第2話 学校よりも早い三者面談です!!
打ち切り漫画の様に早い展開によって、家出初日に宇佐美の母親に会ってしまった俺と宇佐美。
「あの!俺、宇佐美茜さんと同じ高校に通ってる梅野翔太です!」
宇佐美の母親から俺の名前を聞かれるより先に背筋を伸ばし、両腕は身体の横にピッタリとつけ、綺麗にお辞儀をした。
(中学の卒業式でもこんなちゃんとやらなかったぞ…)
「あぁ!梅野君!」
名前を聞いて心当たりがあったのか、宇佐美の母親は少し緊張していた雰囲気から一変し、どこか優しそうになった。
「僕の事知ってるんですか?」
「えぇ、茜からよく話は聞いてたわ!卒業記念で一緒に読ラン行ってくれた子でしょ?」
「あぁ、そうです!!一緒に行かせて頂きました!!」
確かに俺と宇佐美は中学の卒業記念で、他の奴らも含めて読ランに行った。その事を親に話していたおかげで、かなり警戒心も薄まったようだ。
「ありがとうね〜茜と一緒に居てくれて」
「いえいえ、こちらこそありがたいです!」
「本当に良かった?茜をお家に泊めちゃって」
どうやら宇佐美の母親は、異性である俺の家に泊まる事は否定的では無いようだった。中学2年から卒業まで同じクラスで、宇佐美も俺の事を母親に話していた事も大きいだろう。だが、その警戒心の薄さは1日泊まるだけだと思っているからだと予想している。
「あの…!少しお話良いですか?」
いきなり宇佐美の家に上がるのもあれなので、現在地からは宇佐美の家よりも近いファミレスに行かないかと提案してみる。
俺の提案に宇佐美の母親はキョトンとした顔の後、とりあえず承諾してくれた。
3人でファミレスに向かっている途中で、宇佐美の母親に聞こえないよう小声で聞いてみる。
「お前が家出したい事、もう言っちゃうけど良い?」
すると宇佐美はかなり不安そうな顔で、「うん」と喉が鳴るように返事をした。
「どうする?宇佐美が自分から言う?俺から言っても良いけど」
「……自分で言う…」
「分かった」
かなり不安そうな顔をしている宇佐美は、まるで迷子になった幼稚園児かのように小さく見えた。
「いらっしゃいませ〜空いてる席どうぞ〜」
そしてすぐにファミレスに着き、人の居ない奥の方にある席に向かう。
奥の壁際に宇佐美の母親を案内し、俺はその反対に座った。宇佐美はどちらに座るかと思ったが、俺の隣に座ってきた。
俺が話を始めようとすると宇佐美の母親が提案してきた。
「まずは何か頼みましょ?」
「そうですね…俺はドリンクバーで」
「私もドリンクバー」
俺と宇佐美の注文を聞いて、宇佐美の母親はタブレットにドリンクバーを3つ注文して、話を聞こうとこちらを向いてきた。
「すみません、まずお手洗いに…」
俺はそう言って、あえて宇佐美と宇佐美の母親を2人きりにしてみる。
俺はトイレの鏡で身だしなみをチェックして、制服のネクタイを締めて前髪を整える。
(ていうか学校の三者面談よりも先に、同級生の親と三者面談する状況って何だよ一体…)
「それで、梅野君とはどうなの?彼氏?」
「っ…違う!そういうのじゃない…」
「でもなんで異性の子と?女の子の友達とか居ないの?」
「そういうのは梅野が戻ってきてから話すから…」
「そう。学校はどうなの?」
宇佐美の母親が学校の事について聞いてみると、いつもならすぐに返事が返ってくるのに、黙り込んだ宇佐美を見て、何となく察しがついたようだった。
俺が戻ってくると、「ドリンクバー取りに行く」と宇佐美が立ち上がった。
「お母さんは何?」
「私は烏龍茶」
俺も一緒について行き、コーラのボタンを押しかけたが、コップにお茶を注いで先に席に着く。
