と樋口が鞄を俺に持たせてくると、竹内もそれに乗っかり渡してきた。そして宇佐美の分も持たされ、一気に4つの鞄と商品を持つ事になった。
その後は更に仲良くなっていく3人の荷物を持ちながら、色んな物を買っている3人を眺めていた。時刻も18時を超えていたので、帰る時間になる。
ショッピングモールを出る直前で、3人の荷物を返して駅に向かう。
電車の方向は反対の様で、樋口と竹内を見送って俺と宇佐美は家に戻る。
「仲良くなれた?」
「うん…優香も奈央も凄い優しかった…」
「そっか、明日からはなんかあったら樋口頼った方が良いよ」
「分かった…」
明日以降に、樋口以外の人とどうなるのかが少し気になるが、樋口がかなり優しそうだったのであまり心配する必要は無いだろう。
家に着いて宇佐美が鍵を閉めると、後ろから無言で肩をちょんちょんと叩いてきた。
「ん?」
俺が振り返ると、宇佐美は緊張なのか体を硬くさせて顔を赤くしながらも、小さな可愛らしい包み紙を俺に渡してきた。
「これ…今日色んなの手伝ってくれたから…」
「くれるの?」
そう聞くと宇佐美は照れながら顔を縦に振った直後、自分の荷物を持って部屋に入っていった。
少し緊張しながらも袋を開けて中にあるものを出してみると、可愛らしい黒色の兎のキーホルダーだった。宇佐美からこんな風に何かを貰うのは初めてだったので、とても嬉しかった。俺は自分の部屋にキーホルダーを置いて、宇佐美の部屋の扉をノックして宇佐美の「はいっ!?」という返事を聞いた後、扉越しに「ありがとう…凄い嬉しい」と感謝を伝えた。
◇ ◇ ◇
宇佐美は部屋にドタバタと入った後、布団の中に頭を隠して毛布を力強く握る。
(やばい…めっちゃ緊張した…顔熱い…)
大きな音で鳴る心臓の音にうるささを感じながらも、気持ちを落ち着かせていると、コンコンとノックされる。
「はいっ!?」
「ありがとう…凄い嬉しい」
ちゃんと喜んでくれた事に、宇佐美は自分の布団の中でバタバタと嬉しさを隠しきれない子供のように身体を動かして喜んでいた。
ある程度気持ちが落ち着くと、息を切らしながらスカートのポケットに手を入れ、梅野に渡したのと同じ形をしたピンク色の兎のキーホルダーを取り出した。そして見つからないように引き出しの中に隠し、気持ちを落ち着かせた後何事も無かったかの様に部屋を出た。
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