そして机に3つのコップが並び、いよいよ家出の事を話す時になった。宇佐美が自分から言うと決めたので、俺は宇佐美の口から言葉が出るのを待つ。
少しの静寂の後、宇佐美は口を開いた。
「私、家出したい」
つい反射的に(親に言ったら家出では無いのでは?)という言葉が出そうになったが、ここはギリギリで飲み込んだ。
「親に伝えたらそれは家出では無いわよ」
(いや言うんかい)
口の中まで出かかった強めの言葉は、なんとか抑え込む事に成功し。雰囲気を壊す事は無かった。
「それで?なんで家出したいの?」
「私…学校であんまり上手く行ってなくて…いじめられてる…訳じゃないけど、友達がまだ出来なくて…」
その言葉を聞いた宇佐美の母親は、覚悟はしていたようで、あまり表情には出さなかった。
「だからって、学校は行って欲しいんだけど」
「学校はちゃんと行く!!でも…家には帰りたくない」
そのどこか曖昧で濁された言葉に、宇佐美の母親は納得行ってない様だった。宇佐美の母親は決して強くは言わず、優しい声色で宇佐美に問いかける。
「なんで家には帰りたくないの?」
「再婚しようとしてるから…」
「っ…!」
再婚という言葉を聞いて、宇佐美の母親は少し取り乱した様で、1度烏龍茶を飲んで落ち着かせた。
「なんで再婚するからなの?私はちゃんと茜に聞いたよね?良いかどうか」
「それは…会ってみたら変わるかもって思ったから…」
「茂雄さんは凄く良い人よ?茜の将来の事もちゃんと考えてくれてる…これからの学費だって、全部出すって言ってくれてるのよ?」
俺達の通う高校は私立なので、学費も勿論安くない。そんな学費を全部出すというのは、並大抵の覚悟じゃ不可能だ。確かに宇佐美の言う通り真面目な人なのだろう。宇佐美だってその男の人が嫌な訳じゃない。
「でも…それでも…私とお母さんの場所に、知らない人が入ってくるのが嫌だった…」
宇佐美が少し感情的になってきた所で俺が宇佐美から聞いた事を付け足して話す。
「茜さんは、再婚について否定的な訳じゃないんです。まだ受け入れきれてないだけで」
俺の言葉を聞いて、少し感情的になっていた2人が落ち着き始めた。
「茜さんに再婚の事を相談して、3日程で男性の方を会わせたと聞きました。茜さんは1度、気持ちを整理する時間が欲しいんだと思います」
「でも、だからと言って梅野君のお家に泊まらせるのはご迷惑が…」
「こっちの事は全く気にしなくて良いので!!部屋も余ってますし!」
「でもまだ茂雄さんと同棲している訳でも無いんだから、家出はしなくても…」
「茜さんのお母さんからすれば、見知った人を家に入れたのかもしれませんが、茜さんからすれば見ず知らずの他人です。知らない人が1度入ってきた家で、安心して居られる訳じゃ無いと思うんです」
宇佐美の母親は、俺に言われ呆気に取られたように、口が開いたまま固まっていた。
「この家出は決して悪い方向に進む訳じゃ無いと思うんです。茜さんも、これから家族とちゃんと向き合いたいからこそ、ある程度関係を持った中学からの同級生である、俺の所に頼ってきたんだと思います」
俺が出来るサポートはやったので、ここからは宇佐美の母親の反応を待つ。
宇佐美の母親は、少し考えた後気持ちを整理して、まず感謝を伝えてきた。
「ありがとう梅野君。茜に手を差し伸べてくれて」
そして、小さく息を吐いた。
「分かりました。少しの間ですが、茜を宜しくお願いします」
俺と宇佐美はその言葉を聞いて、2人顔を合わせて喜んだ。
(よっしゃあぁぁ!!学年1の美少女と親公認で同居来たぁぁ!!)
「それで?どれくらい泊まるの?」
宇佐美の母親が、宇佐美に聞いてみるとさっきまでの緊張した表情とは違い、少しの笑みを零しながら答えた。
「1ヶ月くらい…」
「はぁ!?」
(ですよね〜…)
それまで大人な雰囲気だった、宇佐美の母親が思わず学校での俺と同じ反応をする程、その期間は少し長めのものだった。
「本当に梅野君はそれで良いの?」
「こっちは全然大丈夫です」
「でも…さすがに親御さんに連絡させて?」
「あ〜…分かりました。電話かけてみます」
俺はそう言ってスマホを取り出し、1度ファミレスの外に出て母親に電話をかけた。
『もしもし〜?どうしたん?』
『あ、お母さん?友達を家に1ヶ月位泊めたいんやけど良い?』
『はぁ!?いきなり何!?1ヶ月ってちょっと急やし、長過ぎちゃうん?それ相手の親御さんからちゃんと許可貰っとるん?』
『今その親御さんと話しとって、許可貰ったんよ。んで俺の親に連絡させてって言うたから』
『あ〜分かったわ。じゃあこのまま相手変わって』
『分かった』
とりあえず母親に状況を説明して、中に戻り宇佐美の母親に変わってもらう。
『もしもし…宇佐美茜の母です』
『本当に良かったですか?1ヶ月も泊まるなんて、家は今翔太1人で住んでるんで全然良いんですけど』
『1人?今は息子さんが一人暮らしされてるという事ですか?』
『えぇそうですけど…あ!!もしかしてアイツ説明してへんのか!!すみません…』
『あ…いえ…』
『元々私と息子2人で中学上がる時に東京来たんですけど、色々あって今年から私だけ三重に戻ってるんです。やから今アイツ1人暮らしなんですよ。それでも良かったですか?』
『私の方はちゃんと翔太さんから説明して頂いたので、そこは大丈夫です。私と娘の事もしっかり考えてくださっていて…』
『え!?ちょっと待ってください!!アイツ女の子家に連れ込もうとしてるんですか!?』
『え?えぇ…』
『ちょっとアイツに代わってもらっても良いですか?』
宇佐美の母親と俺の母親が少し長い間話した後、俺に代わる様に言われてスマホが戻ってくる。
『な?ちゃんと許可取ったやろ?』
俺がそう言うと、俺の声を聞いた母親は話を無視して怒鳴りつけてきた。
『アンタ女の子に絶対手出すなよ!?今まで彼女とかそういう話全然してこうへんかったのに、急に女の子1ヶ月泊めるって…』
『大丈夫やって俺の方からなんかしたりとかはせぇへんから(多分)、ええやんな?泊めても』
『まぁ…親御さんがちゃんと許可出してるからええけど…』
『じゃあもう1回代わるで』
俺はそう言って再び宇佐美の母親に電話の相手を変わってもらった。
『すみません…娘を宜しくお願いします』
『いえいえ私はなんも出来へんので…娘さんになんかあったら、遠慮なくシバいたってください』
『あの…良ければ連絡先を教えて頂けないでしょうか?』
その後はお互いの連絡先を交換したようで、宇佐美の母親は紙に電話番号をメモした後、何度も感謝して通話を切った。
「改めて梅野君…娘をお願いします…」
「こちらこそ…」
そう言って俺はコップの中にあるお茶を全て飲み干し、真面目な雰囲気で宇佐美にお茶を入れるように頼む。
「ごめん、これお茶入れてきて欲しい」
「え〜自分で行けば…」
最初は冗談で頼んでいるのかと思った宇佐美は断ろうとしたが、俺の真面目な雰囲気を感じ取り俺のコップを持ってドリンクバーにゆっくり歩いていった。
親御さんの前で、娘をパシリにする所を見せるよりも大事な話があると思ったので俺は半ば無理やり宇佐美をこの席から外させた。
それは宇佐美の母親も何となく分かっていたようで、特に気にする事も無く俺が話をしようとする時を待っていた。
「こんな事、部外者の俺が言う事では無いと思いますし、分かってるとは思うのですが…しばらくの間は妹さんや弟さんを作られるのは控えて欲しいんです」
家族でも無い俺のかなり攻めた言葉を聞いても、宇佐美の母親は特に取り乱すことなく聞き続ける。
「今茜さんは、自分の中にある家族の輪が乱れてる状態です。それでも1度家を出て、取り戻そうとしています。そんな時に新しい家族が生まれると除け者にされた様に感じてしまうと思います…なので…」
宇佐美の母親は俺より少し奥に視線を向けた後、優しい笑顔で返事をした。
「そうね…分かったわ。ありがとう…茜の為にこんなに考えてくれて」
その表情はとても穏やかで、宇佐美の母親だと実感するような美しさがあった。
そしてその言葉を聞いた後、すぐに宇佐美が戻ってきた。
とりあえず現状で伝えなければ行けない事は一通り伝え終わったので、どうにか一安心だ。
その後は軽く談笑をして、会計に向かった。
「私、トイレ行ってくるね!」
ファミレスに入る時は不安そうな顔をしていた、宇佐美の顔も安心した様だった。
「ここは私が出すわ。ありがとう今日は話をしてくれて」
「こちらこそ許可して頂いてありがとうございます」
ここは素直に会計を払ってもらい、少し先に宇佐美の母親と2人でファミレスを出る。
「あの、良ければ連絡先交換しませんか?学校での様子とか、家での様子を伝えたりしたいので」
俺がそういうと笑顔で承諾してくれた。そして何とか宇佐美が来るよりも先に、こっそりと連絡先を交換する事が出来た。
「新しい方との関係、上手く行くと良いですね」
「そうね…良い人だから大事にしたいわ。茜も、茂雄さんも……そしてあなたも…」
「梅野君」
「はい!!」
「茜に何かあったら、責任、取ってくれるのよね?」
「えっ…!は、はい!!」
『それはどういう意味ですか』という言葉よりも先に「はい」と返事をしてしまったタイミングで宇佐美が戻ってきた。
俺は何事も無かったかのように、3人でファミレスから駅に向かった。
「俺先に駅で待ってるから少し話したら?」
「分かった!!」
「すみません、俺先に駅まで行っときますね」
そう言って宇佐美の少し重めのバッグを持って、駅に向かった。
駅で待っていると5分程で宇佐美が戻ってきた。ちゃんと話は出来たようで、どこかスッキリしたような表情で戻ってきた。
「ちゃんと話せた?」
「うん!!」
「そっか、なら良かった」
これで1番の問題になるであろう、お互いの親の問題が解決し、とりあえず心置きなく住むことが出来るようになった。
電車に乗りこみ、俺の駅の最寄り駅で降りる。
「私の最寄りから2駅も離れてるんだね…」
「そっか、俺ん家知らないのか」
「全然知らない」
「よくそんな状況で俺に頼ってきたな…1部屋とかだったらどうしてたんだよ」
「私は1部屋でも泊まってたよ?」
「え〜…」
宇佐美の恐ろしい程の覚悟を聞いて、少し引きながらも駅の階段を降りていく。
「で!!梅野の家ってどこら辺なの?」
「あれ」
俺の家の場所を聞かれ、俺は駅から見える所にある、高層マンションを指さした。
「え…?」
「あそこの14階」
「嘘でしょ!?」
「マジ、ほら行くぞ」
そう言ってマンションに向かった。駅から見える、近いようで少し遠い道を歩く。
「コンビニはここと、もうちょい行った所にもある。んで駅前にも色んな店ある」
「凄いね…」
駅から15分ほど歩き、マンションに入って鍵を開けて家に帰宅した。
「え!?めっちゃ綺麗じゃん!」
「おい、汚部屋だとでも思ってたんか?」
「ぶっちゃけ思ってた」
「ちゃんと掃除してるから」
宇佐美を空いている部屋に案内し、宇佐美の持ってきた荷物を置く。そして部屋を案内し始める。
「ここが風呂と洗面台、あと洗濯機」
「すご…!めっちゃ広い…」
「んでここがトイレ」
「勝手に開いたんだけど…」
「ここが俺の部屋ね、鍵無いから入る時は絶対ノックしてから入って」
「すご!!めっちゃ漫画ある!!」
俺の部屋は、沢山の漫画やラノベ、そしてPCが置かれた、如何にもな感じのオタク部屋だ。俺がオタクなのは中学からで、全く隠していないので、宇佐美も何となく知っていただろう。
「読みたいやつあったら言ってくれれば貸すよ」
「分かった!!」
「んでここがリビングね」
開放感のあるリビングに、オープンキッチン。そして大きなテレビと、その前にある高級そうなソファを見て宇佐美は興奮しているようだった。
「凄い!!ホテルに来たみたい!!」
「これから1ヶ月は住むんだから、ちゃんと掃除とかはしろよ?割とこの綺麗さ保つのキツいし」
「分かってる!!」
そして部屋をある程度見た後、窓から見える景色に感動して、宇佐美は声が自然と出ていた。
「うわ〜〜!!夜になったらもっと凄そう!!」
「夜になったらめっちゃ綺麗だよ」
とりあえず部屋の紹介が終わり、宇佐美に持ってきた荷物を整理する様に促す。
宇佐美は空いている部屋に入って、持ってきた物や他にも色んなものを、部屋の様々な場所に一通り置いて。また俺の所に戻ってきた。
「夜ご飯はどうする?」
「ん〜何か作る?」
「今冷蔵庫にあるのだと簡単な物しか作れないな…」
「卵にケチャップに玉ねぎ…オムライスにしよ!」
「おっけ〜じゃあご飯炊くか」
そして、炊飯器から内釜を取り出し、米を3合内釜に入れた。
「米はここね。1回押したら1合だから」
「はーい」
俺はさっと米を洗って炊飯を押して、75分後に米が炊けるようにした。
「じゃあどうする?なんか必要なの買いに行くか、歯ブラシとか買ってくんの忘れたし、スーパー行く?」
「行く!!」
俺と宇佐美は制服のまま、近くのスーパーに来た。
「金は俺が払うから、なんか必要そうな物どんどん入れてって」
「良いの?」
「金なら今1万はあるから良いよ」
最終的に5000円程の色んな食材や日用品を買った。
「ほんとに良かったの?全部梅野が払って」
宇佐美は申し訳なさそうに聞いてきた。
「マジで良いよ気にしなくて」
そんな事を言われても、宇佐美からすれば5000円払ってもらうのは後ろめたさもあるのだろう。
「なら勉強教えて、あんまし分かんないから。それで良い?」
「逆にそれで良いの?」
「全然良いよ」
俺は結構な量を買った日用品や食材をマイバッグに入れて、家に戻る。
「私が作っていい?」
「良いよ」
オムライスはそれ程難しい料理でも無いので、宇佐美が作る事にした。食材をまず準備して、チキンライスを作り始めた。
やはり包丁の扱い方は慣れているのか、危なげなく食材を切っていた。手際よくフライパンにご飯や玉ねぎも入れて炒めていく。
「見ててね?」
宇佐美がそう言うと、フライパンを振ってご飯が宙に舞った。
「おぉ!!」
「あっ…」
一瞬凄いと思ったが、宙を舞ったご飯の1部がどこかへ消えている。
「おい…ご飯が脱走してるじゃねぇか」
「い、今のは見なかった事に…」
その後はフライパンを振ったりはせず、木べらで大人しく作り、特に失敗も無く綺麗に2人分作ってくれた。
2人で向かい合わせに座り、机に置かれた綺麗なオムライスを見ていると、宇佐美はドヤ顔で何か言うことは無いのかと言わんばかりに見つめてきた。
「かなり綺麗だな。結構作ったりしてたの?」
「でしょ〜?たまに作ったりはしてたけど、今日のはめっちゃ上手くいったから!!」
「そっか、なら味は心配無いか」
「ちょっと何その心配」
そんな軽い小話をしてスプーンを持つ。
「「いただきます」」
スプーンでオムライスを掬って口に運ぶと確かに美味かった。ケチャップの程よい酸味と、鶏肉のがっしりとした旨み、そして玉ねぎの食感のアクセントと香りがしっかりと合わさったチキンライス。そしてそれを囲む優しい卵の味。
「美味いな…」
思わず思った事が口に出てしまった。俺の言葉を聞いて、宇佐美はとても嬉しそうにしていた。
「美味しい!?」
「うんめっちゃ美味い」
宇佐美の作ったオムライスはとても美味しく、一瞬で食べきってしまった。
「ごちそうさま」
宇佐美のオムライスはまだ3分の1程残っている。宇佐美はどうやら食べるのは遅い方のようだ。
「そうだ、学校での昼飯とかどうしてんの?弁当?」
「んーん、購買でパン買ったりしてる」
「そうなんだ、なんか意外だな。弁当とか食ってそうなイメージあるから」
「弁当とかは作る余裕あんまり無いから…」
「そうなのか」
宇佐美もオムライスを食べ終わったので、立ち上がって宇佐美の分の食器も洗い始める。オムライスを作って貰ったので、洗うくらいはしたかった。
使った食器を洗った後は風呂の準備をする。風呂に湯を入れ、宇佐美にどちらが先に入るか聞いてみる。
「先に風呂どっちが入る?」
「私後で良いよ?」
「じゃあ俺先に入るね」
そう言って自分の部屋に服を取りに行き、着替えの服を置いた後また宇佐美の居る所に戻る。宇佐美は何をしたら良いのか分からないのか、そわそわしている様だった。
ちょっと面白かったので、廊下からこっそり宇佐美の様子を観察する。
宇佐美はテレビをつけずにテレビのリモコンを持ってみたり、ソファに数秒座ってみたり、窓から外の景色を見てみたりしていた。少しして俺が見ている事に気づいたのかこちらに近づいてきた。
「やべ」
俺がリビングに戻ると宇佐美は少しムッとした表情で問い詰める。
「何!私の事観察して!!」
「いや面白かったから、つい」
「しょうがないじゃん!初めて来たんだから」
「てか、テレビとかつけて良いよ?このリモコンならテレビでサブスク系の見れるから、見たいやつあったら見ていいよ」
「良いの?」
「遠慮すんなって言ったじゃん。マジで気にすんな」
「じゃあ何見たら良いかおすすめ教えて?」
「え、お前マジで言ってる?俺オタクだぞ?アニメの知識しかねぇぞ」
「全然良い!!」
宇佐美は色んな事に興味を持ち始めた子供の様に、キラキラさせた目をしていた。とりあえず宇佐美の好みを聞くと、恋愛系が見たいと言っていたので、女性人気も高い平和な恋愛系アニメをおすすめして俺は風呂に向かった。
すぐにシャワーを終わらせ、湯船に浸かる。
(はぁ…今日1日は色々濃すぎる…なんか結構疲れたし…てか明日も学校だ…だるい…)
当たり前だが、宇佐美が俺の家に泊まっている事は学校の奴らにはバレると色々まずい。教師達には特に色々問題にされる可能性がある。たとえお互いの親の許可を取っているからと言ってダメな事だとされる可能性は高い。
お風呂から上がって、ヘアバンドで前髪をあげ、電子レンジのようなタオルウォーマーから温かいタオルを取り出し、顔を温めて洗顔し、化粧水と乳液を塗って、ドライヤーで髪を乾かした後、宇佐美に風呂が空いた事を伝える。
「ねぇこれめっちゃ好き!!」
宇佐美は俺が戻ってくるなり、俺が勧めたアニメがかなり好みだったようで、とても好きだとアピールしてきた。
「そっか、良かったわ。それ俺も好きだし」
「私お風呂入ってくるから、勝手に見ないでね!!」
「わかったから、なんか分かんない事あったら呼んで」
そう言って宇佐美はウキウキで部屋から自分の服を持って、お風呂に入った。40分程した後、宇佐美は綺麗なクリーム色の髪をタオルで拭きながらやって来た。
「ごめん、ドライヤーどこにあるか教えて欲しい」
「あぁ、それなら洗面台の横の棚に入って…る」
今まである程度ガードの硬い制服や私服しか見た事が無かったからなのか、それとも風呂上がりという状況のせいなのか、今の宇佐美はとても艶やかに感じた。
少し大きめのシャツに緩い長ズボンなのだが、控えめでありながらもしっかりと実った胸が、薄い生地のシャツによって胸より下がカーテンになり、とても強調されている…
そして髪を乾かしに行って5分程した後、髪を乾かした宇佐美がまた戻ってきた。さっきよりはいつもの様子に見えるが、それでもラフな姿はやはり特別感が強い物だった。
(これから1ヶ月はこれ独占出来るんだよな…)
「アニメの続き見る?」
「見る〜!!」
「そっか、じゃあ俺は部屋行くから、なんかあったらノックして」
「分かった!!」
その後はお互いしたい事を済ませて、眠りについた。あの後宇佐美は一気に全部見たそうでかなり楽しんだようだった。
「……て!…きて!起きて!」
朝から可愛らしい声が俺を起こしてくる。
アニメのアラームセットしてたっけ…そんな事を思いながらスマホをチェックしようとすると、目の前に人影が見えた。
恐る恐る視線を上げると、今すぐにでも学校に行けそうな程に準備を済ませた、いつもの様に可愛らしい姿の宇佐美が居た。
「あ〜…おはようございます…」
「早く起きて!準備しないと、遅刻するよ?」
「もうちょい眠らせて…」
「ダメ〜起きて!!」
恐ろしい主婦力というのだろうか、朝起きるのが苦手な俺が、早起きをしてしまった。
顔を洗ってリビングに行くと、既に朝食が並んでいた。昨日の残ったご飯が綺麗に朝食になっている。
「すげぇ…これは夢か?」
「夢じゃないから、ほら早く食べよ?」
先に食べてくれていて良かったのに、何故か宇佐美は俺が起きるまで待っていてくれていた。
「朝からこんなちゃんとした飯食うの久々だ…」
「も〜ちゃんと起きないからでしょ?」
眠い目を擦りながらも美味しい朝食を食べ終わり、朝からシャンプーをして歯を磨き、髪をセットして伊達メガネをかけて昨日の様に身だしなみを整える。
そしていつでも行ける準備をした宇佐美は、玄関前で俺の事を待ってくれていた。
「あ、そうだ渡したい物あるんだった」
俺が忘れ物を取りに行って、宇佐美に鍵を渡した。もちろんこの家の鍵だ。この先1ヶ月過ごすのだから、今のうちに渡しておかないと不便になる。
「ありがと…」
「あ、当然だけど学校で俺と同居してる事は秘密な?教師とか他の奴らにバレるとダルいし」
「うん…」
とりあえず伝えたい事も伝えたので、2人で学校に向かった。一気に同じ学校の生徒が多くなる辺りから、距離を少し離して探られないようにする。
そして学校に着き、俺は宇佐美の次の課題に向けて動き出す。
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